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40.モンスター狩りに行こう その四

 ゴブリンゴーレムを倒し、大樹の木の洞の前に一時の静けさが戻る。


「ふう……何とか……」


 セレスティアが安堵した様子で言った。彼女の額からは多量の汗が流れている。


「うぅ〜……」


 俺はというと、鼻血を垂らしたまま地面にへたり込んでいた。

 両腕の触手はとっくに解除されている。魔力切れの影響で意識が朦朧としていた。頭も痛い。目眩でフラフラする。吐きそう。


「ナガラ殿!大丈夫ですかっ?」


 俺がぐったりしていると、セレスティアが慌てて駆け寄ってくる。


「大丈夫大丈夫……魔力切れで頭痛と目眩と吐き気がするだけだから……」

『たわけ、それを大丈夫とは言わぬわ』

(先生!しっかり!)


 竜王が呆れ、アカツキが心配してくれている。ホント、全然大丈夫じゃない。


「ナガラ殿……すみません、私が不甲斐ないばっかりに、この様な無理をさせてしまって……」

「うぅ〜ん……」


 セレスティアはうめき声を上げる俺の前にしゃがみ込んで、申し訳なさそうな表情を見せてくる。


「う……」


 俺は何とか意識を保ちつつ顔を上げると、セレスティアの心配そうな顔と一緒に、彼女の剣が視界に入る。


 すると、彼女の剣はボロボロになっていた。

 どうやら先程のゴブリンゴーレムの一撃を受け流した時に歪んでしまったらしく、刀身が曲がり、刃もガタガタ。こりゃ、これ以上の戦闘は無理だな……。


「立てますか?」

「ちょっと動けない……回復するまで休ませて……」

「はい……」


 俺はそう言いながら地面に寝転がった。

 まだ敵地であると言うのにこうやって無防備を晒すのはとても宜しくないんだが、如何せん身体がダルい。申し訳ないが休ませて貰おう。


 セレスティアは俺の横に座り込んで、心配そうにこちらを見つめていた。


「ナガラ殿、寝ながらで構いません。先程のゴブリンゴーレムについてですが……あれはティレジア教団の仕業で間違い無いと思います」


 隣のセレスティアがそう切り出してくる。

 俺はぼやけた視界で森の空を見上げながら答えた。


「さっきの"閉じかけの瞳"の紋章か?アレがティレジア教団の?」

「はい。あれは間違いなくティレジア教団のものです」

「ティレジア教団……最近このノマリ地方周辺で活発化してるって言う、邪神信仰のカルト集団か……その連中がゴブリンにアイアンゴーレムの琥珀魔石(アンバー)を与えて、何をしようってんだか」

「恐らくですが……戦力を集めているのでは……」


 セレスティアが重苦しい雰囲気で話す。


「戦力?ゴブリンを戦力にねえ?アイツラが大人しく人の言う事聞くタマかねえ?」


 セレスティアの意見に疑念の声を上げる俺。


 ゴブリンと言えば短絡的で残忍なモンスターだ。

 人も襲うし家畜も襲う。食える物なら何でも襲う。同じゴブリンすら殺し合う事があるくらいだ。

 そんなゴブリンをどうやって統制し、兵力にするというのか。


「ティレジア教団は、過去にも幾度かゴブリンを使っての騒ぎを起こしています。手口は毎回異なりますが……恐らくは、何らかの方法でゴブリンを支配下に置いているのではないかと……」

「ほぉ?なるほどねぇ……ゴブリンを操る秘術があると。それなら納得だ。アイツラどっからでも湧いてくるし」


 セレスティアの言葉を聞いて俺は頷く。


 ゴブリンは繁殖力が高く数も多い。アイツラの繁殖力は異常で、放っておけば際限なく増えていく。だからどの街も、ゴブリンは発見次第討伐する事が推奨されている。

 ティレジア教団の狙いは分からないが、ゴブリンにアイアンゴーレム化の琥珀魔石(アンバー)を与え、その大群を意のままに操る事が出来れば、確かにそれは立派な戦力だ。数次第だが下手な小国は落とせるかもしれない。こりゃあ厄介だ。


「うーん……ゴブリンを意のままに操る秘術、か……面倒くさい話になりそうだなぁ」

「そうですね……ですが、もし本当にそんな秘術があるのなら、それは決して野放しには出来ません」


 セレスティアが真剣な表情で返事する。

 まあ、確かにその通りで、そんな秘術があればやりたい放題出来るだろう。しかも相手は邪教のカルト集団。ろくでも無い連中の集まり。やだねえ、やだやだ。


「っと……そういう本格的な対応はルミナス聖騎士団の皆さんに任せますよっと」

「ええ、勿論です!ティレジア教団が絡んでいると分かった以上、聖騎士団の総力を上げて対処します!お任せください!」


 セレスティアは力強く頷いてみせた。頼もしい限りなこって。


「っと、そろそろイケるかな?」


 俺はそう言いつつ、立ち上がろうとする。

 まだ少し目眩がするが、なんとか動けるくらいに魔力が回復しててきたのだ。


「ナガラ殿大丈夫ですか?もう少し休んでいても……」

「そうも言ってられないでしょ、ここ敵地の真ん前なんだし」

「それもそうなのですが……」


 俺はまだ心配そうな顔をしているセレスティアの手を借りてゆっくりと立ち上がった。


「はいありがとさん……いやしかし、するってーとアレだな」


 立ち上がった俺は服の裾に付いた埃を手でパンパンと払いながら言う。


「なんでしょう?」


 セレスティアが首を傾げるので、俺はドヤ顔をして言ってやる。


「ゴブリンの巣に毒ガス流したのは正解だったな!」

「えっ」

「あの改造琥珀魔石(アンバー)がゴブリン共にバラ撒かれてたんだろ?毒ガス作戦して無かったら今頃アイアンゴーレム化したゴブリンの大群に襲われてるぜ?」


 俺がそう言うとセレスティアが複雑な表情を浮かべた。


「そ、それは……」

「流して良かった!流して良かった!毒ガス!毒ガス!イエーイ!」


 拳を振り上げながら喜ぶ俺。

 まだ体調は戻りきって無いので若干から元気気味だが、俺は深刻な言動をしているより軽口を叩いてる方がやりやすいのだ。


『ええい、外道め……』


 すると竜王が俺に向かって毒づいてくる。


「誰が外道じゃい。これだって立派な作戦だよ?効率と安全を優先するならばだ?モラルの1つや2つは投げ捨てるっていう、なあアカツキ?」

(え?あっ、は、はいっ!覚えておきます!)

「よーしよしよし」


 アカツキは戸惑いながらも返事を返してきたので、俺は満足する。

 完全に腑に落ちた訳じゃなさそうだが、参考にはしてくれるようだ。汚かろうが選択肢は多い方が良いのよね〜?


「それじゃ、さっさと中に入るか。換気はしたし、中のゴブリン共も全滅してるんだ。何の問題も無いってねえ」


 俺は立ち上がってそう言った。


 しかし、セレスティアが急に俺の前に出た。

 俺は驚きながらセレスティアを見あげる。


「え?何?」

(さ、3体……?)


 脳内のアカツキの驚きの声を聞き、ふと横を見てみると……森の木々をバキバキとなぎ倒しながら、3体のゴブリンゴーレムが現れたのだった。


 ~~~


 俺達の目の前に現れた3体のゴブリンゴーレム達。

 もはや満身創痍と言っていい状態の俺たちにとって、それは絶望的な状況だった。


「嘘ぉ……?」

「くっ……まさか外にこんなに残って居たなんて……」


 セレスティアが剣を構える。

 だが彼女の鋼の剣は先ほどのゴブリンゴーレムとの戦闘でボロボロになっていた。これでは戦えないだろう。


 一方の俺はまだ魔力切れの後遺症でふらついている状態だ。

 厄介者の手(ヌーサンスハンズ)は使えても1回が限界かってところで、次に魔力切れを起こせばほぼ確実に失神する。


 よって非常にマズい。勝ち目が無い。こりゃ不味い。ええ、不味い。

 そんな事を思っていたら、


「ギギッ!ギヒィーッ!」

「ギャッギャッギャッギャ!」

「ギヒヒヒィーーッ!」


 とまあ、3体のゴブリンゴーレムは俺達を見て、嬉しそうに笑いながらドスドスと近づいてくる。

 まるでお気に入りの玩具を発見した子供みたいに、楽しげな笑みを浮かべながら。


「やっべえ。ヤツら俺らで遊ぶ気満々だ」

「ナガラ殿!逃げて下さいっ!」

「逃げろったってぇ?セレスティア!お前はどうすんだよ!?」

「私が時間を稼ぐので、その間に!」


 セレスティアが真剣な表情を浮かべながら叫ぶ。


「いやいやいや何言ってんの!?あのゴブリンゴーレム3体を1人で足止めとかできるわけないでしょうが!?殺されるぞ!?」

「いいですから早く!」

「良くねえよ!?全然良くねえ!お前も逃げろよ!」

「ダメです!一度護衛引き受けた以上、貴方とアカツキくんをここで死なせる訳にはいかないっ!何よりアリシア教官に申し訳が立ちませんっ!」

「だーからって!お前が死んじゃダメだろ!?一緒に逃げるんだよ!」

「嫌です!私が囮になりますっ!だから早くっ!」

「早くはお前だ!おばか!」


 俺は怒鳴りながら必死に説得するが、セレスティアは頑として譲ろうとしない。

 全く、だから教会の人間は嫌いなんだよ。自己犠牲精神の塊め。融通が利かないのにも程があるぞ。


「ともかく、早く逃げ……ぐっ!?」


 俺とセレスティアが言い合いをしていると、セレスティアはそこで言葉を切った。

 突然、彼女の顔色が真っ青になったかと思うと、そのまま膝から崩れ落ちた。まるで力が抜けたように、その場にへたり込んでしまったのだ。


「セレスティア!?どうしたっ!?」


 俺は慌てて彼女に駆け寄る。

 するとセレスティアは苦痛に歪む顔を隠しきれず、かろうじて左手で体を支えていた。

 俺が彼女に近づくと、右腕をかばうようにして胸元に抱え込んでいるのが目に入る。俺は冒険者としての経験則からすぐに勘づいた。


「お前っ!いつから腕折ってた!?」

「さっき……最初の1体と戦った時に……」

「最初からじゃねえか!」


 セレスティアは青ざめた表情のまま答えた。

 どうやら彼女、最初にゴブリンゴーレムに殴られた時に既に右腕を骨折していたらしい。


「それならそうと最初っから言ってくれればいいのに!?なんで我慢しちゃうかなぁ!?この子はさぁ!?」

「すみません……っ」


 俺が呆れ気味に叫ぶと、セレスティアは今更ながらに申し訳なさそうに謝ってきた。


 困る、困るよー?怪我の過少申告は後々の重大なリスクに繋がりうる。

 よって冒険者間では絶対に行っちゃいけないんだが、カッコつけたがりの冒険者や、プライドの高いお貴族様なんかがよくやってしまうのだ。


 セレスティアも聖騎士の騎士階級だ。

 聖騎士のプライドに掛けて、ゴブリンなんかに手傷を負わされた、なんて言いづらかったのかも知れない。

 まあ、だからと言って報告をあやふやにされちゃこっちも堪らんのだが。


「あーっ!もうっ!」


 俺は溜息を吐きつつ腹を括った。

 セレスティアに文句の1つ2つは言ってやりたいところだが、そんな状況じゃない。文句は生きて帰ってからでいい。


「アカツキ!」

(はい!先生!)


 俺は脳内のアカツキに問いかけると、彼は即座に返事する。


「セレスティアを置いて逃げるって言ったら、逃げるか!?」

(いいえ!)


 威勢よく答えるアカツキ。

 即答である。参ったねえ、先生逃げ道無くなっちゃったよ。じゃあ仕方ないねえ〜?


「よぉし!よく言った!おい竜王!保険あんだろ!出せ!」


 俺はそう叫び、竜王に取り置きの魔力を解放するよう要求した。

 竜王には、アカツキの身体からネコババしてる分の魔力がある。その貯蓄分の魔力を使えば、あのゴブリンゴーレム3体くらいどうとでもなるだろう。

 もっとも保険と言うだけあって、それは最後の手段である。ゴブリンゴーレムが3体で終わらなかった可能性を考えるなら、保険分の魔力で逃げた方が得策か。


 などと俺が思案していると、


『いや待て、何か来る』


 妙に冷静な竜王の声が、俺の脳内に響いた。


「はぁ!?なんだよ!?何が来るって!?」


 こんな絶望的状況で助けてくれる存在なんて居ないぞ?それこそ勇者か英雄かでも現れない限り無理ゲーだろ?

 なんて思いながら叫ぶ俺。


 でも、その人は現れた。

お読みいただきありがとうございます。

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