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39.モンスター狩りに行こう その三

 淡い木漏れ日の中、栗毛色のツインテールが風に揺れる。

 白パンと干し肉の簡単な昼飯を食べながら、俺達はしばしの休憩時間を過ごしていた。


 俺はアカツキに身体の主導権を戻し、アカツキの中で魔力感知をしながら周囲を警戒していた。

 すると何やら小さな魔力が1つ、こちらに近づいて来ている事に気が付く。魔力の強さからして大したことは無いが、万が一って事もある。なので念のためにアカツキに声をかけた。


 〈アカツキ、9時の方向から何か来る。気を付けてって伝えて〉

「はい。セレスティアさん、9時方向から何か来るそうです」

「分かりました」


 セレスティアはサッと立ち上がって剣を構えた。すると木立の向こうから、ドタドタと騒々しい音と共に、ゴブリンが1体現れた。


「ギィヒィーーッ!?」


 現れたゴブリンは俺達を見つけるも、構わず走り去ろうとした。

 おそらく巣の外に居て、毒ガスの被害を免れた個体なのだろう。何か怯えている様子だが、逃してやる義理も無いので、


 〈ハンズ、引っ掛けろ〉


 と俺は触手に指示した。すると触手はプロペラ回転を止めてゴブリンの足を掬い上げる。


「ギヒィーッ!?」


 転倒したゴブリンが悲鳴を上げた。


「仕留めます」


 その隙にセレスティアが剣を構え、間髪入れずにゴブリンに斬りかかろうとした時だ。

 ゴブリンが何かを喚きながら、セレスティアに向かって右手を突き出した


「ピギャーー!」


 その右手の先には、不気味に輝く蜂蜜色の魔石があった。

 その時、俺の意識に嫌な予感が走り抜けた。


(ッ!?交代だ!アカツキ!)

「えっ?はい!」


 すぐさま俺はアカツキと身体を入れ替えると、触手を操作してゴブリンをセレスティアから引き離した。

 同時にセレスティアに声をかける。


「ヤツは琥珀魔石(アンバー)持ちだ!下がれセレスティア!」

「ひゃっ!?は、はいっ!」


 咄嗟にアカツキと身体を入れ替え叫んだ俺の剣幕に、セレスティアは一瞬驚いた。

 しかし、直後に俺が何を伝えようとしていたのか理解したらしく、彼女は素早く後ろに飛び退く。


 次の瞬間、ゴブリンの持っていた蜂蜜色の魔石がピカッと眩く輝き出し、光と共に何かが出現する。


「なっ!?これは……」

「クソッ、コイツは面倒くせえ事になる気がするっ!」


 俺は悪態をつきながら杖を構え、セレスティアと共に、目の前に出現したモノを見上げた。


 目が慣れるのを待ちながら、見えた姿を確認する。

 そこに現れたのは、巨躯の金属製の魔物。


 "アイアンゴーレム"。

 大きな斧と盾を持った巨大な体躯の鎧の騎士。

 全身が鈍色の鉄で出来たその姿は、まるで中世の騎士像のような風格がある。

 剣も魔術も弾く頑強な肉体は、鉄そのもので攻撃力は高い。が、反面、鈍重な動きしか出来ず知能も低い。ハズなんだが……


『闇魔術士、こやつは……』

「チッ!やっぱり面倒くせえ!ああそうだ!あのゴブリン!アイアンゴーレムと融合しやがったッ!」


 竜王の声を聞きながら、俺は舌打ちする。


 俺たちの目の前に出現したアイアンゴーレム。

 ヤツの胴体には不気味な"閉じかけ瞳"のような模様が刻まれ、頭部の兜からは、ゴブリンの目玉と口だけが飛び出した異様な様相を呈していた。

 要するにさっきのゴブリンは、ゴブリンとアイアンゴーレムの融合体に変化したのだ。とりあえず"ゴブリンゴーレム"とでも呼ぶか。


 ゴブリンが手にしていたのは、琥珀に似た黄褐色の魔石、琥珀魔石(アンバー)と呼ばれる特殊な魔石の一種だ。

 この石に魔力を通すと、魔石に封じられた魔物に変身する事が出来る。……のだが、目の前のゴブリンとアイアンゴーレムの融合体を見る限り、何か手を加えられているのは確実だ。


「あの紋章はまさか……!?くっ、はああっ!」

「あ゙ー!?ちょまっ!?」


 セレスティアは俺の制止の声も待たず剣を構え、飛び上がってゴブリンゴーレムに斬りかかった。

 セレスティアの一撃が、ゴブリンゴーレムの頭を捉える。

 だが敵は……案の定と言うか、予想以上に素早かった。


「ギギッ!」

「!?」


 ゴブリンゴーレムはセレスティアの攻撃に機敏に反応し、彼女はゴーレムの盾に殴り飛ばされる。


「あぐっ!?」

「あ゙あ゙もう!だから待てって言った!」

(先生!セレスティアさんが!)

「あいあいよぉっ!【厄介者の手(ハンズ)】!」


 脳内のアカツキに叫び声に応えるように、俺は悪態を吐きつつも、咄嗟に右腕から2本目の触手を発生させた。

 そして吹き飛ばされているセレスティアを触手でキャッチして、受け身を取らせる。


「セレスティア!大丈夫か!?」

「すっ、すみません……はい、なんとか……」


 そのままセレスティアに駆け寄る俺。

 セレスティアは俺の触手の助けを受けて起き上がった。

 彼女は俺を見て一瞬申し訳なさそうな表情を見せたが、すぐに真剣な表情に変わる。


「あれは……ティレジア教団の紋章です!あのアイアンゴーレムは……おそらく……っ!」


 セレスティアがゴブリンゴーレム睨みつけながら言う。

 ティレジア教団と言えば、最近このノマリ地方周辺で活動を活発化させているっていう例の連中だ。


「なるほどねえ?つまりそのなんちゃら教団さんは、ゴブリンにあんな改造品の琥珀魔石(アンバー)を与えて、便利な手駒にしようって魂胆な訳だな?」

「恐らくは……っ」


 俺の予測を聞いたセレスティアは、苦虫を噛み潰したような顔をして答える。


 そんな中、ゴブリンゴーレムはゆっくりと俺達に振り向き、


「ギャッギャッギャッ!」


 と勝ち誇ったように笑い出した。


「チッ、ムカつくなコイツ……」


 ヤツの笑いに無性に腹が立った俺は、嫌悪感を隠しもせずに悪態を吐いた。


 アイアンゴーレムはその巨体と頑丈な装甲故に強力なモンスターだ。大きさだけならあのヴェルデアーマーすら超える。だが鈍重かつ知能が低いため、付け入る隙がある。

 しかし今目の前にいるコイツは、ゴブリンと融合したことにより、その速度と柔軟性、そして悪知恵が大きく向上しているようだ。コイツは絶対面倒くせえ〜。


「くうぅっ……聖剣さえあれば、こんな相手っ……」

「はーっ!すいませんねえ!その聖剣は竜王のやつが壊しちまいましたからねえ!」

「はっ!?すみません、ルミナス様!責めている訳ではっ!」

『ぬっ?む、むう……いや、うむ……』


 セレスティアが思わず漏らした本音を聞いて、俺は嫌味ったらしく返事をする。

 慌てて謝罪を入れるセレスティアと、複雑そ〜な声を上げる竜王。


「いやそれよりも、アレどうする?」


 俺がそう言うとセレスティアはハッとして表情を引き締める。


「ティレジア教団絡みと分かった以上、放置はしておけません。何よりあんなゴーレムを放置すれば、間違いなく周辺の集落に被害が……って!?」

「ギャギャーッ!」


 セレスティアが喋ってる途中で、突如ゴブリンゴーレムは足を拘束していた俺の触手をブチブチと強引に引き千切り、盾と斧を振り上げながら猛然と襲いかかってきた。


「おはーっ!?クソが!作戦会議くらいさせろや!ハンズゥ!」


 そう叫びながら俺は右腕の触手を振り回し、ゴーレムの盾に巻き付ける。だが、


「うほあああっ!?」

『ぬおおっ!?』

(わああああっ!?)


 ゴブリンゴーレムはそのまま力任せに触手を引っ張って俺を引き寄せ、俺の身体は地面から浮き上がった。

 コイツの馬鹿力は凄まじく、俺の身体は軽々と宙に浮き、そのままコイツの斧の間合いに引きずり込まれる。


「くそっ!?解除だ解除!ってうおおあーっ!?」


 俺は咄嗟に触手を解除したが、勢い余ってそのまま空中を錐揉み状に回転しながら吹き飛ばされてしまう。


「うひゃあああーっ!目が回る!」

『たわけェ!しっかりせんかぁ!』


 竜王の声が頭に響く。コイツ、見てるだけなクセにうるさいな。


「【厄介者の手(ハンズ)】ゥ!回れっ!」


 俺は素早く詠唱し右腕に再度触手を発生させ、グルグルと回転させた。そして空中でバランスを取り戻し滞空する。

 しかしこれは隙だらけで、敵からして見りゃ空中に浮かぶ的みたいなモンだ。今の俺はまるでハエ叩きで叩き落されるハエそのもの。

 案の定、敵は素早くにこっちに向き直り、俺に向かって斧を振り上げた。


(やられるっ!?)


 ゴブリンゴーレムの攻撃動作見て、アカツキが命の危険を感じて叫ぶ。

 しかし、素直にやられてやる義理は無いってな。


「やられないっ!【沼化阻害(スワンプ)】!」


 俺は瞬時に魔術を発動させ、ゴブリンゴーレムの足元を小さな黒い沼地に変えた。


「ギッ!?」


 するとヤツの片脚がズブリと沼に沈み込み、ヤツがバランスを崩した。

 ヤツの振り下ろした斧が、盛大に俺の真横をブゥンと空振りしていく。

 風圧でツインテールが靡いた。肝が冷えるってレベルじゃねーぞ?


 でもこれで隙ができた。

 ゴブリンゴーレムは普通のアイアンゴーレムに比べると大分素早いが、斧の空振りを見逃すほど俺はトロくない。

 すかさず俺はセレスティアに向かって叫ぶ。


「セレスティアァ!」

「はい!……はああっ!」


 セレスティアは即座に俺の呼びかけに答え、ゴブリンゴーレムに斬りかかった。

 敵はワンテンポ遅れて反応し、盾を振りかぶってセレスティアを追い払おうとする。


「ギヒィ!」

「なんのっ!はああっ!」


 セレスティアはゴブリンゴーレムのシールドバッシュを咄嗟に身を屈めて躱し、ヤツの胴体に剣の一撃を叩き込んだ。


 森に大きな金属音が響き渡る。

 だがゴーレムの装甲はびくともしない。むしろセレスティアの剣の方が折れそうなくらいだ。


「くっ!やはりダメですかっ」


 セレスティアは後ろに跳び退きつつ悔しげに呟いた。

 流石に聖剣じゃないただの鋼の剣じゃ、アイアンゴーレムには傷ひとつつけられないか。


「ギャッギャギャーッ!」


 ゴブリンゴーレムが勝利を確信したのか高笑いした。


 おっとぉ?気分が速いぞ早漏野郎め。

 コイツは俺が真後ろでまだ浮いてるの忘れてる。

 じゃあ遠慮なくやらせて貰おうじゃないの。


「もっひとっつ!【沼化阻害(スワンプ)】!」

「ギッ!?」


 俺がは追加で魔術を発動させ、ゴブリンゴーレムのもう片方の足元を小さな黒い沼地に変えた。

 するとヤツの両脚が膝までズブズブと沼に沈み込んでいく。

 これでヤツはもう移動出来ない。ワハハ、デバッファー舐めんな?


「そんでェ!【厄介者の手(ハンズ)】ゥ!」


 俺の左腕から2本目の触手が召喚される。

 同時に、俺の鼻からブシュっと鼻血が噴き出した。

 はい、魔力切れです。頭痛い。

 だが弱音を言ってる暇はない。


「せーのっ!」


 俺は鼻血に構わず、勢いを付けるため身体を思いっきり後ろに逸らす。

 そして反動を付けて、触手を鞭のごとくゴブリンゴーレムの頭部に振り下ろした。狙うはヤツの生身の両目だ。


「ううぅりゃあーっ!」

「ギヒィッ!?」


 振り下ろした2本の触手。

 その2本がバチィンッと勢いよくヤツの頭部越しにヤツの両目を叩いた。

 ヤツは悲鳴を上げ、ゴトリと斧を地面に落とし、目を押さえて痛みに呻き出す。


 アイアンゴーレムの装甲は鋼鉄製だが、このゴブリンゴーレムは生身の目玉と口があるのだ。

 鋼鉄を触手で叩いたところで有効打にはならないが、生身相手なら話は別。わざわざ弱点を増やしてくれるなんて親切だねえ?


「ギヒィ……ギャアアアアッ!」


 ゴブリンゴーレムは怒り狂い、ヤツの背中に張り付いている俺を掴もうとしてきた。


「うおっっとぉ!」


 俺は俺を掴もうとしてくるゴブリンゴーレムの手をササっと避けた。


 ヤツは両脚を膝まで泥沼にはまらせている為、上半身しか動かせない。

 自分のクソ重い自重で両膝まで黒泥に嵌まったやつが、そう簡単に動ける訳がない。目も見えていない。今さっき触手でヤツの目は潰した。

 ついでに言うなら、アイアンゴーレムは背中に手が届くような柔軟な関節はしていねえんだよ。そんな状態で真後ろの俺を掴めると思うなよ?


「今だセレスティアァ!」

「はい!」


 これを好機と見た俺は、すぐさまセレスティアに声をかけた。

 すると彼女は素早く動き出し、剣を握り直して走り出した。

 ゴブリンゴーレムはまだ目が回復しておらず、彼女の接近に気付かない。


燦然(さんぜん)たる大天使ルミナスに願う!空を裂く聖なる閃光よ!全てを焼き払い邪悪を浄化せよ!」


 セレスティアは詠唱しながら剣を構えて地面を走る。

 徐々に淡く輝いていく彼女の剣の刀身。あれは闘気の光じゃないな?強い魔力を感じる。


「はっ!」


 そしてセレスティアは地面を蹴り、高く跳躍する。

 彼女は剣を大きく振り上げると、渾身の一撃をゴブリンゴーレムの口の中に叩き込んだ。


「やああーっ!」

「ギャッ……ッ!」


 ゴブリンゴーレムの生身の口にセレスティアの鋼の剣が突き刺さる。

 きったない悲鳴を上げるゴブリンゴーレム。


 だがそれで終わらせはしない。

 セレスティアはダメ押しのように両手で剣を握ったまま、


「【輝閃弾(グリマーショット)】ォ!」


 光弾の魔術を発動した。

 セレスティアの鋼の剣の刀身が一気のパァ……と強く光り出し、次の瞬間、剣から強烈な白い閃光が発せられた。

 そして、ゴブリンゴーレムの装甲の隙間から白い光の粒子が溢れ出た。セレスティアの光弾の魔術が、ゴブリンゴーレムの体内で爆発しているのだ。


「ギャアアアアアーッ!?」


 ゴブリンゴーレムが絶叫し、全身から炎と光を噴き出した。

 ゴブリンゴーレムの絶叫と共にセレスティアが剣を引き抜くと、俺と彼女は互いにそのまま後方へ飛び退る。


「ギ……ヒィ……」


 断末魔の叫びをあげながら、ゴブリンゴーレムはゆっくりと倒れていく。


 ズゥゥン……と大地を揺るがす振動と共に、ゴブリンゴーレムはうつ伏せに倒れた。

 やがてその巨体の各所にヒビが入り始め、そしてボロボロと崩れだす。

 そしてゴブリンゴーレムの崩れた跡からは、元のゴブリンの死骸が現れ、一瞬の後、その死骸も消滅し、後には砕けた2つの魔石が残った。

お読みいただきありがとうございます。

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