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38.モンスター狩りに行こう その二

 森の奥深くまで進むと、ゴブリンの巣はすぐに見つかった。

 俺たちはゴブリンに見つからないよう、巣から少し離れた茂みに身を屈めていた。

 

「うわぁ……凄い臭い……」

「静かに、気付かれます」

 

 アカツキは顔をしかめる。

 目線の先にあるのは、洞窟のようになっている大樹の洞。そこがゴブリン達の住処になっているようだ。

 そこから漂う臭気は、まるで動物の糞尿を混ぜてじっくり発酵させたような悪臭を放っている。

 

「ゴブリンは雑食なんです、食べ物も人や動物も何もかも」

「なるほど……」

 

 アカツキは悪臭の嫌悪感に顔をしかめながらも、セレスティアの話を聞いている。

 

「捕まったら最後、生きたまま貪り食われますよ?人によってはそれ以上の事も……」

「ひええ……」

 

 セレスティアは真剣な表情でアカツキに説明している。アカツキもそれに神妙な面持ちで聞き入っているようだ。

 

 〈20……30……まだ居るな……?〉

 

 一方俺は、セレスティアがゴブリンの説明をしてくれている間に、魔力感知で敵の数を把握していた。

 ゴブリンの魔力自体は感知できるものの、雑魚モンスター故にその魔力は非常に小さい。だから個別に識別するのは難しい。だが、その数は分かる。

 

「先生、ゴブリンの数はどれくらいか分かりますか?」

 

 アカツキは小声で俺に尋ねた。どうやらセレスティアも気になるようで、俺の言葉を待っている。

 

 〈……こりゃあ大漁だ。巣の中にゴブリンが50体以上はいるぞ。それも大物揃いだ。ここからじゃ正確な数は分からないけど、かなりの数が居る事は確か〉

 

 俺の言葉に、アカツキとセレスティアが顔を見合わせた。

 

「50体以上……」

「ゴブリンが50体以上ですか……」

 

 2人の顔が少し曇る。当然だ、ゴブリンといえども50体近い数に襲われたらひとたまりもない。

 だが、アカツキは覚悟を決めたようで、すぐに気を取り直した。

 

「よし、いっくぞぉ……」

 

 アカツキはそう言って、無謀にも巣に突撃しようとした。

 

「あっ、待ってアカツキくんっ」

 

 セレスティアが無謀な行動を取ろうとしているアカツキを止めようと声を掛ける。

 勿論、俺もアカツキを止めた。

 

「はいストップ」

(えっ?)

「ひっ!?」

 

 髪色を栗毛からピンク色に変えながら、ピタっと止まったアカツキの身体。

 俺が突然アカツキと身体を入れ替えると、セレスティアがまた驚いたように短い悲鳴を上げた。

 

「え、えーと、ナガラ殿……ですか?」

「うん、そうだけど……いやまたいきなり交代してゴメンね?セレスティア」

「あ、ああいえ……大丈夫です……」

 

 セレスティアは俺の急な入れ替わりにまだ慣れないのか、少し引きつった笑顔を浮かべている。うーむ、ちょっと傷つくなぁ……。

 

『闇魔術士、光の信徒に嫌われたか?ガハハハハ!』

「うっせ!黙ってろ竜王!」

 

 竜王が脳内で茶々を入れてくるので、一喝しておく。

 それはともかく、俺はアカツキを再度止め、諭すように言う。

 

「アカツキ、何も正面から突っ込む必要は無いんだぜ?」

(え、そうなんですか?)

 

 脳内のアカツキが不思議そうな顔をしたので説明する。

 

「そりゃそうさ、50体以上ものゴブリンが居る所に突っ込むなんて自殺行為みたいなモンだ。閉所で四方八方から多種多様なゴブリンに狙われて見ろ?ベテラン冒険者でも万が一の事故が起きるぜ?」

(えっ、えぇ〜?)

 

 俺の説明を聞いて驚くアカツキ。

 冒険者ですら無いただの村の少年であるアカツキに取って、モンスターの脅威度なんて分からないからしょうがない。勿論しょうがないで死なれたら困るので教えるのだが。

 

(じ、じゃあどうすれば……?)

 

 戸惑いながらも対応策を聞いてくるアカツキ。

 ちゃんと説明すれば従ってくれるのがこの子の良いところだ。

 と言う訳で、俺はまた茂みに身を屈めると、アカツキとセレスティアに作戦を伝える。

 

「よぉし聞け。まず巣の外部から攻めるだけ攻める」

「外部から?」

 

 隣のセレスティアが首を傾げる。

 

「ああ、外部から攻めて巣の中のゴブリンの数を減らす。そんで中のゴブリンの数が減ったところで、巣に突入して残った奴を叩く……残ってたらだけど」

「なるほど……理屈は分かりましたがどのような方法で?」

 

 セレスティアが頷きながら続きを聞いてくる。

 俺は勿体ぶらずに言った。

 

「それはな、毒だ」

「毒ですか……毒?」

 

 俺の答えにセレスティアが怪訝な表情を見せた。

 まあ毒なんかでどうやって攻略するのか想像つかないわな、フツー。

 

(先生、毒でどうやって攻略するんですか?)

 

 アカツキも不思議そうに聞いてくる。

 

「いいか2人共、ゴブリンの巣は何で出来てる?」

 

 俺の質問に2人は少し考えてから答える。

 

「木の洞ですね」

(木の洞ですね)

「正解、アカツキくんとセレスティアに10点」

(やったー!じゃなくて、それがどうかしたんですか?)

 

 アカツキが喜んだのも束の間、すぐに質問をしてきた。

 アカツキの奴め、最近生意気になったな?まあいい、そこが可愛いんだけどな!

 

「アカツキ、毒茨(ヴェノムソーン)の使い方を間違えるとどうなる?」

(えっと……毒が回って……あっ!そっか、木に……)

 

 アカツキは何か閃いたようだ。

 全く察しの良い所も好きだね。

 

「はいアカツキくん正解、20点」

「えっ?いったいどんな作戦なのですか?」

 

 セレスティアが戸惑いの声を上げたので、俺はセレスティアに向けてニタァっと邪悪な笑みを浮かべて言う。

 

「ヒッヒッヒ……毒ガスだよ毒ガス」

「ど、毒ガス?」

「その通り、毒茨(ヴェノムソーン)を木に打ち込んでやれば、樹液を通して木の内部まで猛毒が広がるんだ。後は樹液から気化した猛毒ガスが内部で充満して……哀れゴブリンは全滅ってスンポーってワケよ」

 

 俺の説明を聞いたセレスティアが、何か悍ましい物を見るような目で俺を見た気がする。

 だが俺は構わない。

 

「モラルより効率と安全だぜぇ?そもそもゴブリンなんてのはどんな殺し方しても誰からも文句言われねえからなあ……イッヒヒヒ……」

「ひいぃ……」

(うわぁ……)

『外道よなぁ……闇魔術士……』

 

 3人(2人と1匹?)から何やらドン引きされてるけど気にしない。俺はゴブリンに恨みなんてないが、これが一番手っ取り早くて安全なのだから仕方がない。

 俺達は早速作戦を開始することとした。

 

 ~~~

 

 俺はまたアカツキに身体を返し、アカツキに毒茨(ヴェノムソーン)で巣の周囲を包むように指示する。

 

「大地の呪縛、緑怨の茨よ、汝の力を我が意思に捧げ、我が敵を捕えよ、【毒茨(ヴェノムソーン)】!」

 

 アカツキは俺の指示通りに魔術を行使した。

 アカツキの両腕から複数の毒茨が出現し、ゴブリン達の死角から大樹に這い寄っては絡まり、次々と大樹に突き刺さっていく。

 そしてアカツキの毒茨から大樹の幹へと毒液が注入され、徐々に大樹はその幹から吐息の様に周囲に毒ガスを振りまき始めた。 

 

 〈よぉし、いいぞアカツキ。後はほっときゃゴブリン共は勝手に中毒死してく。アカツキはこのまま待機、セレスティアには周辺警戒を指示してくれ〉

「はい、先生!セレスティアさんは周辺の警戒を!」

「了解しました」

 

 俺の指示を聞いてアカツキがセレスティアに声をかけると、彼女は素直に従ってくれた。

 セレスティアは俺の毒ガス作戦にもっと反対するかと思っていたが、最初こそ嫌な顔はしたものの反論はしなかった。まあ、やっぱり相手がゴブリンだからだろう。あれは害虫みたいなモンだしな……。

 

 さて、しばらく待つと大樹からはギャアギャアという悲鳴と怒号と苦悶の叫びが聞こえてきた。

 どうやら毒ガスの効果が出てきたらしい。

 

「アカツキくん、この声は一体……」

 〈うん、断末魔、断末魔〉

「だ、断末魔だそうです……」

「そ、そうですか……」

 

 アカツキの答えに、セレスティアは引きつったような笑みを浮かべた。

 巣の中から重奏のごとく響くゴブリン達の悲鳴を聞いたせいか、流石の聖騎士様もちょっと心に来るものがあったようだ。

 まあ俺は平気だ。だって相手は所詮モンスターだし。

 

 〈まあゴブリン以外のモンスターも死んでるけどな!〉

「ゴ、ゴブリン以外も……?」

 〈うん、だがこれはゴブリン駆除の為の、致し方ない犠牲だ。恨むなら、同じ大樹に住み着いたゴブリンを恨んでくれってな?ワハハ!〉

「わ、ワハハ……?」

 

 大笑いする俺と、戸惑いの声を上げるアカツキ。

 

『貴様……やはり邪神の生まれ変わりなのでは無いか?』

 〈違うわい!お前は黙ってろ!〉

 

 俺は脳内で竜王を一喝した。全く冗談でも人を邪神扱いするもんじゃないぞ、失礼極まりない。

 

 ~~~

 

 俺達はその後もしばらく巣の周囲に陣取っていた。

 時折巣穴から脱出を図るゴブリンが居たが、セレスティアが容赦なく剣で斬り捨てていく。やっぱ聖騎士だけあって動きに無駄がない。

 

 そうしてしばらく待つと、巣穴からの悲鳴も途絶え、辺りは静寂に包まれた。

 魔力感知するも、内部に反応らしい反応は無い。どうやら巣の中に居るモンスターは全滅したようだ。

 

「これで全部ですか?」

 

 セレスティアがまだ警戒しつつも聞いてくるので俺は答える。

 

「ああ、全員中毒死、バッチリ全滅。イエーイ」

 

 俺はそう言いながらアカツキと身体を入れ替え、セレスティアに向かってピースサインを送った。

 

「い、いえーい……」

 

 セレスティアはちょっと引き攣った笑顔をしながらピースサインを返してくれた。律儀だねえ。

 

「さーて、このまま突っ込む……と、俺らも中毒死するんでぇ、換気するぞぉ~」

「そうですね、でも換気……?どうやって?」

 

 俺が宣言するとセレスティアが首を傾げて聞いて来た。

 俺は彼女を見ながら当然みたいな顔をして答える。

 

「触手を回転させて風を起こす」

「触手を回転……?」

 

 セレスティアがなんとも言えない表情で固まったが、俺は気にしないで杖を構えた。

 

「見てろ~?暗黒の大天使アスモデに願う、深淵を彷徨う闇人たちよ、現し世に顕在し、其の(かいな)で光を奪い取れ、【厄介者の手(ヌーサンスハンズ)】」

 

 俺はサクッと魔術を詠唱し、杖を軽く地面に突き立てた。

 すると木の洞の入り口に禍々しい魔法陣が出現し、まもなく入り口前の地面からニョキッと1本の触手が発生する。

 俺は片腕をグルグル回しながら、その触手に命令した。

 

「回れ〜ハンズ〜」

 

 すると触手はプロペラの如くギューンと高速回転し始め、木の洞の穴に向けて風を送り込み始めた。即席の触手扇風機だ。

 触手が風を送り始めた事で、徐々に洞窟内から毒ガスが流れ出し、代わりに外の空気が流入されていく。

 

「す、凄い……」

『デタラメをしおる……』

 

 セレスティアと竜王が何やら呆れたような声を出したが、今更今更。

 

(やっぱり先生の厄介者の手(ヌーサンスハンズ)はスゴく便利ですよね!僕も早く覚えたいです!)

 

 一方アカツキは興奮していた。うむ、将来有望だよぉアカツキは。 

 

「おっ、いいぞぉ、覚えろ覚えろ。じゃあこのまま1〜2時間待機。ちょうど良いから昼休憩とする。持ってきた弁当食おうぜ」

 

 俺はそう言ってその場に座る。

 腹も減って来たところだ。毒ガスも一気に換気出来るワケじゃない。休憩するには良い頃合いだろう。

 

(はい!お昼!)

「お弁当ですか、分かりました」

 

 アカツキとセレスティアも俺の意見に同意し、揃って休憩という事になった。

お読みいただきありがとうございます。

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