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37.モンスター狩りに行こう その一

 村はずれの森の中は、相変わらず暗かった。

 鬱蒼と生い茂る木々によって陽の光が遮られ、辺り一面薄暗い空気が満ちていた。

 モンスターの気配がウヨウヨする。


 そんな森の中を歩くのは、ケープ付きのシャツを着込んだ栗毛ツインテールの少年と、軽装の革鎧を着込んだ金髪の女聖騎士。

 アカツキはセレスティアと一緒に森を進んでいく。目的はモンスター退治とその魔石回収だ。


 道すがら、俺は周囲の様子を魔力感知で探りながら、頭の中でアカツキに話しかける。


 〈アカツキ、右前方に2体ほどの反応があるぞ、気をつけろ〉

『うむ、我も感じた。注意せよ』

「はい、先生、竜王さま。セレスティアさん、右前方に2体居るそうです」

「流石ナガラ殿ですね、感知能力が高いようで助かります」


 アカツキは真剣な表情で答え、杖を構える。

 セレスティアも剣の鞘に手をかけ、いつでも抜けるように構えた。


「ギギッ?」


 やがて、ガサリという音と共に木立の向こうから2体のモンスターが現れた。

 茶褐色のゴブリン2体だ。1体は手に棍棒のようなものを持ちギャーギャーとこちらを威嚇し、もう1体は弓を持っている。


「小さい……子供みたいな姿だけど、あれ何ですか?」


 アカツキがそう呟く。確かに大きさは人間の子供くらいで、アカツキとほとんど変わらないくらいだ。


「あれはゴブリンです。よく村にやってきては家畜や食料を盗んだりして迷惑をかけているんです。たまに人も襲われることがあるんですよ」

「へぇ~」


 セレスティアの説明にアカツキは興味深そうに相槌をうつ。


 〈あれっ?ゴブリン見たの初めて?〉

「はい、初めて見ました。何だろう?凄く醜悪な感じですね……」


 アカツキの率直な意見を聞きつつ、俺は首を傾げた。


 〈ゴブリンってよく村に出没するモンなんだけど、ノマリ村には出没しないの?〉

「え?村では見たこと無いですけど?」


 アカツキがそう答えた瞬間、セレスティアが声を上げた。


「アカツキくん!下がって!」


 セレスティアが声を掛けた直後、2体のゴブリンの内、1体が棍棒を振り上げて飛びかかり、もう1体はアカツキ達に向けて矢を放ってきた。


「うわぁっ!?」

「させるかっ!」


 驚くアカツキを守るように、セレスティアは剣を抜きざまに一閃させた。その一撃で、1本の矢が弾かれる。

 続けてセレスティアはもう1体のゴブリンに向き直り、剣を構えなおす。


「ギッ!?」

「はあっ!」


 ゴブリンは慌てて後退しようとしたが時既に遅く、セレスティアの鋭い斬撃を浴びて絶命する。


「わぁ……」

 〈アカツキ!魔術!魔術!〉

「……あっ!そっか!」


 セレスティアの戦いぶりに目を奪われていたアカツキだったが、俺の言葉で我に返り、慌てて杖を構え直した。

 もう1体のゴブリンは、戦況を不利と見たのか慌てて後退しようとしている。

 だがその前に、アカツキは魔術を放った。


「【毒茨(ヴェノムソーン)】!!」


 アカツキの右腕から複数の毒の茨が生え、逃げるゴブリンをシュルシュルと追尾していく。


「ギッ!?」


 必死に逃げようとするゴブリンだったが、アカツキの毒の茨があっさりとゴブリンを捕らえた。


「ギッ!?ギャーッ!?」


 そしてゴブリンの背中に次々と毒の棘が突き刺さり、やがて動きを止めた。全身を猛毒に冒され、断末魔の叫びと共に息絶えたのだ。


 それを確認して、俺はアカツキに声をかける。


 〈お疲れアカツキ、モンスター初討伐だな。おめでとう〉

「は、はい……ありがとうございます……」


 俺の労いの言葉にアカツキはぎこちなく答え、ふうっと大きく息を吐いた。

 どうやら俺が思ってたよりも緊張しているようだ。こりゃセレスティアに付いてきて貰って正解だったな。


「ふぅ……アカツキくん、お怪我はありませんか?」

「はい、大丈夫です。セレスティアさんこそ怪我ないですか?」

「ええ、問題ありません。……それにしても」


 セレスティアはそう言って、毒の茨に巻き付かれたゴブリンの死骸を見下ろした。


「流石ナガラ殿の弟子だけありますね。あの年齢で毒茨(ヴェノムソーン)が使えるなんて……」

「いや、土魔術は俺教えて無いから。毒茨(ヴェノムソーン)はアカツキが自分で覚えたんすよ」

「ひっ!?ナ、ナガラ殿、いきなり入れ替わられると少し驚きますので……」


 セレスティアが突然ピンク色に変わった俺のツインテールを見てビクッと身体を震わせた。

 俺が急にアカツキと身体を入れ替えたのに驚いたらしい。


「ああ~?うん、ごめんね?」

「あ、いえ、お構いなく……」


 セレスティアはそう言って苦笑いする。まあいきなり隣にピンクの悪霊が出て来たらビビるよねぇ?


 〈ひっ!って言ったよな?そんな怖がらなくてもいいじゃんね?〉

『貴様がメス騎士にやった事を鑑みれば妥当であろう?』

 〈まあはい……〉


 俺は心の中でボヤくも、竜王のツッコミを受けて同意するしかなかった。


 そんなちょっと傷ついた気分になりつつ、俺もゴブリンの死体を覗き込んだ。

 すると間もなく、ゴブリンの死体が消え、跡に小さな紫色の魔石が転がり落ちる。


「……死亡確認、ヨシ。アカツキ交代ー」

「はい」

「おお……今度は髪が栗毛色に戻りましたね……」

「先生が入ってるとピンク色で、僕だと栗毛色なんですよね」

「わ、分かりやすくて助かりますが……」


 俺が再度身体をアカツキに明け渡すと、アカツキのツインテールが再び栗毛色に戻り、セレスティアが少し困惑したような声を上げた。


 まあ目の前でコロコロ入れ替わられると戸惑うのは分かる。でも俺とアカツキが入れ替わるのは一瞬なんだ、セレスティアにはどうか慣れて貰いたい。


 それはともかく、アカツキは地面の魔石を拾い上げた。

 それは直径3センチほどの、歪な形の小さな魔石だ。売っても大した金額にならない、木っ端な魔石。


「小さいですね?これが魔石ですか?」

「ええ、魔紫石(レリクス)と呼びます」


 アカツキの問いにセレスティアが答えた。彼女は更に言葉を続ける。


「この魔紫石(レリクス)はモンスターの核となる部分で、モンスターが死ぬと魔石に変わるんです」

「へえ~そうなんですか」


 セレスティアの解説に、アカツキは興味深そうに頷く。


「ちなみに、魔紫石(レリクス)の質や大きさはその魔物の強さによって変化します。今回のゴブリンのように、弱い魔物から得られる魔紫石(レリクス)は質が悪く、大きさも小さいので、あまり価値が高くありません」

「はーそうなんですね」


 セレスティアの話を聞きながら、アカツキは手の中にある魔石をまじまじと見つめる。


「先生、これを幾つくらい集めたらいいんでしょうか?」


 アカツキは今回のモンスター狩りの目的を確かめる様に、俺に尋ねてくる。

 俺はアカツキの頭の中で竜王と相談した。


 〈竜王、コレどれくらいあったら良いと思う?〉

『うーむ、こうも小さくてはなあ……10や20では何の足しにもならんぞ?』

 〈だよなあ……これだけなら最低でも100個以上、出来ればもうちょっと大きいのも欲しいよなあ……〉


 俺達が頭の中で相談し合っている間、アカツキは黙って待っていたが、やがてセレスティアが声をかけてきた。


「アカツキくん、ナガラ殿は何と?」

「あ、はい、最低でも100個以上、出来れば大きいのも欲しいって言ってます」

「100個以上ですか……となると……」


 セレスティアはアカツキの言葉を聞いて少し考え込む。

 それで彼女はすぐに何か思いついた様子で、アカツキに問い始めた。


「……アカツキくん、ゴブリンの巣に突撃する覚悟はありますか?」

「ゴブリンの巣ですか……?」

「はい、ゴブリンの巣には多くの個体が居ますから、そこに行けば魔紫石(レリクス)を大量に手に入れることが出来ます。更に普通のゴブリンより大型のゴブリンも居ますからもっと大きな魔紫石(レリクス)も手に入るのですが……どうしますか?」


 セレスティアが提案するが、その表情は少し硬い。恐らくリスクが高いと思っているのだろう。俺もそれには同感だ。


 アカツキはまだ魔術を覚えたばかり。

 さっきのゴブリン戦を見た限りでは、下手をすると俺が促してやらないと動けない。まあ要するに実戦慣れしていないのだが、あれがモンスターとの初戦闘となるのであれば当然か。

 そんな状態でいきなりゴブリンの巣に突撃するのは当然のこと危険。下手をすればセレスティアの足を引っ張って全滅、なんて事になりかねない。

 しかし、それでも魔紫石(レリクス)は欲しい所。ここで引いてしまうと、いつまで経っても魔力体で動けない。


「アカツキくん、ここは無理をせず……」


 セレスティアがアカツキに声をかける。だが、アカツキは真っ直ぐな眼差しを向け、こう言った。


「行きます!」

「アカツキくん……」


 セレスティアは心配そうな表情を浮かべたが、アカツキは決意のこもった声で続けた。

 その眼差しを受けてセレスティアは覚悟を決めたのか、アカツキに向き直る。


「分かりました。そこまで仰られるのであれば、私も協力を惜しみません。ただし、無理だけは絶対にしないでくださいね?約束してください」

「はい、約束します!」


 アカツキは力強く答えた。

 セレスティアもその言葉を聞いて、ようやく安心したように微笑む。いやあ、流石は現役の聖騎士、

頼りになるねえ?


 こうして俺達はゴブリンの巣へ向かう事に決めたのだったが……


 〈……なあ竜王〉

『何だ闇魔術士』

 〈もしかしてセレスティア居たら俺要らないんじゃねえ?〉

『我もそう思うぞ』

 〈そこは否定してくれよ……〉


 などと俺は竜王に言って、肩を落としていた。


 俺のアカツキへの家庭教師の仕事、今はほとんどセレスティアがやっている。

 何せ隣に居るセレスティアが何でもすぐ教えてくれる。モンスターの説明から魔紫石(レリクス)の事まで何でも教えてくれる。そして凄く分かりやすい。俺が解説する隙間がねえ。

 ……まあ、楽できるのはいいんだけども。ちょっと、家庭教師としての俺の存在意義がですね……?


『ガハハ!やはり光の信徒である聖騎士は博識であるなぁ!なぁ闇魔術士ぃ!?』

 〈テメエ!ケンカ売ってんのか!?買うぞオラァ!〉

『グエーッ!?』


 俺はニヤニヤ笑う竜王にムカついたので、ヤツの首を絞めておいた。

お読みいただきありがとうございます。

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