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29.森の機動兵器と女聖騎士 その八

 ベビードラゴン姿で飛行する俺達は、地面スレスレのところで落下するセレスティアの両肩に足を掛け、爪で彼女をガッシリと捕まえて落下を止めた。

 そして翼をバサバサと動かして、再び飛翔する。

 

「ひあああっ!?……あっ!?ルミナスさまッ!?」

 

 セレスティアが目を開け、竜王を見て喜んだ。

 

 しかし竜王は、

 

『ふんっ!ぬううっっ!ええいっ!重いわ〜っ!その剣を離せェーッ!』

 

 セレスティアを抱えた途端にそんな泣き言を口にする。

 

 なんと、彼女は刀身が半分以上削られてしまった聖剣をまだ握りしめていた。

 

 まあ実際問題、今のベビードラゴン状態な竜王では、セレスティア1人を運ぶのもかなりキツい。竜王が泣き言を言うのも無理はない。

 

「そ、それは……出来ません!この聖剣は、教会に仕える者としての証明!私の誇りですから!」

 

 セレスティアは涙ぐんだ声で、聖剣を離さない理由を訴えてくる。

 この状況でこの融通の利かなさ。流石は教会所属の聖騎士と言ったところ。

 

『命か剣か!どちらか選ばぬか!?』

「うぅぅ……それでも……この剣は私の誇りで……」

『何が誇りか!剣の1本や2本が何だと言うのだ!小賢しいわッ!フンッ!』

「ひあぁっ!?あっ!」

 

 なんかゴンッと良い音がしたぞ?

 と思えば、怒鳴る竜王がセレスティアの脳天にゲンコツを落としていた。

 そしてその拍子に、セレスティアが聖剣をポロッと取り落としてしまった。

 

「あぁ〜っ!?」

 

 セレスティアが泣きそうな声を上げた。

 彼女の視線の先で、聖剣が異空間に落ち、バラバラに分解されていく。

 

『ふんっ!これで少しは軽くなったなッ!』

「わ……私の聖剣が……」

 

 竜王が満足そうに叫ぶ隣で、セレスティアは悲しげに手を伸ばしている。だが、もう聖剣は跡形もなく消え去ってしまった。

 

「わァ……ァ……」

『泣いちゃったぞ?』

『知らぬわ』

 

 グズグズと泣き出してしまったセレスティア。俺の問いかけに、冷たく言い放つ竜王。

 

 セレスティアは、聖剣を無くしたのが泣いてしまうほどショックだったようだ。

 ま、まあ、命あってのモノダネだ。聖剣の1本2本、失っても仕方ない。うん、仕方ないね。

 

 そんなこんなで、ベビードラゴンな俺達は泣きじゃくる女騎士を運びながら上昇していく。何とも情けない光景である。絵面的に。

 

 それから竜王は、セレスティアを近くの地面に下ろした。

 

「あっあっ……ありがとうございます、ルミナスさま……うっうっ……私の聖剣……」

 

 セレスティアはへたり込んだまま、竜王を拝むように見つめる。その目はまだ泣き止んでおらず、聖剣に未練があるようだ。

 

「うぐっ……はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ……」

 

 方や竜王はセレスティアを下ろすと、地面に降り立って肩で息をしていた。どうやら重量的に結構キツかったらしい。

 

 俺はそんな竜王に労いの言葉をかけ……

 

 〈お疲れさ……いやまだァ!?〉

『こっ、今度はなんだああっ!?』

 

 いや、まだやるべき事があると伝えた。

 何故なら空から、

 

「せ、先生!お、落ちっ!?」

 

 と言うアカツキの叫びが聞こえたからだ。

 

 アカツキは暗闇の手の制御に成功し、自分の背中から生えていた暗闇の手を解除、消失させていた。

 だが、そのせいでアカツキの身体を空中に固定していた暗闇の手が無くなったらしい。

 結果、アカツキの身体は当然の物理現象として、空から落下していると言う訳だ。

 

「僕落ちますうううっ!」

 

 叫ぶアカツキ。そのままの格好でまだ異空間の広がる地面に真っ逆さまに落ちようとしている。

 

 〈あーっ!?アカツキーッ!?〉

『ええーいっ!忙しい連中だッ!』

「はひいっ!?」

 

 竜王はすぐに飛び上がり、両脚で落ちるアカツキの身体を掴まえた。アカツキの腰に差してあった杖がポロリと零れて、異空間の中に落ち、バラバラ分解されていく。

 竜王はそんな杖には構わずそのまま上昇して、安全圏まで運んでからアカツキを下ろす。

 

「あ、ありがとうございますっ!竜王サマ!」

『はあっ……はあっ……はあっ……ぐふっ……』

 

 竜王は再び地面に降りたところで、ぐったりと倒れて横になった。

 もう礼を言うアカツキに応える余裕もなく、ヘトヘトの様子である。

 

 〈今度こそお疲れさんだ、竜王〉

『疲れた……我はもう動かんぞ……』

 

 竜王が疲れを隠そうともしないでそう言った。

 だがまあ、今回は竜王のお陰で大事には至らなかったし、労うのは当然だろう。竜王頑張った、エライエライ。

 

 竜王の頭でも撫でてやりたい気分だったが、今の俺は竜王の身体と一体化しており、バテている竜王の身体を動かす事は出来なかった。ちょっと残念。

 

 それはともかくとして、だ。

 俺は改めて周囲の様子を伺った。

 

「うぅ〜……私の聖剣……」

 

 まずセレスティア。

 彼女は半裸のズタボロの状態で座り込んでいた。

 聖剣も無くしてしまったので、もう戦闘どころじゃない。彼女の戦意は既に失せている。こっちに敵対して来ることも無いだろう。

 

『はぁー……はぁー……はぁー……はぁー……はぁー……』

 

 次に竜王。

 ヤツは地面に寝転がったままだ。もう動く気配が無い。

 ここまで疲弊している竜王は見たことが無いので、これは珍しいものが見れたかもしれない。もうしばらくは動きたくないらしい。今も横たわったままである。

 

「んぐ……先生?竜王サマ?大丈夫ですか?」

 

 そんな中で1人だけ元気なのが、アカツキだ。

 アカツキは鼻血を拭いながら、俺と竜王の心配をしていた。両腕からアカツキ自身が喚び出していた毒の茨も消えていて、さっぱりした状態である。

 

 そんなアカツキが俺達を指差して言う。

 

「あの、竜王サマの身体が透けて来てますけれど……」

『何?』

 

 アカツキのその発言を聞いた竜王が自分の手足を見ると、確かにその身体は透き通っていた。そして竜王が突然焦りだす。

 

『いかんッ!?もう保たぬかッ!』

 

 竜王が慌てて起き上がり叫ぶ。

 なんでそんな狼狽してんのか分からない俺は、呑気に竜王に言う。

 

 〈何焦ってんの?魔力体なんか消えたってどうせ実体に戻るだけなのに……〉

『焦って当然であろうッ!今我らに実体は無いのだぞ!?それに貴様と魂が癒着しているせいで今は転生機能も壊れたままだ!このままでは消滅してしまうっ!』

 〈……ほああああっ!?ヤッベ!?ヤッベ!?〉

 

 竜王に言われて気付いて俺も叫んだ。

 

 実体の無い俺達が魔力体を無くしたらどうなるか。

 ……無ってやつ。何にも無くなるの。魂すら消滅して、転生すら出来なくなるの。怖いね。

 

「どうしたんですか?」

『戻れッ!戻れッ!』

『ヤッベええ!消滅するっ!マジで消滅するッ!』

「え?消滅ですか?」

『そうだっ!消えるっ!我らの魂ごと消えてしまうのだっ!』

『キエタクナーイ!キエタクナーイ!』

「わあああっ!?ちょっ?ちょっと!?先生!?竜王サマ!?」

『『戻せ(して)っ!戻せ(して)っ!』』

 

 俺と竜王は大急ぎで二人して、困惑するアカツキの服の中に潜り込んだのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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