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27.森の機動兵器と女聖騎士 その六

「あり得ない……私は聖剣の力を全て解放したハズなのに……」


 セレスティアは目の前の状況を見上げて呆然と立ち尽くしていた。


 彼女が渾身の力で放った聖法闘気の必殺の一撃。それが目の前であっさり消滅していくのを見たのだ。セレスティアにとって、その事実は到底受け入れられるものでは無い。


「何なの、あの少年……」


 そう呟いたセレスティアの見上げた先で、バクタは空中に浮遊しながら何やら叫んでいた。

 バクタは背中から禍々しい暗闇の手を幾つも生やし、発生した異空間から更に大量の暗闇の手を召喚し続けている。


 セレスティアにとって、バクタは想像を超えた異次元の脅威となっていた。


 3体のヴェルデアーマーをあっさりと屠ったかと思えば、触手が巻き付いていたとは言え片腕で聖剣の剣撃を防ぎ、あまつさえ聖剣による奥義の一撃まで消滅させ、今、目の前で不気味な異界を拡大し続けている。


 もはやアレはタダの可愛らしいピンク髪の子供ではない。

 ましてや深淵の闇(ティルアビス)の使徒などという枠に収まる存在でもない。その脅威はこの世界の理を超越している。


 言うなれば化け物、戦場に咲く毒華、何なら深淵の闇(ティルアビス)そのモノと言っても過言では無い。


「あの少年は確か、バクタ・ナガラ……と名乗った……ハッ!?まさか、素敵な思い出(ジョリスヴニール)の?」


 ここでセレスティアは気付く。彼女の脳裏に思い浮かんだ、とある冒険者パーティーの名前。


素敵な思い出(ジョリスヴニール)……たった5人で竜王シルバリオンを討伐した、勇者候補の在籍するパーティー……冒険者ランキング2位のこのパーティーの中で、唯一竜王戦で命を落とした闇魔術士がいたはず……その闇魔術士の名が確か……」


 セレスティアは上空のバクタ睨み付け、確信したように言い放つ。


「そう……悪霊として化けて出たと言う事ね、バクタ・ナガラ!」


 アレはジョリスヴニールのバクタ・ナガラに違いない。邪神の力を宿し、子供の身体を乗っ取り、今ここに存在しているのだ、と。


 彼女の所属する教会は、前々からバクタ・ナガラとティレジア教団に何か繋がりがあるのでは無いかとマークしていた。何せヤツは闇魔術士。ヤツの闇魔術と、深淵の闇(ティルアビス)の力、どちらも同じ闇。関連があって当然だろう。


「光の化身たる竜王シルバリオンが討伐されたのも、ヤツがその身に邪神の力を宿し、深淵の闇(ティルアビス)の力を使ったと仮定すれば説明が付く……やはり、ヤツとティレジア教団には繋がりがあったっ!バクタ・ナガラはティレジア教団の幹部……いいえっ!この力を見る限りなら、恐らくは教祖っ!大元締め!」


 そう確信しながらセレスティアは戦慄する。 自分はとんでもないモノを相手にしているのだと少し後悔する。


「相手はあの素敵な思い出(ジョリスヴニール)の一角……自在に深淵の闇(ティルアビス)の力を行使する闇魔術士。聖剣の奥義すら消失させる化け物……私1人でどうにかなるものか……いえ!私は聖騎士!引く訳にはいかない!聖ルミナス大教会の名において、邪教たるティレジア教団は全て滅されなければならないっ!」


 セレスティアは怯みつつも、聖剣を構える。


「あのピンクの悪霊を仕留め、この広がり続ける異界を押し留めるっ!このまま放っておけば周辺の森だけで無く、町や村にまで被害が及ぶ……それは看破できないっ!今この地域に居る聖騎士は自分だけ。ならば私がやらなければっ!」


 セレスティアは決意とともに、自分の聖剣に意識を集中させて聖法闘気を高めて行く。


「はあああっ!今はただ、自らと聖剣の力を信じるのみっ!」


 セレスティアはそう覚悟を決め、聖剣を再び突撃の姿勢に移行しようとした。


 しかしその瞬間、空間の裂け目から飛び出した闇色の手がセレスティアに襲い掛かった。


「ッ!?」


 セレスティアの反応は速かった。咄嗟の判断で後退し、彼女は暗闇の手の掴み攻撃を回避する。そして聖剣を構え直すと、迫り来る暗闇の手に剣で応戦した。


「舐めないでっ!」


 セレスティアの持つ聖剣が、暗闇の手を薙ぎ払う。聖剣から発する聖なる輝きが暗闇の手を斬り裂き、浄化して行く。

 しかし、暗闇の手は一本斬り裂いたところで終わりでは無い。


「この程度でっ!あっ!?」


 数体の暗闇の手を払い除けた辺りで、1本の暗闇の手が聖剣の剣先を握りしめ、彼女の剣撃を阻止してきた。セレスティアは咄嗟に剣を引き抜こうとしたが、ビクともしない。


「おのれぇっ!私の聖剣を離せ化け物ォっ!【輝閃弾(グリマーショット)】!」


 セレスティアは咄嗟に暗闇の手に向かって左手を構え、素早く詠唱して光弾を放った。


 しかし、彼女の放った光弾は暗闇の手に着弾すると同時に消滅する。まるで最初から、何も無かったかのように。


「魔術が効かない!?これも邪神の力なの!?クッ!?離してっ!?」


  セレスティアが焦りの声を上げ、必死に暗闇の手を振りほどこうとする。

 だが、暗闇の手は聖剣をしっかりと握りしめたまま離さない。


 次第に聖剣の剣先を掴んでいた暗闇の手が、セレスティアの聖剣に纏わりつき始めた。すると、淡く光っていた聖剣の刀身の光が失われていく。聖法闘気を伴う聖剣の力が失われていく……。


「そんなっ!?聖剣の力がっ!?あり得ないっ!は、離しなさいっ!」


 セレスティアは信じられないモノを見ていると困惑の顔をしつつ、それでも自分の剣を取り返そうと暗闇の手と剣の引っ張り合いをしている。


 聖騎士たるもの、自分の剣を手放す訳にはいかない。

 これは教会からの賜わり物。自分の教会への敬意と信頼の象徴。自分が死ぬときは、この聖剣も一緒に死ななければならない。逆もまた然り。こんな化け物の手に渡して良い代物では無い。


 だが、この判断が彼女の致命傷となった。


「このぉぉっ!離せえええーっ!」


 セレスティアは、必死に叫びながら暗闇の手の引く力に抗う。だが、暗闇の手の力は凄まじく、彼女は徐々に押し負け始める。

  そんなセレスティアの抵抗を嘲笑うかのように、周囲の空間の裂け目からは次々と暗闇の手が湧き出し、セレスティアへと向かっていく。


「ハッ!?」


 忍び寄ってきた別の暗闇の手がセレスティアの足を掴んだ。


「しまっ……!?」


 セレスティアがその事に気がついた時にはもう遅かった。


 セレスティアが対応するよりも早く、複数の暗闇の手がセレスティアに群がり、彼女の足や胴体を掴んでいく。

 同時に、セレスティアの着ていた銀の鎧や服の一部が、暗闇の手に触れられた瞬間に飴細工でも壊すかの如くボロボロと容易く砕けて散って行く。


「なにこれ!?ああああーっ!?」


 セレスティアは、自分の身に起こった事態に驚きの声を上げつつ、必死で抵抗した。


 しかし暗闇の手は、彼女の抵抗を物ともせずに次々と彼女を拘束していき、彼女の身体を持ち上げてしまう。まるで巨大な生き物に捕まった哀れな小動物のように、セレスティアは空中に持ち上げられる形になる。


「アアッ!?放して!放しなさい!このっ!このぉっ!」


 セレスティアは必死に叫び、暴れるが暗闇の手に拘束された身体ではどうにもならない。

 暗闇の手が、セレスティアの身体を弄ぶかのように弄り回し、彼女の着ていた服と鎧を次々に剥ぎ取って行く。


「いやっ!?なにこれ!?きゃあっ!?やめっ!?やめなさいっ!」


 暗闇の手が彼女の身体を掴み上げて、空中で弄ぶ。

 セレスティアは必死に抵抗するが、全く意味が無い。服や鎧がボロボロと崩れていき、セレスティアの身体から次々に剥ぎ取られていく。


「こんなっ!?こんなモノに!?やっ!?下に降ろしてっ!?お願いっ!」


 必死に懇願するセレスティアだが、暗闇の手達はそんな彼女の言葉には耳もくれず、次々に彼女の衣服を破壊し、引き剥がしていく。


 セレスティアは抵抗も虚しく、鎧や服を剥がされていき、やがて下着姿にされてしまった。


「イヤッ!?こんなの嘘よっ!?やめてぇっ!?」


 セレスティアは自分の身体を貪る暗闇の手を睨み付けながら叫んだ。だが暗闇の手は彼女を運ぶのを止めない。


 そして、彼女の視界に映るのは、何もかも飲み込む真っ暗な異空間。


 確実な死が迫って来ている。


 今自分に群がっている暗闇の手は、私をあの異空間に連れ込むつもりでいる。

 木や岩などと同じように、私をただの物のように無情に分解する気でいる。


 それを理解した時、彼女の心に亀裂が入った。


「ひっ……」


 セレスティアの顔は恐怖に歪み、目には涙が滲んでいた。

お読みいただきありがとうございます。

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