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26.森の機動兵器と女聖騎士 その五

 怒りの表情で光る聖剣を構えるセレスティアと対峙する俺。


 今の俺は布の服装備の子供なんだが?常識的に考えて子供にあんな技撃とうとするか普通?完全にオーバーキルだ馬鹿野郎。


 本当に嫌だ、俺が教会の連中と関わるとだいたい相手が喧嘩腰になる。教会関係者でマトモに話せるのなんてグロリアぐらいだ。

 だが今更それを言ってもどうしようもない。


 セレスティアが俺の事を深淵の闇の手先と誤解しているのは分かったが、話し合って誤解を解くのはもう無理だ。経験上、こういうタイプは一度思い込んだら絶対に曲げないからな。


『だから我は忠告したであろう!あのメス騎士の対応には気を付けて、予め触手は仕舞っておけと!』

「はぁ!?聞いてない!」


 俺は怒鳴る竜王に反論する。だって本当に聞いてないもん。特に触手の部分。


『たわけェ!貴様返事したであろうがァ!』

「馬鹿野郎ォ!お前触手の事なんぞ一言も言ってなかっただろうが!決定的に言葉が足りて無いんだよオメーは!人間サマの世界じゃ相手に伝わらなかったらそれは言ってないのと同じなの!分かる!?分からないかなー!?銀蝿トカゲさんには分からないかなー!?」

『また銀蝿トカゲと言ったかこのたわけェーッ!そのくらい読み取らんかァーッ!貴様の触手魔術があのメス騎士の言う深淵の闇(ティルアビス)の力と似ている事ぐらい途中で想像が付くであろうが!』

「そんな事言われても分かるわけねーだろ!?何で分かると思った!?そもそも俺はそのティルなんたらとは無関係!無関係なの!」


 なんて竜王と言い合いしている内に、セレスティアの聖剣は完全に聖法闘気をチャージしきっていた。


「げっ!?ヤバいっ!」

「大天使ルミナスの名のもとにッ!」


 セレスティアがそう叫ぶと、俺の立つ地面を中心に巨大な魔法陣がする。


『下だっ!』

(下から!?)

「下ァ!ハンズゥ!」


 竜王とアカツキ、そして俺の全員が一斉に危険を察知し、俺は咄嗟に触手を使って真上に跳躍した。

 直後に、セレスティアが両手で握りしめた聖剣を下から上へと大きく振り上げ、叫んだ。


「奥義!【聖無境界斬(ヴォイドバウンダリー)】!」


 地面の魔法陣から巨大な光の剣が出現する。


 ドウッ!と凄まじい爆音とともに、周囲に閃光が走ったかと思うと、地面が爆ぜ、土埃が巻き上がり、森の木々が吹き飛び、巻き込まれたヴェルデアーマーが何処かへ吹っ飛んで行く。光の奔流が天空を突くかのような勢いで放たれ、俺の居る空中にまで容赦なく襲い掛かってくる。


 あっ、こりゃ死んだか?

 ……ところがどっこい死ねるか馬鹿野郎。


「うおおおりゃあぁっ!」


 俺は叫ぶ。

 その声は、迫りくる光の剣に対する決意表明であり、同時に己の魂の叫びでもあった。


 俺は空中で体勢を整えると、杖を構え、即座に術式を構築して魔力を解き放った。


「【厄介者の手(ヌーサンスハンズ)】ゥ!」


 杖を握る俺の右腕から2本目の触手が召喚される。同時に、俺の鼻からブシュっと鼻血が噴き出した。魔力切れ覚悟の2本目だ。


 意識が遠のく。

 視界が赤く染まる。

 頭蓋に響く鈍痛。


『闇魔術士っ!?』

(せ、先生っ!?)


 竜王とアカツキの焦った声が聞こえるが俺は止まらない。止まる気は無い。っていうか止まってたら死ぬんだわ。


「止めて見ろォ!ハンズゥ!」


 俺の両腕から伸びた2本の触手が、迫る光の剣に巻き付いていく。

 触手が光に触れるやいなや、激しい光が弾け、触手が光のエネルギーを吸収していく。聖法闘気で構築された光の剣が、ジュウジュウと音を立てて剣先から崩壊しだす。


 しかし、俺の触手は、光の剣が引き起こした衝撃波までは無効化出来ない。膨大な衝撃波はまるで鉄槌のように俺の身体に襲いかかる。


「ぐううッ!?」


 俺は思わず呻き声を漏らした。


 今の俺の身体はアカツキの身体だ。子供の身体だ。タダでさえ小さなアカツキの身体が、こんな馬鹿みたいな威力の衝撃波を耐え切れる訳が無い。


 でも、ここで踏ん張らばらなきゃ死ぬ。中のアカツキごと死ぬ。それは許されない。

 俺のせいで、2度もアカツキに死ぬ運命を味合わせる訳には行かない。だから俺は歯を食いしばる。アカツキの口の中が切れるのも構わずに歯を食いしばって、衝撃波の勢いを堪え切る。


「ウヴヴッ!」


 俺は獣のような唸り声を上げた。まるで自分ではない何か別の存在になったかのような錯覚を覚えた。


 ……が、ここまでだ。


 俺の両腕から伸びた2本の触手が次々と光の剣を飲み込んで行くが、全て飲み込む前に2本とも弾け飛んだ。たった2本だけの触手では、光の剣の衝撃波に耐えられなかった。


 2本の触手が弾け、俺の身体が衝撃波に飲み込まれる。


 その瞬間、


『仕方あるまい……!』


 竜王がそう叫び、竜王の力が俺の身体に流れ込んで来る。竜王の力が俺の身体を強化し、瞬間的に傷を治し、俺の髪が、ツインテールがピンク色のまま輝き出す。


(せんせいっ!)


 次いでアカツキが俺の名を叫んだ。

 アカツキの力が、俺の意識と思考を補強する。


 2人の力のお陰で俺は何とか意識を持ち直した。

 そしてそのまま直感的に瞬時に術式を構築し、


「うおおおおおーーッ!【闇夜暴狂ミッドナイト・バッシュ】ゥ!」


 俺は叫びながら、自分も知らない魔術を詠唱していた。


 すると、俺の背中から一斉に多数の闇の触手が飛び出した。


 この闇の触手の先端がまるで人間の手のように変化し、俺の身体を衝撃波から遮るように動きながら、指先をゆっくりと俺の目の前の空間に食い込ませて行く。

 これもう触手じゃない、強いて言うなら、暗闇の手ってところ。


 その暗闇の手が空間を握り込み力を込めて引っ張ると、布か紙でも破かれるかのようにビリビリッと裂け目が広がっていく。裂かれた先には、真っ暗闇の異空間が広がっていた。


「なっ!?」

『ぬっ!?』

(えっ!?)


 突然の妙な事態に3人同時に驚く。

 なんて驚いている間もなく、俺の背中から生えていた暗闇の手は破かれた空間の中に侵入し、中で何かを掴んだ。

 そして異空間の中から更に大量の暗闇の手を引っ張り出してきた。それはもう薄気味悪いくらい大量に、道端の石をひっくり返した時の石の裏に居た虫かってくらい、ズゾゾゾッっと溢れ出てきた。


「なにコレェ!?」

『なんだコレはァ!?』

(何ですかコレっ!?)


  3人同時に同じ感想を抱いたようだ。 だが俺に聞かれても困る。だって俺だって知らないんだもん。


 溢れ出てきた無数の闇の手は次々に周囲の空間を掴み、引き裂きながら、光の剣と剣に引き起こされた衝撃波を異空間へと放り捨てて行く。

 手の動きは滑らかで、まるで何か意志が宿っているかのように的確に空間を掴み取り、次々と暗闇の異空間に飲み込んでいった。


 その様子は、まるで空間が巨大な生物の口に喰われて行くかのようだった。 光の剣も衝撃波も、触手の手に引きずり込まれて、暗闇の異空間に呑み込まれていく。


『闇魔術士っ!貴様何をしたァッ!?』

「知らないよォ!?こんな魔術ゥ!?」

『たわけッ!あの暗闇の手は貴様が喚び出したのであろうがッ!?』

「知らねえつってんだろッ!お前こそ俺に何したァッ!?」

『我は小童の身体を強化修復したまでだ!この異形を召喚したのは貴様の術式の仕業であろうッ!このたわけがッ!』


 俺は空中に浮遊したまま、目の前の光景に困惑しつつ竜王に怒鳴った。だって俺本当に何も知らないもん。こんな状況で俺にどうしろと?


 さっきまで光の剣が迫っていた空間は、もう全て真っ暗闇な異空間に置き換わっていた。

 だが異空間から喚び出された無数の暗闇の手はそれだけでは飽き足らず、周囲の木々や地面、空間までも次々に掴んでは破り捨てて、異空間を広げて行く。


 そして暗闇の手の幾つかが、地表で呆然と突っ立っていたセレスティアに襲い掛かるまでそう時間は掛からなかった。

お読みいただきありがとうございます。

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