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24.森の機動兵器と女聖騎士 その三

「……」


 女騎士は呆然とした顔で地面に座り込み、俺の事を見ていた。

 まあ、当然の反応だろう。ヴェルデアーマー3体を子供が1人で相手して、1体は完全にぶっ壊して、もう1機を奪った挙げ句に勝っちゃったんだから。


「よっ、と」


 俺は右腕の触手を先に地面に降ろし、触手を伝ってヴェルデアーマーの操縦席から降りる。


「ん?」


 ここで俺は女騎士がまだ剣を抜いていないことに気づいた。

 こんな状況になってまだ剣も抜いていないとは。まあ3機のヴェルデアーマー相手だったし、逃げるので精一杯だったって言われればまあしょうがないかなってはなるんだけども。


「もしもしお姉さん、大丈夫?怪我は?」


 なんて思いつつも俺は、触手を右腕に巻き取りつつ、女騎士にフランクに声を掛けながら近寄る。


「…………」


 女騎士は俺が近寄ってもまだ呆然とした表情をしていた。


 うん、こりゃちょっと戦力的には期待出来そうに無い。剣を抜かなかったのも、最初っからビビってて戦う意思が無かったんだろう。要するに、この女騎士はそれ程対した腕では無いんだ、と俺は結論づける。


 と、俺が冷ややかな感想を抱いていたら、女騎士はやがてハッと我に返り、すぐさま立ち上がって俺に視線を向けてきた。


「いえ、大丈夫です。助太刀、感謝します」


 女騎士はそう言って軽く一礼してきた。


 俺はてっきりこっちが子供だからとナメた対応をしてくるんじゃ?と予想していたので、素直に礼を言われた事にはちょっとだけ驚いた。

 まあ弱いのは仕方がないが、騎士らしくちゃんと礼儀はわきまえてるのはエライ。ならこっちも相応に礼を持って返そうって気分にはなるってモノだ。


 それで俺は女騎士の顔をよく見てみた。


 煌めく長い金髪に、華やかな銀装の鎧、腰には繊細な装飾の施された鞘に納められた剣、そして透き通るような色合いの青い目。

 種族は恐らく俺やアカツキと同じ背高属(トーラー)だろう。

 年齢は、俺……じゃなくてアカツキか、アカツキよりかは確実に年上、20代前後ってところか。


 一見した限りではかなりの美人さんだ。グロリアやアリシアにだって負けていない。まあ胸はアリシアが一番デカいが。


「どういたしまして。無事なようで何よりです、騎士様」


 態度を変えた俺は、健やかに笑いながら答え、女騎士に一礼を返す。


「……っ」


 すると、女騎士は瞳をわずかに揺らし、驚いたような表情を浮かべた。

 何か言いたげに唇がかすかに動かしたが、口を開くでもなく、女騎士はじっと俺を見つめている。まるで、何かに心を奪われたかのように。


 その視線を受けてか、俺の中に潜む竜王がピクッと反応し、女騎士の方に意識を向けて言う。


『闇魔術士よ』

 〈ん?〉

『対応には気を付けよ』

 〈へ?ああ、うん〉


 竜王が何か忠告して来たが、俺は竜王の意図がよく意味が分からず生返事を返す。

 まあどうせ対した事じゃ無い。俺だってこう見えて中身は35歳のおっさんなのだ。今更竜王に言われるまでもなく、騎士やら貴族やらに対する礼儀礼節ぐらいは弁えている。表向きだけな。


 そう思いながら、俺は黙ったままこっちを見ている女騎士に声を掛ける。


「あの、騎士様?やはりどこかお怪我でも?」

「……はっ!?い、いや、すみません、少々呆けていました」


 女騎士はハッとして慌てて俺から視線を逸らすと、コホンと咳払いをし、姿勢を正して言う。


「私の名はセレスティア・ラウィンド。聖ルミナス大教会に仕える聖騎士です。改めて先ほどの助太刀に感謝します。……して、アナタは……少年……で良いのでしょうか?名をなんと?」


 セレスティアと名乗った女騎士が俺の顔を見ながら尋ねてくる。


 俺は言われて改めて自分の姿を思い出した。緩めのケープを纏い、髪はピンク色のツインテール、そして極めつけがアカツキの美少女の如き儚げな童顔だ。彼女が少年か少女か迷うのも仕方がない。

 俺は苦笑しながら、


「まあ見た目はこうですけど、れっきとした男ですよ。自分の名前はバクタ、バクタ・ナガラと言います」


 と、一礼しながら自己紹介をした。

 それで頭を下げながら


 〈あ、しまった〉


 と軽く焦った。


(どうしました先生?)

 〈いや、アカツキの身体なのに俺の名前名乗っちゃったから……〉

(んー……)


 アカツキは俺の言葉に少し考え込む。


 俺とアカツキの事情を説明済みな村の人間なら兎も角、セレスティアは外部の人間だ。下手な事は言うべきじゃないし、説明するのも面倒なのだが、俺が元の身体に戻った後の事を考えると名乗りはもう少し憂慮すべきだった。


 俺がどうしようか迷っていると、


(僕は別にいいですけど)


 と、アカツキが軽い調子で言ってきた。

 アカツキ的には特に問題無いらしい。


 〈んー、ならまあ良いか?〉


 俺はアカツキが気にしていない様子なのを見て、気楽に考える事にした。当のアカツキが良いって言うんだから別に良いのだろう。

 それで俺は素知らぬ顔で頭を上げてセレスティアの反応を伺う。


 すると、セレスティアは俺の名前を聞いて訝しむように顔をしかめた。


「……バクタ・ナガラ?……確か、どこかで……」


 セレスティアは何やら俺の名前に聞き覚えがあるらしくブツブツと呟いている。

 それで俺はセレスティアの様子を見ながら首を傾げた。


 〈なんだ?俺の名前を知ってる?〉


 俺はちょっと困惑しながらも、セレスティアの反応を伺った。


 まさかジョリスヴニール時代の俺を知ってるのだろうか?幾ら勇者候補パーティー所属だったとは言え、所詮ただのパーティーメンバーでしかなかった俺の事を教会の聖騎士がマークしているってのは考え難い。

 まあ勇者候補だったアウルや教会所属のグロリアなら知ってても可笑しくは無いんだが、俺なんかただの闇魔術士だしねえ?


 ……でも何となく面倒事になるような気がした俺は、


「えっと、聖騎士様は何故あの男達に追われていたのですか?あの機械人形はここいらでは見ないシロモノでしたけれど?」


 と、セレスティアの反応にはあえて突っ込まず、話を変えて誤魔化す事にした。別に知り合いでも無さそうだし、聞いてくるなら答える程度でいいだろう。

 俺がセレスティアの追われていた理由を問いかけると、セレスティアはハッとした表情になり、すぐに答えてくれた。


「私はティレジア教団の本拠地を探していたのですが、途中であのヴェルデアーマーの部隊に見付かってしまって……」

「ティレジア教団?」


 聞き覚えの無い単語に俺が聞き返すと、セレスティアは少し考えた後に口を開いた。


「ティレジア教団とは、深淵の闇(ティルアビス)の力を操る邪神をティレジア神などと呼んで崇め、邪神が現世を終わらせ完全なる幸福の世界を新生させるなどと言うフザけた終末思想を信じている邪教集団の事です。最近はこのノマリ地方でもその活動が活発になっていたのですが、まさかヴェルデアーマーまで持ち出して来るとは予想外でした」


 セレスティアが真剣な面差しで答える。

 対して俺は、


 (深淵の闇(ティルアビス)?邪教集団?ですか?先生何か知っています?)

 〈知らん、何それ……怖……〉


 と、アカツキ共々知らない集団にビビっていた。


 まあ俺が知らないのも仕方がないだろう。


 言い訳させて貰えるなら、何せジョリスヴニールに居た頃の俺達は色々と忙しかった。勇者候補パーティーと言うだけあって、各地で暴れるモンスターの討伐だの、魔王の子孫を名乗る魔族との戦いだのと多忙だったのだ。その中で宗教系の事件にはあまり関わっていない。


 そもそも教会は聖騎士団や神官達などの独自戦力を多数抱えており、そういった事件を自力解決していた。

 俺達も時々、教会の依頼を手伝った事はあるが、大抵はグロリアが矢面に立っていたので、俺はサポートに回っていた。だから教会の内部事情などに俺はほとんど詳しくは無い。


 だが、セレスティアの話は何となく分かった。ようするに、教会が追っている邪教集団が居るが、その邪教徒がいつの間にかサントルム王国保有なハズの機動兵器を持ち出して来ていて苦戦している、と。要約するとこんな感じだろう。


「なるほど〜?」


 俺は納得して頷く。


 ……いや、頷いたがよく分かっていない。

 だってそんなの俺の管轄外の話だ。覚える必要が無い。

 俺のすべき事は、先生としてアカツキに冒険者として困らない程度の魔術を教えた後、自分の身体を取り戻す事であって、その過程で教会の聖騎士様や邪教集団と絡む必要性なんて無い。

 っていうかそんなに関わったらほぼ確定で厄介極まりない事態になる。俺はそういうのはゴメンだ。


 だから、


「そうでしたかー、気を付けてくださいねー、それでは失礼しますー」


 俺は踵を返してセレスティアに向けて笑顔で別れの挨拶をした。俺は帰る、お前もさっさと帰れ、の意味も込めて。

お読みいただきありがとうございます。

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