23.森の機動兵器と女聖騎士 その二
「行くぞオラァ!回せェ!ハンズゥ!」
吹っ切れた俺は怒鳴りながら右腕の触手を大きく振りかぶり、空中で自らを振り回すように回転し始めた。
俺はそれと同時に、触手の先をハンマー状に変化させた。重心を俺の身体から、触手の先端に変えたのだ。こうなると、重心である触手の先端が中心となり、俺の身体は外側を振り回される方に変わる。
ブゥンブゥンと触手が風を切る音が響き渡り、俺の身体に強烈な遠心力が掛かっていく。
(ええっ!?まわっ、回る!?)
『うおおおっ!?な、何をするつもりだ貴様ーっ!?』
「うるせェ!煽ったのはオメーだろーが!黙って見てろ!」
回転の遠心力に翻弄されだす竜王達。俺は構わず回転の速度を上げていく。
「まだまだァー!もっともっともっとーっ!」
(うわーっ!?)
『たっ、たわけ!少しは加減せんかぁーっ!』
今更竜王が手加減しろと言って来るがそんなモン知ったこっちゃない。竜王サマには是非とも自分の言ったことには責任持って頂きたい。
そして俺は自身の視界が歪むほどのスピードで回転したあと、次の瞬間、
「ソイヤァ!」
掛け声と共に、触手を右腕から切り離した。
その動きと同時に身体が一気に撃ち出され、重力と遠心力が合わさり、俺はまるで弾丸のように女騎士達の居る地面に向かって急降下していく。
「ちょい右だなあ!?纏え!【厄介者の手】!」
空中で少しの軌道修正を行った後、勢いに乗ったまま俺は再度右腕に触手を召喚し、全身に触手を纏いつかせた。それは一種の障壁であり、身を守るための鎧。同時に俺自身を弾丸そのものにするための装備でもある。
「そんでもってェ!尖って回れェ!」
俺は触手に追加で指示する。
俺の身体を覆う触手が弓矢の矢じりの如く鋭利に尖り、同時にライフル弾の如くギュルギュルとスピンしだす。
ヴェルデアーマーの分厚い装甲を貫くつもりなら、この程度はやって然りだ。
『ま、待てっ!貴様まさかっ!』
(このまま!?)
竜王もアカツキも俺の意図に気付いたらしい。だが今更。
アカツキには悪いが、俺を煽ったのは竜王だ。文句をつけるなら竜王に言ってくれ。
「そうだ貫けェ!ハンズゥ!」
そうして俺は上空から一瞬の内に降下し、一番手前のヴェルデアーマーの胴体目掛けて、触手で身を包んだまま突撃した。
「ヒャッハーッ!」
そして着弾。俺の叫びと共に、ドゴォッ!!っと、辺りに激しい衝突音が響き渡った。
触手の弾丸と化した俺はヴェルデアーマーを貫通し、そのまま地面に突き刺さった。地面には俺が落ちた衝撃で大きなクレーターが発生する。
突っ込まれたヴェルデアーマーは俺が突っ込んだ穴から火花を散らし、間もなくその場に崩れ落ちて、完全に動きを止めた。
乗ってたパイロット?衝撃でスポーンとどっかに吹き飛んで行ったみたいだぞ?
「っしゃあーッ!見たかお前らァーッ!俺の実力をォーッ!」
俺は土煙を上げながらクレーターから立ち上がると、両腕を天に掲げ、全力で勝利の雄たけびをあげた。
『ぐぅ……何という力技を……』
(先生スゴーい!)
竜王は俺の強引すぎる力押しの戦法にドン引きしていた。
逆にアカツキは純粋に褒めてくれている。が、この俺の戦い方は魔術士の戦い方としては邪道の極みみたいなモノなので、あまり参考にしてはいけないんだぜ?まあ楽しそうにしてるからいいか。
「おうともよ!これが俺の闇魔術だ!見たかァ竜王!ワハハハハ!」
俺が高笑いしてると、残った2体のヴェルデアーマーから男達の声が聞こえてきた。
「なっ!?何だ今のはぁ!?」
「敵か!?」
「いや!敵って言うか……ガキ!?ガキが降ってきてヴェルデアーマーを貫いただと!?」
「どうなってるんだ一体!?」
「知らねぇよ!」
2体のヴェルデアーマー達から男達の動揺する声が聞こえてきた。
まあ気持ちは分かる。俺だって空から弾丸化した子供が降って来て、一撃でヴェルデアーマーぶっ壊してきたらビビる。
だがこれは竜王サマの注文だ。文句を言うならそっちに言ってくれ。
「なっ……子供!?何で!?」
女騎士の方も驚いた様子で俺に視線を向けてくる。
さぞ理解に苦しんでいることだろう。
……いや、正直俺も貫けるとは思ってなかった。なんかヤケクソとノリの産物で貫いちゃったけど。
ヴェルデアーマーって、一国の主力機動兵器だぜ?1つ目巨人のサイクロプスや、巨大な金属製モンスターのアイアンゴーレムに殴られても平気!むしろ逆に殴り倒そう!ってのがヴェルデアーマーのウリなんだけども。少なくとも、一介の魔術士が容易く撃ち貫いていいモノじゃない。
でもまあいいや、結果オーライ。
「チィッ!とりあえずガキだろうが敵は敵だ!構うな!!撃て!撃ち殺せ!」
「おう!」
2体のヴェルデアーマーはすぐさま俺に照準を合わせてきた。
どうやら1機潰した程度では連中の戦意は挫け無かったらしい。殊勝な事で。
「アカツキ、見てろよ〜?」
(はい、先生!見ます!)
俺はアカツキに一言声を掛け、ヴェルデアーマーに視線を向ける。ヴェルデアーマーからの砲撃はすぐに始まり、砲弾が次々と放たれた。
「ハンズ!」
俺は素早く近くの木に触手を伸ばし、自分の身体を木へと引き寄せる。そして勢いのままに木の上に跳び上がった。
「飛んだ!?」
「構うな!撃て!撃て!」
「ウヒョーッ!」
俺は奇声を上げながら触手で次々と木々を跳び移る。
「う、動きが変則的だ!当たらない!?」
「何やってんだ!早く撃ち殺せ!」
「うるさい!分かってる!?」
連中は照準が定まらないらしく、俺を仕留めようと何度も砲撃してくるが、俺にはかすりもしない。
なるほど?コイツラ、射撃はドシロウトだな?
となれば、こっちにもやり方がある。
「雑魚が!遅せえんだよ!ハンズ!」
俺は触手で周囲の木々を伝って移動しつつ、ヴェルデアーマーの開放型の操縦席目掛けて触手を振り下ろした。触手はそのまま操縦席の男に巻き付き、本体の俺の身体と入れ替わるように男を引き剥がす。
「うわっ、わわーっ!」
「あっ!?クソガキ!何をしてやがる!」
男は突然操縦席から引っこ抜かれ、空中に放り出された。
ソイツをそのまま森の木々の中にポイ捨てし、
「取ったァ!」
逆に俺がヴェルデアーマーの操縦席に座った。
『貴様が乗るのか!?』
(乗れるんですか!?)
「乗れんのよ!」
アカツキと竜王の驚きの声を聞きながら、俺は杖を腰に挿し、早速操縦桿を握って、ペダルを思いっきり踏み込んだ。
すると俺のヴェルデアーマーはスラスターを全開で吹かし、猛スピードで走り出す。
「ガキが!ナメてんじゃねえぞ!」
残った1体のヴェルデアーマーが俺目掛けて砲撃してくる。しかし俺は自分のヴェルデアーマーの両腕で操縦席をガードしつつ、全力疾走のまま砲撃を防御しながら強引に残った1体の懐へ飛び込む。
「うるせぇーッ!闇魔術士ナメんなオラァーッ!」
そして、勢いのまま敵のヴェルデアーマーに体当たりを仕掛けた。
ゴガンっと金属同士の衝突する音が響き、衝撃が互いの操縦席を襲う。
「うわぁぁっ!?」
「ウヒョーッ!」
敵のパイロットは衝撃に悲鳴を上げているが、テンション全開の俺は雄叫びを上げていた。
さて、ヴェルデアーマーは頑丈な機動兵器だ。半端な攻撃じゃビクともしないし、魔術にも高い耐性がある。しかしだ、ヴェルデアーマー同士となると話は別になる。
無敵の矛と、無敵の盾を用意したらどっちが勝つと思う?答えは簡単、乗り手が強い方だ。
「ぶっ壊れろォ!」
俺はペダルベタ踏みのスラスター全開で再度敵に突撃しつつ、操縦桿を操作して自分のヴェルデアーマーの両爪を敵機に振り下ろした。
「うおおおぉっ!?」
だが敵機のパイロットもなかなか根性のあるヤツらしく、果敢にも自機のヴェルデアーマーの爪で応戦してきた。このパイロット、射撃はド素人だが格闘はそこそこヤれるらしい。生意気な。
そうして何度か打ち合った後、ガシャンッと2体のヴェルデアーマーの腕が激しく組み合わさり、互いに力比べを始めた。
だがどちらも同型の機体だ。本来なら力比べでは決着は付かない。
2体のヴェルデアーマーはガッチリ爪を噛み合わせて、拮抗状態に陥った。
そして、ここで俺はもう一手打つ。
「ハンズ、アイツ放り出せ」
「何っ!?うおっ!?」
俺の右腕からニョキッと敵機の操縦席に伸びた触手が、パイロットの男を操縦席から放り出し、そのまま男を森の中にポイ捨てした。
「うわーっ!!?」
男は絶叫しながら放物線を描いて飛んで行く。触手に捨てられた男の身体が森の木の枝に引っかかったかと思うと、そのままずり落ちていった。
まあ死んでは無いだろう。
「よっしゃーッ!俺の勝ちィーッ!アイ・アム!ザ!ウィナーッ!」
決着がついた時、俺は両腕を上げて全力で勝利を宣言していた。
(凄い!凄いです先生っ!これが闇魔術士なんですねっ!)
『違うっ!違うぞ小童!少なくともこれは魔術士の戦い方では無いぞぉ!?』
アカツキが興奮気味に俺を褒めてくるが、竜王が何故か必死の形相で否定してくる。
失礼なヤツだ、散々俺を煽っておいてそれか?
「何が違うってんだ竜王サマよお?俺はれっきとした魔術士だ。闇魔術士だ。決定打は全部闇魔術だったろ?何か文句あるか?」
『文句しか無いわぁ!?貴様が今使っているのは機動兵器であろうが!?何が闇魔術だ!?そもそも最初の体当たりはなんだ!?体当たりで敵を貫通する魔術士など聞いた事が無いわ!』
「俺の戦い方に文句つけるってかァ?上等だコラァ!文句があるなら首絞めんぞオルァ!?」
『た、たわけーっ!なぜそうなる!?』
ぎゃあぎゃあ喚く竜王。
俺は構わずに竜王に文句を言ってやる。
「お前が!先に!俺の事を!日陰者だなんだって!?煽ったのが!いけねえんだろうがァ!?あァん!?」
『ぐっ、ぐぬぬぬぬ……!』
竜王は俺の正論に言い返せずに悔しがっていた。ざまあみやがれ、だ。
一方でアカツキはというと、竜王を無視し、
(先生!先生!僕も!ヴェルデアーマー?操縦して見たいです!)
と、どうもヴェルデアーマーに興味を持ったらしい。まあアカツキだって男の子だもんね、好きだよねこう言うの。
「よしよし、後でな」
(わーい!)
「さて、と」
と、俺はアカツキの無邪気にはしゃぐ声を聞きつつ、残った女騎士に目を向けた。
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