22.森の機動兵器と女聖騎士 その一
「ハンズ、回転っと……」
俺はそのままの勢いでまた森の上空に跳び上がり、今度はジャンプの最高高度付近で触手を回転させて空中に滞空した。
ちなみにこの触手ローターは空力で飛んでいる訳じゃなく、回転時に放出される闇の粒子によって産まれる微量な反重力効果で浮遊している。これ、回転時に触手の闇の粒子が減っていくのであんまり長くは飛んでられないんだが、空力で飛ぼうとすると1本じゃ俺の身体がグルグル回っちゃうからねえ、難しいモンだ。
『また器用な真似をするな貴様……』
「生憎、不器用なままじゃ生きていけなかったんでねえ」
呆れてるのか感心してるのか分からない声の竜王を余所に、俺が再び不審なヴェルデアーマー達を監視し始めたところでヴェルデアーマー達が一斉に動き出した。
『動き出したぞ』
「おう」
竜王の声に軽く答える俺。
俺の視線の先で、ヴェルデアーマー達は背部のスラスターを景気よく吹かし、森の木々を避け、時には豪快になぎ倒しながら前方へと進んでいる。
『ふむ……彼奴ら、何かを追っているようであるが』
「ああ、らしいな」
竜王の言う通り、連中は何かを追いかけていた。
それで目を凝らすと、ヴェルデアーマーの先に走る影を見つけた。
「……見つけた、ありゃあ、騎士か?」
それは1人の女だった。目立つ長い金色の髪に銀色の鎧を身に纏い、腰に豪華な装飾のついた鞘付きの剣を携えた女騎士だ。
女騎士は決して軽くは無いであろう鎧装備で、全速力で森の中を駆けていた。なかなかの速度と体力だ。身分と見栄えだけのお飾り女騎士……では無さそうだ。
とは言え、スラスターを吹かしたヴェルデアーマーは下手な馬より速く走行する。幾ら入り組んだ森の中と言う地形であっても、生身の人間が走って逃げ切れるものでは無い。
しかも、ヴェルデアーマー達はその女騎士を追いかけながら砲撃をし始めた。
奴らは逃げる女騎士に向かって側面に付いた大砲からドカンドカンと砲撃していた。放たれた砲弾は地面やら木やらに当たるなり景気よく爆発し、爆風が吹き荒れ、木々は折れ、地面を抉っていく。
「おーおー、逃げてる逃げてる。女1人に3機でバカスカ撃ちまくって、まあ随分と物騒なこった」
(先生……あれ、助けた方が良いんじゃ?)
俺が呑気に見ていると、アカツキが遠慮がちに声を掛けてきた。
「んんー……助けるぅー?」
(だってこのままじゃあの女の人危ないですよ!?助けてあげないと!)
「まあそりゃあそうなんだが……」
アカツキの意見はもっともだが、俺は少しためらっていた。
アカツキはああ言っているが、俺の今の目的はあくまでアカツキの魔術修練だ。正直に言ってしまうと女騎士のあの状況は俺に関係ない。それに俺はアカツキの身体を借りてるのだ。アリシアにアカツキを頼むと言われてる手前、厄介事に首を突っ込むのは避けたい。アカツキを負傷なんてさせて見ろ?アリシアがどんな顔するやら……。
だがしかし、
『ほう?闇魔術士よ、まさか怖気付いたとは言わんだろうな?』
あろうことか竜王が俺を煽って来た。
「は?お前あの厄介事の塊に飛び込んで行けと?」
『……ああ小童よ!あろう事か貴様の先生はあんな賊に怖気付き、あの哀れなメス騎士を見殺しにするつもりらしい!なんと嘆かわしい事よ!』
(そんな……!?)
竜王は俺を無視して大袈裟な声色でアカツキに語りかけている。アカツキもアカツキで俺に対してショックを受けたような声を出している。
なんだコイツら。ヴェルデアーマーの強さを知らないからって好き勝手言いやがって。
「竜王、お前なあ……」
竜王がどう言うつもりかは知らないが、どうもヤツは俺を煽ってでもあの女騎士に加勢するよう仕向けたいようだ。
勿論、そんな安い挑発に乗る俺では無い。
「いいか?ヴェルデアーマーってのはなあ……」
俺があの緑の機動兵器が如何に脅威かを竜王達に説明しようとしていたらだ。
『いやはや!』
「は?」
竜王が大げさな言い方で俺の言葉を遮った。
そして続ける。
『我を倒しておきながらこの体たらく……貴様の所属していたパーティー、確か素敵な思い出と言ったか?全く、勇者候補パーティーの名が泣くなあ?』
「あ゙?」
竜王の言葉に、俺の眉間には深い皺が刻まれ、ピクリと頬が引きつった。
竜王は俺の反応を見たのか見ていないのか、煽るのを止めない。
『あの雷術剣士の男なら、真っ先に助けに行ったであろうになあ?それに比べて貴様は……全くもって英雄とは程遠い程遠い!所詮は日陰者よ!ガハハハハ!』
「……ッ」
竜王の嘲笑う声を聞き、俺は自分は思わずギリッと歯ぎしりした。
前言撤回だ。コイツ、よりにもよって俺とアウルを比べてやがる。
確かにそうだなあ?アウルならノータイムであの女騎士の救出に向かったろうよ。アイツはそう言うヤツだ。
以前パーティーの皆で、絶対に罠だから騙されてるからやめろって止めた時も、アウルは「困ってる人がいるなら」と言って一人で飛び出して行った。それで案の定罠で、自分が死ぬかも知れないくらい酷い目に遭ったってのに「皆に怪我が無くて良かった」なんて言って笑ってたんだぜ?とんだ大バカ野郎だ。
でも何故か皆付いていくんだよアウルには。俺だってそうだ、アイツに引っ張られて、いつの間にか竜王なんかと戦う事になってた。アイツはホンモノなんだよ、ホンモノの英雄、主役なんだ。
逆に俺は臆病者の日陰者さ。アウルの引き立て役、花形になんてなれない、何処まで行っても脇役だ。
だけどな、俺にだってちっぽけだがプライドはある。ここまで馬鹿にされて黙って居られる程、俺は枯れちゃいない。
(せ、先生……勇者候補って……?)
「アカツキ、あの女騎士に味方するって事でいいな?」
(え?は、はいっ!勿論!)
俺はアカツキの言葉を遮り、もう一度確認を取る。アカツキは戸惑いながらも即答した。
「……よぉし!じゃあ見てろよお前らァ!思いっっクソ飛ばすぞォ!」
(はい!先生っ!)
『ガハハハハ!』
俺は竜王の笑い声を聞きつつ、キレ気味のままニィと口角を釣り上げ、
「誰が日陰モンだオラァ!やってやろうじゃねえかよこの野郎ォ!」
と、ヤケクソ気味に叫ぶのだった。
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