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02.プロローグ その二

 竜王を倒した俺達は、結界の中で小休憩を取る事にした。


 ここは火山の中腹。

 吹き出るマグマのせいでどこもかしこも馬鹿みたいに暑くて灼熱の地獄のような場所なのだが、辺りに広がった結界が一時的に環境を穏やかに変え、その神聖な力で俺達の傷と疲れを癒していた。


「ふぅ……あのドラゴン、竜王を名乗ってた割には以外と呆気なかったんじゃねえ?」


 俺は一息ついて戦いの感想を仲間に述べる。

 今みんなでやってるのは事後のミーティングみたいなものだ。討伐依頼等、戦い終わった後に反省会も兼ねてパーティーメンバーで軽く雑談するのが俺達の慣例となっている。


「いいやバクタ、呆気なかったとは言うがな? オレの装備を見ろ、ほれ、盾がぐんにょりと」


 コレーガはそう言って自分の大盾を俺に見せてくる。


「おぉ……こりゃまた酷い壊れ方で……」


 俺は差し出された大盾を見て、すぐにあのドラゴンが弱かった訳じゃ無いのを確信する。

 その大盾には大きなヒビが入っており、更に弓なりにグニャリと歪んでいた。竜王の力が如何に強大だったかが分かる。


「うっわ〜曲がり方えっぐ〜……コレーガの盾が保たなかったのってお初じゃない?」


 シーニーも盾を見て引き気味に言う。

 シーニーの言う通り、俺もコレーガの大盾が壊れたのを見たのは初めてだ。


「ああ、もう使い物にならん。新しいのを買わんと……【インベントリ】」


 コレーガはそう言って側面に小さな魔法陣を喚び出した。

 コレーガはそのまま壊れた盾を魔法陣の中に投げ込むと、盾は何処かに在る冒険者用の収納空間に消えていく。


「でもま、盾なんてこの魔紫石(レリクス)がありゃ好きなだけ買えるだろ?」


 俺はニヤリと笑いつつ、回収した目の前のどデカい魔紫石(レリクス)を指さして言う。


「へっ、違いねえ」


 コレーガもその通りだと俺にニヤリと笑い返した。


「「うえっへっへっへっへ……」」


 俺とコレーガ、いい歳こいた男二人が、魔紫石(レリクス)の前でニヤニヤ笑っている。


 でもこれもしょうがないのだ。だってドラゴンの魔紫石(レリクス)なんて言う1年は余裕で贅沢三昧出来る大金が手に入ったのだ。それも今回は特大級の大型。村一つくらいなら人も土地も丸々買ってお釣りが出る。


「コラ二人とも! ガチで山分けしなきゃマジやべーんだかんね!?」

「シーニー、わかってるって、なあバクタ」

「ああ、でもシーニー、今だけは笑わせてくれ……」

「「うえっへっへっへ……」」

「ヤッバ……二人とも目ぇイっちゃってるんですけど……」


 シーニーにツッコミされつつ、俺とコレーガは魔紫石(レリクス)の前でニヤけ続けた。


「僕のギガテンペストも一発目はまるで通用していなかった。あのドラゴンが只者じゃ無かったのは確かだよ」


 一方、真面目なアウルは鞘に納めたままの自分の両手剣を見つめながら呟いていた。

 アウル的には絶対の自身が有った必殺技だったのだ。たった一発とは言え、防がれたのはアウルにとっては結構なショックだったのだろう。


「竜王のあの銀の鱗、何か特殊なバリアみたいな物を張っているように見えたわ……そうよねナガラくん?」


 同じく真面目なグロリアが仄かに光る杖を立てたまま、俺にそう告げてくる。

 今周囲に張られている結界を維持しているのはグロリアだ。彼女の結界のお陰で、こんな熱波渦巻く火山の中腹でも呑気に話して居られる訳である。グロリア様々だ。


「へっへ……んあ? あー……そういやなんかあったな?」


 グロリアに話を振られ、正気に戻った俺は何でもない風に言う。


「なんかってお前なぁ……」


 呆れ顔をするコレーガ。


「いやだってあのバリア、触手でちょろっと撫でただけで消えたろ?いくらなんでもデバフに弱すぎ。耐性とか無い訳? 回避は?竜王とか言っておきながら、まさか守りはあんなうっすいバリア1枚に頼り切り?アホなの?って、デバッファー的には思う訳よ」


 俺は竜王のバリアが脆かった事について、そう分析する。

 容赦の無い言い方かも知れないが、俺は事実を言ったまでだ。まあそもそも相手は敵、敵に気を利かせた物言いをする必要も無い。


「いや、ちょろっとって……いいかバクタ?それはお前のあの触手がおかしいだけだからな?」


 コレーガは呆れ顔で俺に言う。


「アッハハ!それはマジでそう!あの触手、アタシの流星撃ち(リギルショット)も消した事あるし?マジ何なんアレ?」


 今度はシーニーが、俺の触手に言及してケラケラと笑った。


「バクタ、僕も思うけどあの触手は一体何なんだい?以前、僕の雷術も消した事があっただろう?」


 アウルも俺に向かって不思議そうに問いかけてくる。流石の英雄様も、俺の魔術にまでは理解が及ばないらしい。ちょっと優越感。

 とは言え、大事な仲間だ。手の内は改めて見せておくべきだろう。


「何って?そりゃあ企業秘密だぜぇ?チッチッチ……って言うのは今更か。そんじゃあ、ほい、【厄介者の手(ヌーサンスハンズ)】」


 俺は軽く詠唱して闇の手の魔術を発動させた。

 俺の足元に喚び出された一本の黒い触手は、俺の腕に絡み付きながら、辺りの空間をウネウネと動き回る。


「では改めて説明しよう。俺のこの触手、厄介者の手(ヌーサンスハンズ)はな、光を放つ物なら何でも喰っちまうんだ。例えばホレ、そこの溶岩の池」


 俺はそう言って、近くの溶岩の池を指差した。

 俺の指差した先では、真っ赤な溶岩がグツグツと音を立てて煮え滾っている。手でも突っ込めば簡単に火傷するだろう。


「あの溶岩の池が何だ?まさかあの中に飛び込めってんじゃないだろうな?」


 俺の指差した先を見たコレーガは、顔を顰めながら言う。


「コレーガ、お前なら溶岩くらい泳げるだろ?」

「馬鹿野郎、俺はサラマンダーじゃねえんだぞ?全身大火傷まっしぐらだっつの」


 コレーガは俺の軽口に対して、大袈裟に肩を竦めて答えた。


「ワハハ、さて冗談はさておきだ。行け、ハンズ」


 コレーガをからかいつつ、俺は触手を1本だけ溶岩の中に突っ込んだ。

 すると、溶岩の池はシュウウッと大きな音を立てて、あっという間に冷えて固まっていく。


「は? え、ちょ……バクタお前何したの?」


 コレーガが目を白黒させながら聞いてくる。


「だから言ったろ?俺の厄介者の手(ハンズ)光を放つ物なら何でも喰っちまうって。これはな、触手で溶岩の熱エネルギーを喰って、ただの岩の塊にしたんだよ」


 俺は一瞬で岩の塊になった元溶岩から触手を抜き、自分の手元に戻して、仲間達にそう言った。


「一瞬で溶岩の熱エネルギーを奪うなんて……術式はどうなっているのかしら?」

「それはそれこそ企業秘密さ、ナイショナイショ」


 不思議がるグロリアを前に、俺は口元に人差し指を立ててニッと笑った。


 術式は魔術の設計図、魔術士の大事な商売道具だ。こればっかりはパーティー仲間相手でもそう簡単には開示出来ないね。


「相変わらず無茶苦茶しやがる。俺はドラゴンなんぞよりよっぽどお前の方がおっかねえぞ?この触手マンめ」

「あ゙ーっ?誰が触手マンだこの筋肉ダルマぁーっ!行け厄介者の手(ハンズ)!」


 コレーガの軽口に俺は軽くドスの効いた声で返し、触手にヤツの身体に絡み付くよう命じた。


「うおっ!?こいつっ!?鎧の隙間っから入ってっ!?おいっ!やめろ〜っ!」

「ワハハ、良いじゃないかコレーガ。たまには触手と戯れるのも」

「良い訳あるかぁっ!ふざけんっ……だらぁっ!こいつっ!」


 俺がからかいながら笑ってると、コレーガは苛立ったように力任せに右腕を振るった。

 すると触手はブチッと千切れ、闇の粒子になって消えていく。


「あっ!ええい、この馬鹿力め!」

「何が触手と戯れるだ!はっ倒すぞてめえ!?」

「あ゙あ゙!?受けて立つぞオラァ!行け!【厄介者の手(ヌーサンスハンズ)】!」

「あっ!テメエ!触手増やすのは汚えだろ!?ってうおおおおっ!?」


 俺は新たに複数の触手を召喚してコレーガにけしかけた。

 触手達は、コレーガの筋肉に容赦なく絡みつき、彼の身体を縛り上げて行く。


「あっ!あっ!やめっ!おまっ!ちょっ!?ひはっ!?マジやめっ!?くすぐったっ!?アヒャヒャヒャッ!?」


 コレーガは触手に縛られて身体中を這い回られ、笑い転げる。


「コレーガもそんな風に笑うんだね」


 アウルが笑顔でそんな呑気な感想を呟いた。

 この勇者候補サマ、戦闘センスは本当に天才だし、締める時は本当にビシっと締めるまさに貴族って感じのイケメンなのだが、若干天然ボケが入ってる時がある。今がそう。


「アハハ!アタシもコレーガのあんなん初めて見たかも!」


 シーニーはコレーガの情けない姿を見てケラケラ笑っている。

 このダークエルフ、シーニーは長命の種族故にこのパーティーでは一番の年長者なのだが、それはあくまで数字上の話。人間族換算すると、まだ、箸が転んでもおかしいお年頃なんだそうだ。ま、エルフ族にしては珍しく、ポジティブ全開で人当たりが良いので、こっちも話しやすくて良いんだけど。


「ふふ、やっぱり貴方達を見ていると元気が出るわね」


 グロリアが微笑んでそう呟いた。

 この聖女サマ、アウルの実姉だけあって天然ボケレベルはアウルと大差ない。人前だと本当に毅然とした態度の聖女様らしい聖女様なんだけど、俺等だけの時はいつもこんな調子だ。


「ヒッ!イヒッ!もうやめっ!こっ、降参っ!俺の負けでいいからっ!あひゃひゃっ!」


 コレーガは触手に身体をくすぐられ、息も絶え絶えになりながら降参を宣言した。


「しょうがねえなあ、厄介者の手(ハンズ)、やめてやれ」

「はぁ……はぁ……し、死ぬ……」


 俺が触手にやめるように指示すると、解放されたコレーガが地面に大の字で倒れ、肩で大きく息をし始めた。触手のくすぐり責めは結構堪えたらしい。

 この筋肉ダルマは、重戦士。俺達のパーティーのタンク役。コイツが敵を引き付け大盾で敵の攻撃を一身に受けてくれるから、俺達は攻撃や魔術に専念出来る。パーティーの要と言って良い。扱いが雑に見えるかも知れないが、俺としても結構感謝しているのだ。

 あとはまあ、パーティー内で俺と一番年齢が近いのも有って、こんな感じで馬鹿やれる丁度いい相手ってのもある。


「反省したかねコレーガくん?」

「ああ反省した反省した!だからもうやめろよ?」

「おっ?それは更に追加しろっていうフリか?」

「フリじゃねえよ違うわ馬鹿!」


 俺はコレーガを見下ろしからかいながら、触手を解除した。


 ──これが、【素敵な思い出(ジョリスヴニール)】、俺の所属するパーティーだ。


 所属してもう5年くらい経ったかな?

 アウルに勧誘された時、俺は丁度三十路を迎えた頃で、今はもう35歳になった。

 専属で所属したパーティーとしては、もうここが一番長い。


 冒険者なんて職業はそう長くは続けて居られない。続けて居られない理由には元々危険なのもあるのだが、体力的な問題もある。

 今は良いさ、だがこれから10年後20年後、40歳も50歳にもなって冒険者やれる体力が残っていると思うか?疑問だろ?

 だから俺ぐらいの年代の冒険者ともなると、どこかの町に定住する準備を始めているのが普通だ。

 が、俺は今のパーティーの居心地が良くてその辺を考えていなかった。出来れば体力の続く限り、コイツらに付き合って、馬鹿やれていれば満足だったのだ。


 ……でもまあ、ダメだった、と言うか、ダメになったんだけど。


 アイツのせいで。

お読みいただきありがとうございます。

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