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15.少年が見た流星 その三

 真っ暗な空間にぼんやりと浮かぶ映像。その映像には、轟轟と燃える家の映像が映っている。

 俺と竜王は、そんな映像の前に居た。


 〈おい竜王サマよ?〉

『……なんだ闇魔術士?』


 俺はアカツキの視界……だろう多分……それ越しに燃える村長の家と、ウィルオーウィスプを誘導して村の外に走って行くアリシアを見つつ、一つの疑問を隣の竜王に投げかけた。


 〈あの火災とウィルオーウィスプ……お前の輝閃弾(グリマーショット)のせいじゃねーの?〉


 昼過ぎに竜王がデイジーの花を消すために放った輝閃弾(グリマーショット)

 俺は上空高くに吹っ飛んでいったこの光弾の魔術の流れ弾が、自然消滅しないまま流れ星となって村長の家に降り注いだのではないか?ついで火の精霊が竜王の魔術に惹かれて集まったのではないか?とアテを付けたのだ。


『……』

 〈おいコラ、なんか言えや〉


 俺は黙る竜王にグイグイと肘打ちを入れる。


 どうやらここはアカツキの体内の精神世界らしく、この空間における俺の姿は元の大人の魔術士の姿に戻っていた。

 隣の竜王も大きさこそ俺と変わらないが、元のシルバードラゴンの姿で佇んでいる。

 俺たちの今の姿は、まあ多分、魂の形、ってヤツなんだろう。


 で、そんな中で竜王が冷や汗をかきながら、


『き、緊急事態であったから……多目に見……』


 と、俺に困惑の表情を向けて答えた。

 どうやら俺の懸念は当たっていたらしい。つまり、あの火災は俺らのせいだと言う事だ。


 〈やっぱりお前のじゃねーか!?アホだろテメー!?多目に見るには被害が大き過ぎるだろーが!?これを言い逃れ出来ると思うなよぉー!?〉

『グエーッ!?』


 俺は竜王の首根っこを掴んで前後に思いっきり揺らした。情けない悲鳴を上げる竜王。


 どうも魂の姿だと俺の方が力が上らしい。ドラゴン姿の竜王の身体が面白いぐらいに軽々と揺れる。いや、面白がっている場合じゃ無いんだが。


『やめっ!死ぬっ!我死んでしまうっ!』

「うるせー!お前も俺ももう死んでんだっつーの!ここはアカツキの中!俺もお前もとっくに魂だけなんだよ!今更もう一度死ねるかバカヤロー!」


 俺は竜王に怒鳴り散らしながら、更に首を揺さぶり続けた。


『まっ、待て!待て!』

「あ゙あ゙っ!?」

『わ、我を責めても事態は好転せぬであろう!?』

「そうだがァ!?」

『なっ!ならば対策を講じるのが先決であろう!?』

「確かにィ!?」


 竜王は俺に揺さぶられながら、最もな事を言う。ムカつくなコイツ。

 とは言えそれは竜王の言う通りで、俺は竜王の首から手を離す。もちろん、手荒く。


「チッ!ならどうする?今の俺らじゃ冗談抜きで手も足も出ないんだぞ!?」

『グエッ!?たっ、たわけ!だったら小童に手も足も貸して貰えば良かろう!?』

「何だって?」


 俺は竜王の突飛な提案を思わず聞き返した。


 ~~~


 僕は木の陰でしゃがみ込み、頭を抱えていた。

 何かいる、僕の頭に、何かいる。


「うぅっ?」


 頭の中から聞こえて来る、なんだか変な人達の声。

 空耳じゃ無い。姿形は見えないけど、間違いなく、誰かいる、しかも一人じゃない。明らかに何か言い争いをしている。


「あうっ?」


 怖い。だけど何故か、僕はその人達を無視する事が出来なかった。

 きっと恐怖よりも好奇心の方が勝っていたんだと思う。だから僕は、自分の方から頭の中の彼らに語りかけた。


(あの……貴方達はいったい?)

 〈うおっ?〉

『おおっ?』


 僕の問い掛けに、彼らは驚いたような反応する。

 僕としても頭の中で思うだけで二人から反応が返って来て吃驚していた。言葉を話せない僕の問い掛けに、見知らぬ二人は返事してくれた。頭の中だけとは言え、喋れない僕が会話が出来るかも知れないんだ。

 僕はそれがとても興味深くて、思わず立ち上がり顔を上げ、目を輝かせた。


(貴方達は誰ですか!?なんで僕の中に居るんです!?どうして僕と会話出来るんですか!?教えてください!お願いします!)


 僕は彼らに矢継ぎ早に質問する。

 不思議と聞けば全部答えてくれそうな気がしたんだ。

 すると、彼らの内の荘厳さを感じさせる声の人の方が答える。


『フッ、知りたいか?小童?』

(し、知りたいです!)


 僕は荘厳な声の人の問いに間髪入れずに答えた。

 誰だか分からないけど、きっとスゴイ人だ。僕の直感がそう告げている。


『フム、ならば教えてやろう。我は光の大天使ルミナ……』

 〈おいコラ!今はそれどころじゃ無いんだよ!〉

『ぬう……』


 と、もう一人の力強い声の人が、荘厳な声の人の言葉を遮った。


 こっちの人は、声からして多分大人の男の人だと思う。なんだかガラの悪い人のようにも聞こえるけど、不思議と親近感の湧く声だった。僕の直感が正しければ、多分悪い人では無いと思う。


 そしてその力強い声の人は僕に言ってくる。


 〈アカツキ!悪いがちょっと俺に身体を貸してくんねーか!?〉

(えっ?僕の身体を?)

 〈そうだ!あの火事の消火をしたい!あとお前の母さんの手助けもな!ちょっとの時間で良いんだ!俺にお前の身体を貸してくれないか!?〉

(……)


 力強い声の人の提案を聞いた僕は、考えを改めて身体を強張らせた。


 前言撤回、これは悪魔の囁きだ。本で見た。

 この後この人達は僕に魅力的な提案をして、その提案に釣られた僕が申し出を受けたが最後、僕は身体を乗っ取られて魂を食べられて、次々に周りを不幸にしていくんだ。悪魔達は僕を使って、母さんや村の人達を悲しませるんだ。

 そんなのは許せない、許さない。絶対にコイツらの言う事なんて聞いてやるもんか!


 〈おいアカツキ!聞いてるか!?火の勢いが強くなって来てる!急ぐんだよ!〉

(あ、悪魔め!僕の中から出ていけ!)

 〈へ?お、俺が悪魔ぁ?〉


 力強い声の悪魔は、僕の明確な拒否の声を聞いて、間抜けな声を上げた。

 僕はそんな悪魔に、更に強く言い返す。


(そうだ!お前達は悪魔だ!どうせウィルオーウィスプを呼んだのもお前達だろ!)

 〈えっ?あっ……それはえっと、おいぃ?〉

『ぬっ?いや、しかし……うぬ……』


 僕の言葉に悪魔達が同時に言い淀んだ。まさか本当にコイツらがあの火の精霊を呼び込んだのだろうか?だとしたら本当に許せない。


 〈いぃ、いやいや!?少なくとも俺は悪魔じゃねーからな!?〉

(誤魔化すな!お前みたいな悪いヤツは皆そう言うんだ!出ていけ!僕の中から出ていけ!)


 そう言って僕は自分の胸をベシベシと強く叩いた。


 僕に悪魔を祓う力なんて無いけど、強い意思が悪魔を跳ね除ける、って本で見た。僕は悪魔の誘惑に負けないよう、この身を乗っ取られないよう、精一杯気を張って悪魔の囁きを振り払わなければ。


 と、ここで荘厳な声の方の悪魔が口を大きな声を上げる。


『たわけ!貴様が我の名乗りを省くからこうなる!小童とて何者だか分からぬ怪しい者にそうホイホイと身体を貸す訳が無かろう!?』

 〈いや、だって火事とウィルオーウィスプが……〉

『闇魔術士!貴様は小童の身体を借りたいのだろう!?ならば先に名を名乗れ!それが礼儀と言うものだ!』

 〈ぬっぐ……ドラゴンのクセにもっともらしいこと言いやがって……っていうか元はと言えばお前のせいだろ!?〉

『あ、あの状況では致し方無かろう!?我だってやりたくてやった訳では無いわ!それともあのまままた死んでいれば良かったとでも言うか!?』

 〈そんなの良いワケねーに決まってんだろ!?俺はもうちょっと加減を覚えろつってんの!魔術ってのは普通もっと効率考えるモンなんだよ!テメエは考え無しにブッパし過ぎだこの銀トカゲ!〉

『アーッ!?また我をトカゲと言ったな貴様ァァァッ!?』


 僕の中で言い争う悪魔二人。なんで人の中で仲間割れしてるんだろうこの二人?


 ……さて、本来なら僕はこの会話に耳を貸すべきじゃない。

 だけど聞こえちゃったんだ。僕の興味を引く言葉が。

 それで居ても立ってもいられなくなった僕は、言い争いを続ける二人の間に割り込むように心の声を上げた。


(貴方達魔術士なんですか!!??)


 僕はまた目を輝かせて二人に問い掛けた。


『ぬ?』

 〈へ?〉


 突然の僕の質問を聞いた二人は、拍子抜けしたみたいで言い争いを止める。


 この数秒間で、僕の頭からは二人が悪魔だなんだなんて事は、すっぽり抜け落ちていた。


 理由は分からないけれど、僕の憧れの存在が、憧れに近付ける存在が、僕の中に居るかも知れない。

 何も出来ないまま、何者にもなれないまま、役立たずとして皆の足を引っ張りながら生きて行くしか無かった僕の人生に、光明を差してくれるかも知れない存在が、僕の中に居る……かも知れない。

 そんな風に思ったら、もう僕は止まらなかった。


(教えてください!貴方達は魔術士なんですか!?)


 僕は僕の中に居る二人の悪魔に必死で問い掛ける。

 すると二人は、少し間を開けて答えた。


『我は魔術士では無いが、こっちは……ほれ!今度こそ名乗らんか、たわけ!』

 〈たわけは余計だっつーの!……あー、アカツキ、俺の名前はバクタ、バクタ・ナガラだ。コイツが言った通り、魔術士をやってる。属性は闇、闇魔術士だ〉


 荘厳な声の悪魔が、力強い声の悪魔を小突き、力強い声の悪魔は名前を名乗った。

 バクタと名乗った力強い声の悪魔は、自分が魔術士だと言った。


(魔術士……!本当に!?)


 バクタと言う悪魔が魔術士だ、と聞いた僕は、更に目を輝かせる。


 〈ああ本当だぜー?つっても、もう死んでるけどな、この竜王のせいで〉

『ええい、一々うるさいぞたわけが』


 バクタは、僕の中に居るもう一体の悪魔の事を竜王と呼んだ。


 竜王……?ドラゴンの?竜王ってあの本で読んだ伝説の?それがなんで僕の中に?


 僕の頭は混乱してきた。

 けど、そんな混乱なんてお構いなしに、僕は二人に問い掛けた。

 僕の心がそうさせた。


(あ、あの!バクタさん!僕はアカツキっていいます!僕、魔術士になりたいんです!教えてください、魔術士になるにはどうすれば良いですか!?)


 僕の問い掛けに対し、バクタさんは少し間を開けて答える。


 〈知りたいかアカツキ?魔術士になる方法を?〉

(はい!知りたいです!)


 僕は即答する。だって知りたいんだから。憧れの英雄、本で読んだラフレア様に近付ける存在、魔術士の事をもっと知りたいんだ。

 するとバクタさんは、僕にこう言った。


 〈じゃあアカツキ、ちょっとの時間だけでいい、俺に身体を貸してくれるか?そこの火を消したら、まあ、一端の魔術士になれる程度には教えてやるから〉

(本当ですか!分かりました!貸します!)


 僕は即答した。


 やっぱりこの人達は悪魔だ。だって、僕は今、嬉しいんだ。僕は悪魔に魂を売るような行為をして、喜びを感じている。こんなこと、母さんや村の皆に話したら、きっと止めろって怒鳴るだろう。でも、僕は止まらない。止まれない。いや、止まる気がない。


『小童……もっとこう……もう少し悩むべきであろう?』


 竜王さんが、僕に忠告してくる。

 忠告と言うか、多分、呆れてる。


(竜王さんごめんなさい、僕もう止まらないんです!魔術士になりたいです!)

『ぬう……人型は皆こうなのか?』


 竜王さんが、呆れたように呟いた。

 バクタさんはそれを聞いて、笑いながら答える。


 〈ははっ、思い切りの良いヤツは嫌いじゃないってねえ!よぉし分かった!アカツキ!お前はちょっとの間身体の奥に引っ込んで見学しててくれ!その間にお前の身体に存分に魔術士の体験をさせてやるからさ!〉

(はいっ!お願いしますっ!)


 僕は元気よく答え、バクタさんに身体の主導権を明け渡す。

 もう2度と身体を返して貰えないんじゃないかって、ちょっと思った。けれどきっと、このまま何も出来ないままの僕で終わるよりかはマシ。


 意識がすぅーっと遠くなっていく感覚と共に、僕の身体が一瞬、ふっと浮いたような気がした。


(……わわっ?)


 気づけば僕は真っ暗な空間に居た。隣には銀色の鱗を持つドラゴンが立っていて、やれやれみたいな表情で僕を見ている。僕は直感的に、この人が竜王さんなんだろうと気付いた。


 そして次の瞬間、僕は見た。


 真っ暗な空間に浮かぶ光の映像。


 そこに映る、ピンク色のツインテールをたなびかせた何者か。

 まるで、本で見た英雄のような誰かが、歩き出すところを。

お読みいただきありがとうございます。

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