01.プロローグ その一
また書き始めてみました。
今回は中世風ファンタジー転生憑依モノです。
とりあえず区切りの良いところまでは進めているので、どうぞよろしくお願いします。
地面から轟々と燃え上がるマグマ。
熱波が渦巻く火山の中腹で、銀色に輝く鱗を持つ巨体のドラゴンと戦っているのは、5人の男女の冒険者たちだ。
巨体に銀色の鱗を持つドラゴン、冒険者達に竜王と呼ばれるそのシルバードラゴンは、ところどころに傷を負っているのか、鱗が錆びたようにくすんでいる箇所が見られた。
その竜王の周囲で、黒い服に身を包んだ、ピンク色の髪の毛の闇魔術士の男が、青い宝珠付きの杖を掲げていた。
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「暗黒の大天使アスモデに願う、深淵を彷徨う闇人たちよ、現し世に顕在し……」
『詠唱なぞさせぬっ!』
俺は持っていた杖を竜王へと向けて魔術の詠唱を始めたけど、当然竜王はそれを妨害しようと攻撃を仕掛けて来る。
「へっ?うおおわーっ!?」
俺の目の前に迫るのは、竜王が振りかぶった鋭い爪付きの前足。
当然、こんな攻撃を食らえば、ただの布装備の魔術士な俺はひとたまりもない。良くて地面に叩きつけられて内臓破裂、悪けりゃ爪で切り裂かれて上半身と下半身がおさらば。
でも、俺は1人で戦っているわけじゃない。
「させっかよぉっ! 【闘気盾】!」
『チイッ!?背高属の戦士風情がぁっ!』
大盾を構えた背の高い男戦士、コレーガが、俺とドラゴンの間に割り込み、ガインッと大きな金属音を響かせながら、竜王の前足を盾で防ぎ止めた。
「隙だらけだってのっ! 【流星撃ち】!」
『ぐおっ!? 我の目がぁっ!? ダークエルフめぇぇっ!』
続いて、動きの止まった竜王の右目目掛けて、ドシュッと勢いよく光の矢が突き刺さった。
これは、高台に陣取って居たダークエルフの女弓手、シーニーが放った一撃だ。トドメには至らなかったが、目を潰し注意を逸らすには十分過ぎる威力の攻撃だった。
「っくぅ〜っ! こりゃキッツいぜぇー!? バクタァ! 早くしろォ!」
「バクターっ! 早く早くっ!」
コレーガとシーニーは、口々に俺を急かす。
「サンキュー! 分かってるよ! コレーガ! シーニー!」
俺はチャンスを作ってくれた二人に礼を言いながら、再び巨大な竜王へと持っていた杖を向けた。
「……其の腕で光を奪い取れ! 【厄介者の手】!」
俺がそう叫ぶと、詠唱は完了し魔術が発動する。
竜王の足元に大きな禍々しい魔法陣が出現し、魔法陣から竜王を囲む無数の闇色の手が発生した。これは俺の十八番のスキル。敵の自由を奪う数多の闇の触手だ。
『ヌオオオッ!?』
闇の手達は竜王の四肢に纏わり付き、その巨木のような四足をガッシリと締め上げて、予想通りにあっさりとその自由を奪った。
と同時に、闇の手に触れられた竜王の銀の鱗がジュウジュウと音を立てて黒ずんで行く。
『グウウッ!? また我の鱗をっ!?』
竜王が不快感に顔を歪ませて唸る。自慢の銀の鱗がこうも簡単に汚されては溜まったものではない、そんな顔だ。
だが四つ足を縛られた竜王にはもう逃げ場はない。背中の翼をバッサバッサと動かして飛んで逃げようとしているが、そんなもので逃がすほど俺の闇の手は緩くない。
『身体が動かん!? おのれ闇魔術士ィィーッ!』
竜王は"してやられた"という表情で俺を睨んでいるが、俺に詠唱させたお前が悪いんだよ。
「よっしゃ! アウル、今だ! 行けっ!」
俺はそう言って仲間、特に攻撃力の高いアウルへこの好機を任せた。
「ああ! 任せられたっ!」
大きな両手剣を握ったアウルが、竜王に向かって素早く駆け出した。
「もう一度ギガテンペストで行く! 皆! 巻き込まれ無いように離れてくれっ! ハアアアアッ!!」
アウルはそう言って走りながら、両手剣に魔力を込めバチバチと電撃を纏わせた。次第に両手剣は光子で出来た剣に変わっていく。俗に言う、ビームサーベルってヤツだ。
だが竜王もむざむざ斬られてくれる訳もなく。
竜王は俺の厄介者の手に拘束されたまま、アウルに向かって鋭い牙付きの口をカパッと開けた。
「「「アウルっ!」」」
皆でアウルの名を呼んだ。
だってこりゃあ不味い、竜王はアウルに光のブレス攻撃を仕掛けるつもりだ。竜王の光のブレスともなれば、喰らえば生身の人間なんざ灰も残らない。
流石のアウルも、至近距離からドラゴンのブレスを浴びては無事ではいられない。と言いたいところだが、アイツならギリ耐えそうだからなあ……。
などと思っていたら、すかさず仲間の最後の1人がアウルの援護に入った。
「【富と栄光を】!」
綺麗な澄んだ女の声が、火山の山腹に響く。
後方に控えていた神官のグロリアが、翠玉の付いた杖を掲げて魔術を発動させていた。
同時に6つの緑色の宝石がアウルの前に飛び込んできて円陣を組む。
『ゴアアアーッ!』
竜王がアウル向けて光のブレスを吹き出した。
轟音と暴風を伴い、猛烈な閃光を伴うブレスがアウルに襲いかかる。
しかし、
「【勝利者に】!」
同時に、グロリアが魔術を追加発動させていた。
アウルの前で浮遊した6つの宝石が、薄っすらと透き通ったシールドを張った。そして竜王の光のブレスを事も無げに遮断する。
『なにィ!?我のブレスを防ぐだとっ!?』
竜王は驚愕の声を上げる。よっぽど自分の光のブレスに自信があったらしい。しかしブレスを吹き付けながら喋るとか、どっから声を出してんだか、器用な真似をするもんだ。
「姉さん助かる!行くぞぉっ!」
緑色の宝石のシールドに守られ、心置きなく大技を振るえる状況になったアウルは、
「はあああっ!」
と気合の入った声を上げて、光の剣を頭上に掲げたまま高く跳び上がった。そして光の剣を更に巨大化させていく。
電撃を纏った光の剣は、電撃と魔力を伴う光の粒子を収束させて、強力なエネルギーを持った巨大な光子剣へと成長する。そしてその大きさはもはや竜王の巨躯を超え、大地を切り裂かんばかり。
今まで、アウルのあの技を喰らって無事だったヤツはいない。文字通りの必殺剣だ。
『おのれェ!雷術剣士風情がァァッ!』
「喰らえ竜王ッ! 【電光雷迅斬】!!」
アウルはそう叫びながら、その必殺剣を竜王へと勢い良く振り下ろす。
『グオオオッ!?』
ブゥンと空気を切り裂く音と共に、アウルの巨大な電光剣は竜王の光のブレスを切り裂きながら進み、そのまま竜王の首をスッパリと両断した。
『ガッッ……』
それが、竜王の断末魔。ボトリと地面に落ちる竜王の首。遅れて巨躯の身体がズシンと倒れ込む。すると、竜王自身の行き場を無くした強力なエネルギーが故か、竜王の身体が大きな爆発を起こした。
同時に、大きな紫色の魔石が爆風で上空に吹っ飛ぶ。あれは魔紫石、モンスターを倒した時に現れる魔石アイテムだ。
つまり、あのドラゴンからこれが出たと言うことは……俺たちの勝ち。
「はっ!」
アウルは爆風に背を向けたまま、巨大な光子剣を降ろして残心の構えを取っていた。斬心の構え、要するにありゃ勝利宣言のポーズ。
もし勝利のファンファーレが有るなら、ちょうど今、高らかに鳴っているところだろう。
「っしゃあああっ!ナイスだアウル!よくやった!」
「やったじゃん!アウル!」
「流石だぜ!アウル!」
皆で口々に称賛を述べながらアウルに駆け寄った。
「あははっ!皆のお陰だよっ」
俺達の称賛に、アウルは両手剣を鞘に収めながら、謙虚に笑って応える。
「なーにが皆のお陰だよ〜だ!お前はもうちょっと自分を誇れ!この勇者候補が!」
俺はそう言ってアウルの頭を軽く小突く。この勇者候補の英雄様は、実力も実績があるクセに、謙虚すぎるのだ。まあ、そこがコイツの良いところでもあるのだが。
「あいたっ?もー、バクタ、痛いじゃないか」
「この野郎ぉ~、謙遜し過ぎは逆に嫌味に聞こえるって前に言ったろうが!お前はもう立派な勇者候補様なんだっつうの!胸を張れ!胸を!」
「そ、そうは言ってもね……僕はただの雷術剣士な訳で……」
アウルは俺に小突かれた頭をさすりながら、困った表情でそう呟く。
「おう?雷術剣士の勇者様がどうしたって?」
コレーガが、からかい気味に、しかしアウルの謙遜を笑い飛ばす。
「コレーガ、その言い方は語弊がある。僕はあくまで勇者の候補であって……」
アウルはコレーガの茶化すような言葉にも真面目に答えようとする。コイツにもうちょっとでも傲慢なところがあればなあ……ぜんっぜん、無いんだモンなあ……。
「アハハ!良いじゃん良いじゃん雷術剣士の勇者様!このでっかいドラゴンの身体をズバーっと斬れる冒険者なんて、アウルぐらいしかいないんだからさ。もっと自信持ちなよ!」
シーニーはアウルの肩をバンッと叩きながらそう言った。
「しーにぃ……痛いよー……」
アウルはシーニーに小突かれた肩をさすりながら、困り顔で答える。
参ったねえ、アウルがもっと嫌なヤツなら俺だって対抗してやろうって気にはなるんだが、コイツはこの通り、誠実と真面目が剣と鎧を纏って歩いているような、ホンモノの英雄様だ。俺としても感服するしかねえのよ。しょうがない。
と、3人でアウルにダル絡みしてると、グロリアが杖を掲げ、魔術を発動させた。
「【再生結界】、皆、お疲れ様」
グロリアはそう言って傷と疲労を癒す光の結界を張り、俺達を労った。優しく穏やか、器量良しの我らがリーダー、グロリア様からの労いの言葉、頂きました。
「「「「おう!(おー!)」」」」
俺達はグロリアに向かって片手を上げ、口々に感謝と勝利の雄叫びを上げて喜んだ。
お読みいただきありがとうございます。
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