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第二話 平和な帰り道

 その日は時間割のような簡単な説明で終わった。……ちなみに、先生の名前は黒幕先生で決定した。それで本当にいいのか先生。

「じゃあー!!ねー!!」

「喜雷くんうるさいよー。じゃ、ボクは魁斗くんと一緒だから♪」

「じゃあな。なっ、おい」

 木荃が屍形の腕をひく。少し嫌そうな顔をした屍形だったが、そのまま大人しく引っ張られていった。と、思ったその矢先、屍形は突っ立って手を振る英蔓の姿に気がつくと力を入れて立ち止まった。

「どうしたの?」

「……英蔓、お前は帰らないのか?」

「あ、あぁ俺は……」

 英蔓がそういうと、太谷が遠くで振り返り、そして息をためて言った。

「英蔓くんは!学校に!!住むんだってー!!!」

 “プライバシーの権利”を知らないその叫び声は、彼ら以外の姿が見えない寂しい町にやまびこのように反響した。

「「「うるさい(って)(よ)(ぞ)!」」」

 さすがにこたえたらしい。太谷は頭をほんの少しだけ下に向けた。……誤差の範囲である。

「まぁいいとして、それでなんで太谷が知ってるんだ……?」

 英蔓はぼそっと呟いた。その情報は太谷が持っているとは思えなかったからだ。

「く、黒幕先生に聞いたー!」

 英蔓は分かりやすく驚いた。

(今の呟きが、五十メートルは離れている屋外で聞こえるということは太谷は相当耳がいいのかもな。黒幕先生に聞いたってのも、本当は俺と先生が直接話しているのが聞こえてしまったのを隠そうとしているだけなんじゃないか?)

 ところで学校に住むって、いったいなにがあったのか……それは十数分前のこと。




 先生の話が終わり、みんなが帰ろうとする中英蔓だけが黒幕先生に呼び出された。

「単刀直入に話そう。英蔓……お前ぇ、ここに住んだらどーだ?」

 黒幕先生が指を下に向けてトントンと、穴の空いた教卓を叩きながら話し始めた。

 英蔓の時間が止まった。英蔓は学校に住む……ということが理解できなかったのだ。学校を住むための住居として紹介している書物は、少なくとも英蔓の家にはなかった。

 当然だ。

「……え?いや、俺家ありますよ?」

「んなこたぁ分かってる。なんせ行ったもんなぁー直接。ただあそこ、電気もガスもねぇだろ。ここには十分生活できるだけのものが揃ってるし、足りねぇ物がありゃ足してやればいい。どうだ、悪い話じゃねぇだろ。それとも……お前は家に囚われるか?ま、強制するつもりはねぇ。一つの提案としてだg」

「先生、家に囚われるって……どういう意味ですか」

 英蔓が黒幕先生の言葉を遮ってそう尋ねた。黒幕先生は怪しくにやりと笑った。

「俺がお前らを、適当に集めたと思ってんのか?」

 黒幕先生からはどこか余裕を感じられた。その声のトーンは確実に下がっていた。

 英蔓は、理解が追いついていなかった。予測していたとはいえ、信じがたかったから……。

 しばらくして英蔓はその説を信じることにし、そして一つの可能性にたどり着いた。

「……ここに集められたのは……四人……まさか!」

「ほぉー、だが違う。お前の家を以外の三つは既に絶えている。紀元前の話だ」

 黒幕先生は俺の事情を……あの事を知っている。でもなぜ?どうして知っているんだ?

「じゃあ……」

 いや、俺の家系も、俺とあいつら以外は……。

 うつむく英蔓を見て黒幕先生は足を組み替えて言った。

「それで、どーする?ここに住むか?」

 ここに住めば、黒幕先生からなにか情報を得られるかもしれない。わざわざ先生から離れる理由はない。

「……はい!」




 と、いうわけで俺の家は山奥のボロボロの小屋から町のはずれの廃校にレベルアップ(?)した。



 ー木荃、屍形の帰り道

 人一人いない薄暗い道路。そこは道路も壁も学校のようにヒビが入っており、とても通学路とは思えない場所。落書きですら、そこにはなかった。

 そんな場所に人影が二つ、ゆっくり進んでいる。

 黒い帽子をかぶり、黒く長いフード付きの上着を紫のシャツの上に着た小柄な男の子、屍形魁斗が、隣の薄い茶色い長袖シャツの、緑の布を腰に巻いて紐で結んでいる男の子、木荃好葉に話しかけた。

「なぁ、木荃で良かったよな」

「?うん。良いよ。ボクは昔のボクを殺した。今は、木荃好葉だよっ♪」

 木荃は横を向いた。金のネックレスが身軽にふわりと揺れる。目は笑っていなかった

 屍形はしばらく考えると、小さくうなずいた。

「そうか……分かった。それで木荃、あの二人についてだが」

「うーん、どっちから話そっか。賢くん?喜雷くん?」

 歩く速度が落ちる。

「英蔓からといこう」

「分かった。賢くんか〜、あの伝承が正しければ……さ」

「あぁ、光を帯びる唯一の者がどうとかいうやつだな。ニンゲン共はその選ばれし者を」

 カラスの鳴き声が連鎖し、続きを掻き消した。

「だが有り得るか?紀元前の話だ、いくらヤツでも生きているはずが……」

「それなんだけど……賢くんの魔力、光属性だったとはいえ、ボクよりも弱かった。魔力を削って生き続けたか、あ、それとも子孫か」

「なるほどな、そういうことならお前の方が得意だ。そうか子孫か。若返りでもして本性を隠して生きてきたのかと」

 屍形は少しの間考えると言った。

「今はまだ、おれたちの正体には気づいていないだろう。敵意を感じなかった」

「そうだね」

「木荃の感覚を信じれば、今なら気づかれても勝てる」

 木荃は首を傾げた。屍形がそれを見てキョトンとした。少しして、木荃はハッとした様子で顔を上げた。

「あれ、トラウマじゃなかったっけ。前に言っていたような……」

「何十年前の話だ……。確かにそうだ。だからこそ、そのトラウマを消してやる」

「そっか。でもまぁ今は様子見だね。ボクは平和に生きたいんだ。下手に暴れても良くないでしょ?」

 木荃の言葉に屍形は深く頷いた。

「それでー次、喜雷くんなんだけど……」

「そうだな、あいつは不味い。“英蔓なんかよりもずっと”」

「なんというかね……喜雷くんの魔力、ボクの『天津ノ月(アマツノツキ)』に近かった」

「なるほど、それであの見た目。納得した」

 木荃の足が止まった。

「え、なに?……まさかとは思うけど」

「あぁ。不完全だが有り得る。いや、むしろそうとしか思えない」

「……ね、話変わるけどさ。誰かいるよ」

 木荃の、綺麗な緑の目の中のオレンジと紫の光がきらりと輝く。そして目を細めて後ろをこっそりと覗いた。まるで都合のいいターゲットを見つけたいじめっ子のような、動物が狩りをする時のような、遊ぶ前の子供のような目。急に別人のようになった。

「隠す気のない悪意……今殺るつもりか」

「……ふふっ、もちろん……♪」


 ー太谷喜雷の帰り道

 人一人いない薄暗い道路。しかし道路も壁も学校のようにヒビが入っている訳ではなく逆に綺麗で、とても誰もいないとは思えない場所。ただ一つ、謎の落書きがそこにあった。


(王)/○\(。)


  そんな場所に人影が一つ。うつむきながら進んでいた。

 丸っこい体をし、ツンツンにとんがった爆発のような黒い髪の毛の男の子……?の太谷喜雷が、なにかブツブツ言っていた。

「今のところは順調だな。オレたちが会えてる時点でラッキーだ。でも警戒しないわけにはいかない。この世界で倒せたらいいんだけど……さっすがに厳しいかな〜」

 太谷が歩くたび、足がぷにっぷにっと軽く潰れては戻っていく。太谷はふと立ち止まると、ぼそっと呟いた。

「何か、嫌な予感がする。想定外の事が、もう時期起こる気がする」

 太谷は頭のトゲトゲを掻きむしった。ぐちゃぐちゃになった髪型は、次の瞬間には元に戻っていた。

「記録にないことをされるとオレと先生が困るんだ。こういう時は、神頼みをするべきか……少なくとも、頼む相手は選ばないとね」

 太谷は一つ、雷撃のごとくバカでかいくしゃみをすると、雲ひとつない空を見上げた。

「あ〜、もしもし。誰かオレのウワサした?」


 ー木荃、屍形の帰り道……続き

 二人はさらに暗い奥へと進んでいった。そこはもう、昼間とは思えないほどに真っ暗な場所。それでもどんどん突き進んで行った。無限に感じる一直線だった。

「あのガキども……どこまで行く気だ?」

 二人の背後十メートルほどの電柱に、黒い帽子とサングラスをつけた、見るからに怪しい男がコソコソと隠れていた。

「クソ、適当に誘拐したらあとは金を貰うだけだっつーのに、んだココ。どこなんだよ」

 二人は先程から小声でなにかを話している。ここから内容は聞き取れない。

「あのショートカットの女とチビ、もしかして俺に気づいて?それでどこかに誘導しようと……いやまさかそんな」

「おじさんすごいね〜!正解だよっ!」

 突然、一人が振り返ってそう言い放った。

 あたりにやや高い、余裕そうで楽しそうな声が響き渡る。 その声に驚いたのか、無数のカラス達が大声で鳴きながら暗い空へと飛び立った。

「クソ、本当についてねぇ……!」

「逃がさないよ。ターゲットが悪かったね。それと……ここに女の子なんていないと思うよ?ボクもこっちも男の子……って」

 不審者は短くクソっとだけ呟いて逃走した。不意打ちに失敗し、十分な距離をあけられ、ましてや戦闘態勢ときた。別の、もっと連れ去りやすいやつを選んだ方が良いに決まっている。

 その時、もう一人の男の子は言った。

「木荃が逃がさないと言ったんだ」

 その一言は重かった。全力で走っていた不審者の足がピタリと止まった。

(心臓の音がうるさい。なんだ、今の声は……呪いでも込められていたみたいに身体が言うことを聞かねぇぞ……!?)

「逃げられるわけがない……こいつと、俺とを相手して」

 男はその場に膝から崩れ落ちた。顔を地に向ける。冷や汗が、過剰な心拍が、止まらない。

「ね、キミ。顔を上げてよ。奥になにか見えない?」

 男はゆっくりと顔を“上げさせられた”。男は本能で理解していた。この二人は本当に、関わってはいけない存在なのだと。自分の命が危ない……いや、もう既に……。でも男の脳みそは、それを処理しきれなかった。

「見えた?綺麗な川だよね……。まったく濁ってなくて美しいと思う。そばに無数に積まれた不気味な石の塔さえ良いと思うんだ。気づいてなかった?ボクらあれを越えてきたのに」

 それがなにで、つまりどういう事なのか……男が感じ取るのに時間はかからなかった。ちじこまっていた身体から途端に力が抜ける。今はもう、その時を待つのみ。

「お前たちは……何者なんだよ……」

 いつの間にか迫っていた屍形が、丸まった背中を右足で踏みつけて言った。

「貴様に名乗るものなどない。大人しくくたばれ。そうだな、今ここで頭を垂れ、その汚れた体から血を流すというのならば機会を与えてやろう」

 そう言って足を下ろす。屍形の足があった場所の服は、ただでさえ黒かったのが焦げたように真っ黒になっていた。

 男は滑稽とさえ思える速さで頭を地面に打ち付けた。当然、少しではあるが出血した。

「……質問だ。嘘偽りなく素直に答えろ。貴様はおれたちに私利私欲がために危害を加えようとしたな」

「……はい」

「目的が済んだらおれたちをどうしようとしていた。殺していたか?」

「いえ……いいえ!俺は……殺そうとなんて一ミリも……!」

 久しぶりに男に力が戻った。あまりの極限に、明日を迎えようとする力が恐怖に勝ったのだ。だが……。

「うそだ。こいつ、こう言って生かしてもらおうっていう考えで埋め尽くされてる。罪が軽くなるとかなんとか、ボクの嫌いな汚い考え」

「あ……」

 男の顔の横に木荃の靴の先が迫り来る。おかしかった。ついさっきまで声は後ろから聞こえていた。今目の前にいるのは不自然だった。

 そして男は壁にめり込んだ。顔は破裂し、大量の血が飛び散った。脳もぶちまけられた。ガラガラと音を立てて壁は崩れていった。

 瓦礫の隙間から視線が転がってきた。

「ヒトってもろいんだね。ボクだと再現できないや」

 その時木荃は軽蔑か、もしくは哀れみに近い眼差しを無表情で男に向けていた。どちらかは分からないが、普段の彼の楽しげな様子からは絶対にうかがえないその目は、とてもこの世のものとは思えなかった。

「魔力を込めた必要は?」

 淡々と低く、暗い声が響く。非常に落ち着いており、彼が今のこの状態が当たり前だと認識しているのが伝わってきた。

「ボクはくだらないイタズラが大好き!確実に成功させてやりたい!だからどんな小さなイタズラでもしっかりと準備する。今回も、コイツを仕留めるためにやったこと!でしょ?」

 その時、彼は笑っていた。まるで小さな子供が、今日起こったことや自分がやった事を親に説明しているようだった。どこか自慢げだった。心の底から楽しそうだった。

「そうか……まぁいい。空間全体ならまだしも、川だけを作り出せとは、なかなかな頼み事だな。面白い」

 二人は歩き出した。何事もなかったように、なにも浴びていないかのように、平然と真っ赤な姿で歩き出した。

「でしょー?良いイタズラだったと思うんだぁー♪でさ、最後のデザート、黒幕先生について話そうよ」

  川が煙のようにふっと消え去り、そこはさらに暗くなった。なぜ彼らが真っ直ぐに進めているのか分からないほどに、そこは、黒のみで構成されていた……。

こんにちは!はとです!

ってなわけで、キャラが読者を置き去りにした話を展開し、木荃好葉に至っては別人のように豹変した第二話でございました!屍形は……あんま変わってないか。それで言ったら太谷喜雷!珍しく静かなシーンがありました。貴重です。

書き直してみるとこの頃は終盤よりもちょっと多く書いてたんですね〜。今回5000文字超えました。終盤は一話あたり3000文字程度にしようと決めていたので……あんまり長すぎてもって思ったんですよね、当時。サボりだとか内容がないよう()だとかそーゆーわけではなく。キリが良かったのもあって……え、言い訳じゃないです。まじで後半はほとんど全部3000文字程度だから。

ちなみに不審者さんの名前は、浦島幸太郎(うらしまこうたろう)です。悲しき男です。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

ご意見ご感想お待ちしております!

それではまた!( *¯ ꒳¯*)ノばいばーい♪

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