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第一話 振り出し

 虚無の世界に声が一つ。

「さて、次の次元は……」

 零に響くその低く威厳を感じさせる声は老人のようだった。その声は確実に存在していた。だが、その果てなき空間に声の主らしき人の姿は見えなかった。ただ、白色の球が浮かんでいるだけだった。


 666


「……一度、彼らに我を任せよう」

 誰かがそう言ったその瞬間、空間内にまた別の声が響いた。甲高い、けれど愛らしい叫び声だった。それは誰かの産声であった。

「賽は投げられた。今度こそ彼らを、勝利へ導いてみよ。愛おしく忌々しい“勇者”よ」


 俺は英蔓賢(えいづる けん)。この春、ある男に誘われて念願の学校に通うことになった。

 今までは通うことができなかった学校……本からの情報しかないけど、今までのような生活は終わってくれるはずだ……。

 正直なところすごく怪しい話だった。なんの前触れもなく山奥の俺の家まで訪ねてきた、眼鏡をかけた中年の男……。手には黒い石のような板を持っていた。

 その男の話によると、俺はお金を払う必要がなく、さらに最低限の生活を保証してくれるらしい。その時は喜びと困惑で頭がいっぱいだったし、そもそも死にかけていた状態だったから不審に思うこともなかったけどさ、今ではどんなボランティアだ、と言いたい。犯罪に巻き込まれに行くようなもので、百二十パーセント詐欺だろう。

 ……でも、あの人はわざわざ人里離れた山奥に来てまで、俺に会いに来た。真剣な表情で俺が必要なんだといった。限界の状態だった俺に食料をくれた。そのおかげで今俺は生きている……。

 それにどこか、感覚だけど……俺やアイツらと似た気配だったんだ。俺は、もしかしたらと思ったんだ。


 地図を片手に灰色の街を歩く。人の気配ひとつない。……山を降りたのは随分久しぶりだ。もう山が小さくしか見えない今でも緊張している。大丈夫なはずなのに。

 角を曲がった時、鮮やかな桜の花びらが、一つだけ舞っているのが見えた。道路の中心でくるりくるりと回転し、そのまま力無く落ちていった。突然強い風が吹いた。そのせいか、花びらは目を離した隙に細かく切り裂かれ、そして飛ばされてしまった。

 ふと見上げると、そこには見るからに廃校となった学校があった。あの男が去り際に置いていった地図に示された、学校のある場所だった。

「は、はは。まさかここが?いや、そうだよなー、さすがに嘘だよなー!まったくいい趣味してるよあの人!」

 自分で言うのも変だが、こんな子供を騙して、何が楽しいのだろう。俺はとにかく大きな声でまくし立てた。寂しくて、悔しい……そんな負の感情を隠すためにあえて大きな声を出した。俺は弱かったらダメだから。それにこの街には誰もいない。誰かに聞かれて恥ずかしい思いをすることもないだろう。

「はぁ、失ったものはないし……帰るか」

  そうぼそっと呟いて校舎に背を向けたちょうどその時、後ろから声が聞こえた。

「おーい!英蔓君だよね!ちょ、帰らないでー!?」

 あまりにうるさい声だった。それになぜか俺の名前を言っていた。気になって振り返ると、校舎の二階の窓から誰かが手を振っているのが見えた。あそこに気配なんて感じなかったのにいつの間に……。

「え?」

 その声はまだ声変わりしていない少年のものだった。でも何度見ても、その声を出しているのは殴り描きされたような顔の小さな人形だった。

「なんだ、魔物か!?」

 思わず身構える。もしあいつが人間じゃないのなら、俺が気づけなくてもおかしくない。気配を隠すタイプなんていくらでもいる。そもそも感じ取れないほどレベルの高い者もいる……らしい。

「……そんなわけないか。忘れて帰ろう」

 もう一度背を向けた。こういうのは関わらないのが一番なんだ。

「ちょっとまったぁー!オレに気づいてるよね!ね!帰るなー!ここに通うんだろー?」

 どんな声量してんだ!

「誰ですか!?静かにしてください!!」

「わぁ〜!やっと話してくれたー!え?オレー?オレは喜雷!太谷(たいだに)喜雷(きら)!こっち来いよ〜!あ、一年三組な!」

 ……行くべきだろうか。あの男の話が本当だったら行く以外選択肢なんて……間違いない、あの得体の知れない、きらとかいう奴のせいで信じられなくなっている。

「他のふたりも待ってるよーーー!」

 危なければ逃げれば良い……か。

「……分かったー!」


 正面の門をくぐると、一気に肌寒くなった。ただそういう思い込みだったのかもしれない。しかし道には亀裂が走っており、また雑草に覆われていた。普通、誰であっても恐怖を感じるだろう。別に俺がビビりなんじゃない。普通だ。

  いざ校舎に足を踏み入れてみると明かりが灯っておらず薄暗かった。途中、暗くて気づけなかった足元のコケで転んだことは、死んでも永遠に秘密にすることを決めた。

  あちこちの壁から鉄骨が見えていたが、落書きは一切なかった。廊下が塞がっていることも多かった、ただ二階に行って一年三組を探すだけなのに、妙に苦労した。

「ようやく見つけた、一年三組。ここにあいつが……」

 がら

「お、遅かったじゃーん!待ってたy」

 ばたん

 扉を開いたその瞬間、英蔓の目に飛び込んできたのは全長五十センチ程の、柔道着のような服を着た人形の姿だった。その人形は動き、話し、その目を輝かせていた。生命が宿っていた。ついでに髪はめちゃくちゃピンピンにとがりながら逆だっていた。こいつの特徴はあとすごくうるさいことぐらいだ。いや本当に。雷でも近くに落ちているのかと言うほどうるさいんだ。

「なんで閉めるのさー?開けろぉおぉ〜」

  扉が叩かれる。しかしドンドンじゃない、トントンだ。

  油断するな、相手は少なくとも人間じゃない。でも、流石に大丈夫か。気にしすぎも良くないよな。

 がら

「えっと、太谷……?って」

 ばたん

 次に扉を開けた時、新しく視界に映ったものがあった。下の方でせわしなく飛び続ける太谷はさておき、その奥に人影が見えたのだ。黒い服に全身を隠したその男の足元には魔法陣のようなものが展開されていた。

 そうか、太谷はただの操り人形だったのか。帰ろう。

 そういえば窓が開いていた。カーテンが揺れ、教室に桜の花びらが入ってきていた。それが魔法陣に近づいたその時、それは炭となった。うん。帰ろう。

「おい。なぜ逃げようとする。扉の奥のニンゲン……貴様もあの怪しい男に呼ばれたのだろう?気に入らないがどうもお前が四人目で間違いないらしいな。……早く入ってこい」

 地獄の音はこのような感じなのだろう。そう感じさせるような声だった。隠しきれない殺意を感じる。俺は騙されに来たわけではない、ましてや殺されるなんて……!でもなぜか、足が動かなかった。

「ほらぁ、入ってきてよ〜!」

 覚悟を決めた。最悪、抵抗すれば……俺にはその力がある。この家系なのにと言われてきた俺だが、もう違う。と思いたい。

 がら

「ん?なにを震えている。お前を殺すつもりはないが」

  別に震えてなんか……いた。でも……その後の言葉も本当のようだな。ゆったりとした黒いパーカーと黒い長ズボンを着たその小柄な(太谷ほど小さいわけじゃない)男の子は、紫のやや下がった気力のない目で真っ直ぐに俺の目を見ていた。誇張せずに、引きずり込まれそうだった。どこまでも沈んでしまいそうな、あまりに底の見えない紫。頭には小さなシルクハットのような帽子をかぶっていた。黒い生地に白い一本の線がよく目立っていた。

 屍形は敵意がないことを示そうとしてか両手を上げたが、それでも殺意を感じるのは気のせいか……?

 ん?……四人?

「あの、先程……」

「英蔓くんタメ口で良いよー!!友達なんだしさっ!!」

 英蔓と屍形は両者心の中で同じことを思っていた。わざわざ書くまでもないことだ。





(うるせぇ……)


「…………さっき君、四人目って言ってたよね。でも、三人しかいないような……」

「なにが君だ、気味の悪い……おれは屍形魁斗(しのかたかいと)。……お前、まさかあいつが分からないのか?」

「え?」

「もう一人はあそこだ」

 そうして示されたところは窓。えーっと、屍形?誰もいないと思うんだけど?窓に人……幽霊……?

「おーい。四人そろったぞ。そろそろ起きろ」

 そう言って屍形は窓に向かって煙のようにゆらりと歩いていった。そのように見えた。

 窓の外には、大きな満開の桜の木が生えていた。そして……。

「ん〜、ふぁぁあ……おはよぉー……」

 太い一本の枝の上に、誰かが横になっているのが見えた。ふわふわした、いかにも眠たそうな声の主は、ひょこっと窓から顔を出すと言った。おとk……いや、おん……?!

「君が最後の一人かぁ……ふーん」

 緑色の目がじっと見つめてくる。宝石のように綺麗な目だった。オレンジと紫の光が輝く。茶色の猫のような黒目はどことなくなにか深いものを感じさせた。まさに引きずり込まれるというか……しかし決していい意味ではなく、まるであの世に連れていかれるかのような感覚だった。もしかしたら屍形よりも……。

 その子は窓に足をかけると身軽に教室に飛び込んできた。

 少し薄い黒髪は前髪が長く、笑った口からは八重歯が覗いていた。薄い茶色の長袖の服は腰周りで黄緑の薄い布と濃い緑の紐で締められている。青く長いズボンは新しかったが、葉っぱやら土やらが付いていた。

「改めておはよー。ボクは木荃好葉(このうえこのは)。よろしく〜」

 首元で金色のネックレスが揺れる。丸の中に∞が入った、結構大きいネックレス。ただところどころヒビが入っている。もしかして意外とこいつも太谷系なのか?


( ˙ㅿ˙ )「え?」

 ※太谷喜雷の顔です。あっはいコレです。


「俺は英蔓賢。木荃か、よろしく」

「ふあぁあ……」

 木荃は眠たそうにあくびをして頭をかいた。

「昨日、いつ寝たんだ?」

 というか木荃、性別どっちなんだ?

 どちらでもおかしくはない見た目と声だった。どちらかというと男のようだが、英蔓は正直なところ女子であって欲しかった。というか、女子でないはずがないとさえ思っていた。すべて、このクラスに一人も女子がいないからである。

 英蔓が読んできた学校に関する本には、バラ色の生活(ファンタジー)が記されており、英蔓はそれを心の底から信じていたのだ。

「むにゃ……ボクは男だよぉ……むにゃむにゃ」

 だからこそ、この寝言を聞いたその瞬間、すべてを忘れて膝から崩れ落ちたのだった。

「……そうなんだ、やっぱり?」

 ここからクラスメイトが来る希望も、全員で四人という情報からそもそも存在しなかった。

「あれ、どうしたの?ボク間違えた?魁斗くん、ボク間違えてなにか言った?」

「質問と違う答えを返した。気をつけろ」

「……そっか。気をつける」

 木荃がそう言って俺の方を見た。オレンジの光、紫の光が目の中で揺らめく。左目に小さな赤い光があるのにも、今気がついた。

「……」

 俺がそれを見て黙っていると、屍形が言った。

「お前、こいつに好意でもあるのか?」

 ……?

「……好きにしろ」

 そう言って屍形は後ろを向いてゆらりと立ち去った。そしてまたも怪しげな儀式に取り掛かろうとした。

「おま、好意ぃっ?」

「ボクはイヤだよ、こんなヤツ!頭に付けてるソレもなんなんだ!まったく……」

 そう吐き捨てながら木荃は英蔓を指さした。

 頭に付けてるソレとは、おそらくクリーム色の、真ん中に赤い宝石の埋まった金属の輪っかのことだ。頭にバンダナのように付けてある。英蔓にとっては、代々続く普通のことだった。

「これをバカにしたなっ?それを言ったら木荃も髪に金色のデカイ葉っぱ付けてるだろ、なんだそれ!」

「はぁあ?これはボクの好きなヘアピンだけど?多少大きくても良いでしょ、宝石つけてくるやつよりはさ!カーバンクルかよ!」

 木荃はまだ止まらなかった。否定されたことに酷くショックを受けたようだった。

「あと髪型!普通別に文句なんてないけど言わせろ!真ん中で真っ二つに分けてるのはその宝石を見せつけるためかあ?良いよ、それぐらいいっぱいあったし!……ぁ……はぁ、はぁ……それとぉ……!」

「もうやめろ。それ以上はまずい」

 そう言って屍形は木荃を制止した。木荃の顔色が悪い。酸欠だろうか。

「……カーバンクル?」

 どこかで聞き覚えがあった。

「……魁斗くん大丈夫。今のボクは落ち着いてる。それより知らないの?カーバンクル」

「いや……確か魔物にいたような」

「……そうだよ」

 太谷は前までのうるささは嘘だったように静かに立ち尽くしている。無感情の笑顔を向けていた。

「ふぅ、何も付けていないのは太谷だけか」

「え?あー!屍形くんは帽子ってことか!」

「黙れ。お前がお前じゃなかったら遠慮なく呪い殺していたのに」

「さすがのオレでも怖いぜ屍形くん?あ、先生来たっぽい」

 コツ……コツという歩く音。本当に来たらしい。おそらく、あの怪しい男が。

 がら

「おぅいお前ら席に……って、そーいや言ってなかったな」

 四角い眼鏡の男……あの人だ。

 先生は扉を閉めてスタスタ歩くと教壇に立ち、指を指した。

「英蔓そこ木荃ここ。屍形ここで太谷あそこ」

 順番に前の席に一直線に指定されていく。

「さて、それじゃ始めるか。自己紹介……英蔓からいくか」

 英蔓は突然の指名に狼狽えながらも起立した。

「改めまして英蔓賢(えいづるけん)、十四歳です。体を動かすことが好きです。よろしくお願いします」

「改めてってお前ら、意外だな。まぁいいか。一応お前らもな。次、木荃」

「えっと木荃好葉(このうえこのは)、十五歳!好きな物は自然かな。よろしく!」

 続いて屍形が帽子を落ちないように抑えて立った。

屍形魁斗(しのかたかいと)。十四」

 ……座った。

「数字だけでよかったの?」

「意味は伝わる」

 えぇ……先生これでいいんですか……?

「じゃあ最後太d」

「またせたな!ようやくオレの番ってか!待ちくたびれすぎてニヤついちまってたぜ!!キラーン☆」

 太谷は椅子に立ち、机にしがみついてカッコつけた。そしてそれを無表情で見つめる四人の男たち。その様子、まさにカオス(CHAOS)!!またの名を混沌(作者はもう知りません)!!

「えとー、どもー!太谷喜雷です!よく親からうるさいって言われて育ったけど、うるさくないよね!ね!!これから一年間よろしく!あ、ちなみにオレも十四!!」

「「「「うるさい」」」」

  この時の太谷の、少し悲しそうな引きつった笑顔を、俺は忘れないだろう。でも三秒で描けそうだが。

(;▽;)ヒドイヨ、ミンナ

「よぉし、んじゃあ終わりだな」

「あれ、先生は?ボク結構……気になってるんだけど」

「……話せるモンはねェな。好きに呼べ」

「中ボスとか?」

「中年だからか?それ系なら最低ラインは黒幕な」

 なに系の話だ……?

「なら黒幕!まぁたしかに、案外こーゆー人が黒幕だったりする訳だしね〜」

「最低ラインかぁ……?はぁ、俺が言ったんだもんな。許してやる」

「許されてやろう♪」

_人人人人人人人人人人_

 それでいいのか先生!

 ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄

こんにちは!はとです!

オレつづ書き直しいかがでしょうか。真っ先に正直な話をすると、ちまちま改稿するの面倒に感じちゃって。いや、実は意外と今も読んでくださっている人もいまして、ただ私的には書き直したい流れもあるんです。こっちではじめてという方にネタバレしないように話すと、原作でとあるキャラが同じ技ばっか使ってたりね?あとキャラが崩壊どころか跡形もなく消えていたり。まぁ初期なんてこの先の流れも確定せず、キャラも定まっていないまま気分で書いてたのでね……。

ってなわけで、また忘れた頃に書き直します!早くバトルシーン行きたい!やっぱ楽しかったし!

最後まで読んでいただきありがとうございました!

ご意見ご感想お待ちしております!

それではまた!( *¯ ꒳¯*)ノばいばーい♪

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