第30話:往信アナグラム(SF)
深夜の郵便局で、わたしは手紙の仕分けをしていた。
そこに一通の変わった封筒が紛れ込んでいる。宛名は「未来の仕分け人さまへ」。差出人欄には「一九九四年七月二十三日 夜勤の仕分け人より」とある。今日の日付は二〇二四年七月二十三日だ。
「奇妙な偶然」
わたしは思わず声に出した。封筒の継ぎ目は黄ばんでいる。まるで本当に三十年前から届いたかのようだ。
手に取ると、なぜか温かい。
開封禁止の手紙に触れてはいけない。それは郵便局員の鉄則だ。でも──。
「すみません、規則違反です」
わたしは封を切った。
『拝啓 未来の仕分け人さま
あなたの時代の郵便局は、どのように変わっていますか? 今の私の目の前には、山のような手紙が積まれています。一通一通に、誰かの想いが込められているのでしょう。
実は今夜、奇妙なことに気付きました。差出人と受取人の名前を並び替えると、不思議な文章が浮かび上がるのです。
例えば……』
そこに続く例を見て、わたしは息を呑んだ。確かに、そこに書かれた名前のアナグラムを解くと、意味のある文章になる。わたしの目の前にある手紙の宛名にも、同じ法則が隠されているはずだ。
急いで手元の手紙を確認する。宛名と差出人の文字を並び替えていくと──。
「会いたかった」「さようなら」「忘れないで」「愛してる」
次々と浮かび上がる、誰かの想い。それは三十年前も、今も、変わらない。
『このような暗号を見つけてしまった私は、おそらく深夜勤務の疲れで頭がおかしくなってしまったのかもしれません。
でも、もしかしたら──手紙は、時を超える魔法なのかもしれません。
あなたの時代にも、きっと大切な想いを運ぶ手紙はあるはずです。この不思議な発見を、あなたと共有したくて筆を取りました。
では、三十年後の郵便局からの返信をお待ちしております。
敬具』
わたしは、空いている仕分け台の上に白い便箋を広げた。インクを滲ませないように、丁寧に文字を綴る。
『拝啓 一九九四年の仕分け人さま
いま、手紙は減りつつあります。でも、確かにここには、かけがえのない想いが今も流れています。
先ほど、あなたと同じ暗号を見つけました……』
わたしは便箋に、今夜見つけた全てのアナグラムの暗号を書き記した。そして最後にこう付け加えた。
『手紙は、本当に魔法なのかもしれませんね。
取り急ぎ、三十年前からの手紙への返信まで。
敬具』
封筒に宛名を書く。この宛名もまた、アナグラムになっている。
「──また会えますように」
七月二十三日の深夜。二通の手紙は、時を超えて永遠に循環していく。それは魔法なのか、奇跡なのか。答えは誰も知らない。
ただ、確かなことが一つある。手紙の中で、想いは永遠に生き続ける。
このお話から「アナグラム」を取り出して次につなげます。




