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第1話:永遠の安寧(SF)

 ひとつ前にショートストーリーの中から、キャラなり舞台なり印象的なセリフなりを取り出して次のショートストーリにつなげていく、まあ、しりとり遊びのようなショートストーリ集です。


 その朝も、「完全な幸福」が街を包んでいた。


 私は窓から差し込む柔らかな光を浴びながら、今日も「調和省」での勤務に向かう準備をしていた。光に照らされた埃が、ゆっくりと舞い降りる。まるで天使の羽のように……。


「おはようございます、輝坂さん」


 階下の住人である美咲さんが、いつものように優しく微笑みかけてきた。彼女の瞳は、いつも聖なる光を湛えている。


「おはよう、美咲さん」


 私も笑顔で返す。この街で暮らす全ての人々が、このように幸せに満ちた表情を浮かべている。それは「浄化」のおかげだ。


 調和省での仕事は、その「浄化」を管理することだった。私たち職員は、街の人々の「負」の感情を浄化し、完全な調和をもたらす重要な役割を担っている。


 オフィスに着くと、同僚の神楽坂が深刻な表情で私を待っていた。


「輝坂さん、緊急事態です」


「どうしたの?」


「浄化装置に異常が……。昨夜から、エラー値が跳ね上がっています」


 モニターには、普段なら穏やかな青い波形で表示される市民の感情グラフが、赤く尖った異常な数値を示していた。


「これは……記憶の混入?」


 私は画面を凝視する。浄化装置は人々から負の感情を取り除くだけでなく、その原因となる記憶も消去する。しかし、時として消去されたはずの記憶が蘇ることがある。それは極めて危険な事態だった。


「市民ID-2749、美咲・レイチェル」


 私の目が見開かれた。


「美咲さんが……?」


 彼女の感情グラフが、最も激しい異常を示していた。私は急いで彼女の過去のデータを確認する。そこには……私の知らない記録があった。


 五年前。美咲さんは私の()()()()


 そして私は、彼女の「浄化」を自ら実施した職員でもあった。


「姉さん……思い出したの」


 背後から聞こえた声に振り返ると、美咲が立っていた。その瞳には、もう聖なる光はない。


「どうして……私を消したの?」


 彼女の問いかけに、消去された記憶が一気に蘇る。両親を事故で失い、必死で妹を育てた日々。しかし、私は完璧な調和を求めすぎた。妹の些細な感情の乱れさえ、許容できなくなっていた。


「私は……完璧な世界を作りたかっただけよ」


「その完璧な世界のために、家族の記憶まで消すの?」


 美咲の瞳から、光が溢れ出す。それは聖なる光ではなく、人間が持つ本来の感情の輝きだった。


「浄化」は、人々から「負」の感情を奪うと同時に、「正」の感情も奪っていたのだ。まるで魂の一部を切り取るように。


 モニターが次々と警告を表示し始める。街中で記憶と感情の回復が始まっていた。


 完璧な調和は、もろくも崩れ去ろうとしている。


 しかしそれと相反するように、私の心の中で、確かな温もりが広がっていた。私の()()()()の形の在り方は間違っているのでしょうか?


(了)



このショートストーリーから「完全な幸福」という要素を取り出して次につなげます。

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