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悪役のすゝめ  作者: 夜音
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 VRゲームが初めて世に出てから約200年.最初はゴーグルを着けて視覚と聴覚のみゲーム内と共有するだけだったVRも進化し,今では五感全てを共有するフルダイブ型が主流になった.


 そんなVRの歴史がまた1つ今日更新された.

 数多のVRMMORPGが存在する中,初となる全NPCが感情を持ち人と同じように行動をするゲーム「Estrangement World Online」.全ゲーマーが夢に見ていたものが今日サービスが開始されたのだ.


 普段MMOのような不特定多数の人間と交流を持つことになるゲームを触ってこなかった私「(ひいらぎ)雪乃(ゆきの)」はネッ友に誘われる形でこのゲームにログインすることとなった.


※※※


 今,私はキャラメイク画面にいる.コンソールには人間の他にエルフ,ドワーフといったファンタジー物によくある種族に加えて半人,魔物と書かれていた.


 全ての種族にはそれぞれ長所と短所があるようだ.


 人間は言ってしまえば器用貧乏.なんでもできるが何か一つに特化するのは難しい種族.


 エルフは魔法特化の種族.MPやINTが上がりやすい代わりにHPやVITなど耐久に関係するステータスが上がりにくい.


 ドワーフは物理特化の種族.STRやVITが上がりやすい.しかし,MPやAGI,INTが上がりにくい.


 魔物は選択後にどのような魔物になるかを選ぶようだ.選べるモンスターとしてはゴブリンやスケルトン,ゾンビなど人型のものからコボルトといった四足歩行のものまでなんでもある.そして,今までの人間,エルフ,ドワーフとは異なりNPCと最初から敵対している特徴を持つ.


 半人は人間と魔物が合わさったような種族だ.人間と同じようにステータスは平均的に上昇する.しかし,ステータスの上がり方は人間と比べると緩やかになっている.加えて,種族選択後に狼や猫,魚,蜥蜴などの生物を選ぶことで見た目が変化してステータスに補正がかかるようになる特徴がある.半人での最も大きな短所は身に着けられる防具に制限がかけられること,一部人型NPCと最初から敵対していることだ.


 なんの種族をやろう.無難に人間で始めるべきなのだろうか.でも,人間以外の種族にも興味がないと言えば嘘になる.


「ここは一番気になってた半人にしようかな」


 私は半人を選択する.するとコンソールに映される画面が変化し様々な生物の項目が出てくる.

 爬虫類や魚類,両生類は苦手だから除外するとして,あと残っているのは哺乳類と鳥類の生物.猫や犬,鳩や鷲などがある中私の目に留まったのは「烏」だった.


「AGIとINTに上昇補正がかかってVIT,HPに下降補正がかかってるのか.あとは最初から探知系魔法を持っているのいいな」


 烏を選ぶと私の背中から黒い翼が生えてきた.翼を動かしたことなんて今まで経験してこなかったのに自在に動かすことができる.不思議だ.


 あとはキャラクターの容姿とか名前を決めなきゃいけないけど別に適当でいいや.私はリアルモジュール設定をオンにして髪の毛と瞳の色を無難な色に設定する.リアルの私とそこまで差がないけどどうせ身バレして困るような生活してないし大丈夫でしょ.

 私はネーム欄に本名をもじって『Yuki』と入力をしてゲームを開始した.


***


 雪乃ちゃん遅いなー.他にもたくさんのVRゲームをやってきているはずだから機械の操作で手間取っているはずないし,キャラメイクは雪乃ちゃんのことだから凝った見た目にするはずないし.種族の選択ですごく悩んでるのかな?


「初期スポーン地点で集合って約束してたけど,約束の時間からもうすぐで1時間経っちゃう.一旦ログアウトして連絡してみようかな?」


 メニュー画面を開いてログアウトを選択しようとして私はあることに気がつく.ログアウトの項目が無いのだ.


 バグだろう.私は1度メニュー画面を閉じて再度ログアウト項目がないか確認する.

 やはり存在しない.何回も何回も何回も何回も…確認をしても結果は変わらない.血の気の引く感覚に私は囚われる.


「運営に問い合わせをしないと・・・!このままじゃ現実に戻れない!」


 震える指で運営へ連絡をしようとすると,運営からメールが届く.

 その内容は───


『プレイヤーの諸君.私が長年夢に見ていた世界は楽しんでもらえているかな?


 挨拶はこのくらいにして本題に入ろう.既に気がついている人たちもいるだろうが,このゲームにログアウト機能は備わっていない.

 バグだと思っている人は今すぐその考えを改めて欲しい.これは仕様であって不具合では無い.

 このゲームは君たちの新しい人生だ.ゲーム内で死ねば現実の君たちも死ぬ.外部から干渉を受けてゲームを強制的にログアウトさせられたとしても君たちは死ぬ.

 このゲームを始める為に専用のVRヘッドギアを使っているだろう.このヘッドギアは他のものとは違い君たちの生体チップを読み込むことができる.既に君たちの脳に埋め込まれている生体チップは読み込み済みだ.

 このゲーム内で死んだプレイヤーの脳内チップを破壊する信号を送る.脳内チップが破壊された人は死ぬ,君たちも知っているだろう.


 これまでの内容を見て君たちはどうしたら解放されるか気になっていることだろう.このゲームから解放される方法は4つある.


 1つ目は死ぬこと.現実でも死ぬことになるがこの世界から解放される.

 2つ目はVRヘッドギアへ電力の供給が2時間以上絶たれた場合.これも1つ目ど同様に死ぬが解放される.

 3つ目はこの世界を人間側でクリアすること.敵対する魔族,亜人を滅ぼし大陸全土を人間の領地としたときクリアになる.生き残った人間側のプレイヤーはこれで解放される.

 4つ目はこの世界を魔族側でクリアすること.敵対する人間,亜人を滅ぼし大陸全土を魔族の領地としたときクリアになる.生き残った魔族側のプレイヤーはこれで解放される.


 君たち・・・いや,このメールを見ている君はどの方法で解放されるか私は楽しみにしているよ.』


 ゲーム内で死んだら現実でも死ぬ?そんなわけない.

 信じられなくて固まっている私の横で男のプレイヤーがいきなり苦しみ出して倒れる.白目を向いて失神しながら苦しむ様子は過去に見たことがある.

 そう,あれは生体チップが壊れた人間に現れる症状だ.


 辺りが悲鳴で満たされる.倒れた男はもう動かなくなった.そして,男のポリゴンが崩壊してそこには何も無くなった.


 目の前で人が死んだ.あのメールは嘘なんかでは無かった.恐怖が私を支配する.身体の震えが止まらない.


 このゲームで死んだら本当に死ぬ.死にたくない.怖い.私はその場で動けなくなった.

 震える身体を抑えるように蹲る私は雪乃のことを思い出した.すでに死んでしまったのか.それとも,ゲームを始めずに済んだのだろうか.後者だと嬉しいけど.


 怖くて震えている場合じゃない.もしも雪乃が生き残っているなら私と同じように怖がっているに違いない.それに,雪乃はこういうゲームをほとんどやったことない.


 雪乃を見つけて助けてあげなきゃ.この場所にまだ出てこないってことは先に進んでるはずだ.

 恐怖なんかに負けるな,私.雪乃を助けるには私が頑張るしかないんだ.

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