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明るい日陰  作者: 猫殿
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宝石店

2人のイチャイチャが書きたかっただけなので暖かい目で見てください、、、

明るい日陰1

 

街のてっぺんから、少し熱くなり始めた太陽光が降り注ぐ。道を行く人たちは日傘を刺したり、暑さを紛らわすように賑やかにおしゃべりをしていた。


 比較的大きい道に面した所に、全面ガラス張りの宝石店がある。昼の光に照らされてショーウィンドウの中の商品もキラキラと輝いていることだろう。私は夜の街頭に照らされている石たちの方が好きなのだが。


 お昼ご飯も胃に収めると、途端に眠気が体を襲う。いつもなら叱ってくる父も居ないし、幸いと言っていいのか分からないがお客さんが来る気配もない。店先は日に照らされているが、店内は窓からの日を遮っていて少々薄暗くなっているので、この時間は入るのが躊躇われるのかもしれない。

 

 今日は夜まで店を閉めてしまおうか。道の喧騒をBGMに、カウンターに置いてある椅子の上でうつらうつらとそんなことを思っていると店の扉が来客のベルを鳴らした。


 半分寝ていた私はビクッと顔を上げる。ずり下がっていたサングラスをクイっと掛け直し、慌てて挨拶をした。


 「いらっしゃいませ」


 この時間には珍しい、というか、あまりこの店には似つかわしくない団体様だ。男の人が三人、女の人が1人。顔つきが険しく、明らかにアクセサリーを買いに来たようには思えない。


 「どうぞ、店内お好きにご覧ください」


 きっと宝石を見にきたわけではないだろうことは分かっていたが、父に習った通り定型分を口にした。適当に接客していたと知られたら父に怒られてしまう。


 「お嬢さん、この店に占い師のジルとやらはいるか」


 男の中の1人がジルに声をかける。随分と横柄な物言いだ。着ている服を良く見ると、平民のように見せているが上等なものだと分かる。きっとどこかのお貴族様がお忍びで街に来ているのだろう。


 私の店は普段平民から小貴族までが顧客の大多数を占めている。上位の貴族が来るのは、宝石以外の目的しかない。


 「おい」


 ぼーっとしていた私は飛んでいた思考を目の前の男に戻した。体を動かす仕事なのか、髪を短く刈り込んで良く日に焼けている。年齢は30代くらいだろうか。職業病のようなもので、男が腕に着けているアクセサリーに目が止まった。男性にしては珍しい希少な石を使った高価なものだ。つい制作方法や石の出どころが気になりまた思考が飛びかける。


 「あ、失礼しました。私がジルです。占い師ではないですが」


 後ろ髪を引かれる思いで男へ意識を戻す。返答を聞いた男が驚愕に目を見開いた。


 「あなたが?…てっきり妙齢の女性がやっているものだと…」


 戸惑う顔を見るのは慣れていた。占いを目的にやってきた者は大抵ジルの顔を見て、本当にこいつが占い師のジルなのか、と訝しむのだ。見た目は普通の女。黒髪がまっすぐ伸びているのが特徴といえばそうだが、特に街にいる女と違うようには見えない。ただジルと一日一緒にいると、常にサングラスをかけていることに違和感を覚えるだろう。今も店の中だと言うのに、目を見ることも困難なくらい濃い色のサングラスをかけている。


 本人は占いをやっていると言いふらしている訳では無い。周りが勝手に噂を広めているようだ。特に否定して回る必要もないかと普段は放置しているが、店に来た人ぐらいには否定しないと居心地が悪い。


 「ええ、皆さんそうおっしゃられますよ。気になさらないでください」


 営業スマイルでそう返すと、男は気まずそうに咳払いをした。


 「今回はある人の占いをして頂きたくお伺いした」


 「良いですよ。ご期待に添えるか分かりませんが」


 あっさりと了承したことに男は拍子抜けしたような顔をしている。もっと気難しい女性だとでも噂が広まっているのだろう。


 「それで、どちらの方を見ますか?」


 私は敢えて「占う」では無く「見る」と表現した。ジルがこれからやるものは「占い」とはまた違うものだからだ。そこの線引きはしておきたい。


 「私だ」


 話しかけてきた男とはまた違う男が名乗り出た。随分と体が大きい。身長もそうだが、筋肉ががっしりしている。髪はおざなりにしている様に見えるが、不思議と不潔感は無い。顔に大きな傷があるが、特に怖さを感じなかった。


 「どうぞ、こちらにお掛け下さい」


 店の中には数個のガラス棚が並んでいて、その一つの後ろにテーブルと、椅子が2組置いてある。2人きりにはならないが、道からお客様の顔は見えないようになっているので、ちょうどよくプライベートを守ってくれている。


 ジルが椅子に座ると、男もすぐに大人しく椅子に座る。しかし、目の前の男には普通サイズの椅子も少し窮屈そうだ。


 「あなた方は…」


 残りの三人の方を見やると、気にしないでいいと、先ほど話しかけてきた男が手で示す。そんなに時間もかからないのだ。私は一つ頷き、椅子に座る男に集中する事にした。


 「それでは、始めますね」


 ジルはテーブルに両手を置き、軽く手を組む。深呼吸していると、外野から邪魔が入った。


 「名前は?教えなくて良いのか?」


 今まで黙っていた残りの男だ。線が細いが、しなやかな体を思わせる。美丈夫と呼んでも差し支えないような男だった。


 「はぁーーー。今集中しているので、少し黙っててもらえますか」


 邪魔されたことに少し苛つき、刺々しい言い方をしてしまった。先ほどの日に焼けている男と、険しい顔をした女が思わず足を一歩前に出す。それを線の細い男が手で制した。


 目の前の男が1番偉いのかと思ったが、もしかして違うのかもしれない。そう思ったが、そちらに目をやろうともせずに大きい男に集中した。


 サングラスの奥で私は瞼を閉じる。相手からは何が起きているのか見えていないだろう。見つめられてしまうとやりづらいので、こう言う時サングラスは便利だ。


 もう一度瞼を開けた時、私の見る世界は一変していた。


 男の体は外郭が白く光り、内側は真っ暗。ザアザアと黒い粒子が中心に向かって流れている。その中に、もう一つ動くものが見えた。


 彼の本質だ。


 「はっ…!」


 ジルは息を呑んだ。


 「どうした?」


 大きい男が尋ねる。


「い、いえ何でもありません。失礼しました」


 今彼の中に見えたのは、仮面を被った男。真っ白で、何の表情も表していない。今までたくさんの人の本質を見てきていたが、仮面を被っている者は滅多にいない。こういう特殊な本質を見ると未だに驚いてしまう。


 気を取り直して黒い濁流を見つめると、彼の本質が不機嫌そうに行ったり来たりしているのが見えた。仮面を被っていても、本質が取る行動で多少の感情の機微はわかる気がする。


 何かプライベートでイライラするようなことがあったのだろうか?それとも仕事?


 しばらく静かに観察していたが、私は思い違いをしていたことに気づいた。この男が怒っているのは、私に対してではないか?


 全く心当たりが無いので頭の上に多数の疑問符が浮かぶ。これ程ガタイが良い人なら、どこかで会っていたらすぐにわかりそうなものだが。


 数秒逡巡していたが、一向に答えが見つかる気がしなかった。


 他の人からヒントが得られないかと、私はチラリと周りの男たちを盗み見た。日に焼けた男の本質は、大きい犬のような姿、女の方は随分と逞しい女性の姿が見える。


 その2人に挟まれた線の細い男はというと。


 「あらまあ」


 ジルは思わず憂いの声を漏らしてしまった。目の前の男も怪しげにジルを見つめている。


 「コホン。それでは、結果を申しましょうか」


 ゆっくりと一つ瞬きをした私は誤魔化すように咳払いをした。視界は通常通りに戻っている。


 「何、もう分かったのか」


 「ええ、まあ私は見るだけなので、アドバイスの様なことしか申し上げられませんが」

 

 事前に断っておかないと、後から文句を言われてはこちらも困る。


 「それでもいい。何が分かった」


 「まず、あなたは相当な訓練をされてますね?」


 男は、何を分かりきったことを、と目を細めた。


 「身体的なことではありません。精神のお話です」


 そこまで言ってやると、男は少し息を詰めたようだ。顔には出さないが少し驚いているのだろう。


「あなたは心に仮面をつけていらっしゃる。それでは私もあまりアドバイスの仕様がないのですが…」


 男はチラリと、線の細い男をみやった。指示を仰ぐように。


「今回の正式な依頼主はあなたですね?」


私は大きい男と同じ方を見る。見られた男は面白そうにニヤリと笑った。


「ほう、噂に違わずお前の力は本物の様だな」


不遜な物言いでこちらに近寄る。席に座っていた男は、その体格に似合わずサッと立ち上がり席を譲った。


「私が今回お前に占いを頼むグレイ・ライト・ホプキンスだ」


随分と大仰な名前と態度だ。貴族のこう言うところが少し苦手なのだ。


「はあ、申し訳ありません。お名前を存じ上げませんで」


グレイは少しムッとしたのか、口を尖らせている。年齢は私より若いと思うのだが、それでももう成人はしているはずだ。なのにどうも行動が幼い。


「まあいい。これが本名というわけでは無いのでな」


ならなぜ名乗ったのか、不思議だ。


「この体が大きいのがヴァレット、その焼けたのがリック、でそっちがデイビーだ」


グレイが順々に手で指し示していく。出来ることなら名前を知らずに居たかったのだが、強制的に教えられてしまった。厄介なことになりそうな予感をひしひしと感じながらも、私は律儀に一人一人に会釈をした。


「ジルと申します」


「それで占い師、なぜ私が本当の依頼主だと分かった?」


「どうぞ、ジルとお呼びください」


 占い師ではないと訂正するのも面倒になってきたので名前で呼ぶことを求めるが、グレイは聞いているのかいないのかよく分からない。


 「…先ほどあなたたちの本質を見させて頂きました。本来なら他の方のものまで見ることはしないのですが、どうしても違和感を感じましたので。勝手に申し訳ありません」


 ゆっくりと頭を下げる。怪しいとは思っていたが、流石に勝手に心を覗かれるのは良い気がしないだろう。


「なるほど、だがそれだけでは私だとまでは辿り着かないだろう?」


 グレイの言うことももっともだ。だがジルには確信があった。この人が1番立場が上なのだろうと。


 「それは、大変申し上げにくいのですが…」


 周りの人たちをチラリと見て、言外に、この人たちに聞かせても良いのかと窺う。


 「この者達は口が固い。言っていいぞ」

 「では遠慮なく」


 心配しているのはそう言うことではないのだが、本人が良いと言っているのだから良いのだろう。私は一つ息を吸い、一息で告げた。


 「怒らないで聞いてくださいね。あなたの本質は、赤ん坊です」


 「………は?」


 グレイはそれしか言えずに固まっている。


 言っていいと言うから。


 固まるグレイを眺めていると、最初に動いたのは日に焼けたリックだった。


 「このお方を愚弄するのか!」


 大股で近づいてくる姿はとても迫力がある。私も少しばかり体術に心得はあるが、流石にこの人に襲われてしまえば手も足も出ないだろう。


 「待て」


 放心していたグレイがこの世に戻ってきたようだ。突進してきそうなリックを制す。立っていたヴァレットとデイビーも、いざとなったらリックを取り押さえられるように、半歩踏み出していた。リックがこうなってしまうのはいつもの事なのかもしれない。


 「お前たちは店の入り口で待機していろ」

 「し、しかし」

 「命令だ」


 命令とまで言われてしまえばリックに断ることは出来ない。


「かしこまりました」


 リックは悔しげに頭を下げ、三人は店の入り口まで戻っていった。


 「それで、これは何の嫌がらせだ?」


 この人の護衛がいた方がまだマシだったかもしれない。そう思うほどに、グレイは酷く意地の悪い顔をしていた。


 「嫌がらせ、とは…?」

  

 意味がわからず問い返す。


「私はな、そろそろ世継ぎを産まなくてはいけないのだ」


 いきなりの話題についていけない。


 「はあ、そうですか」


 そう返すことしか出来なかった。それ以上に何が言えるだろう。


 「私も焦っているんだ。周りからのプレッシャーも凄まじい。そんな私に…赤ん坊だと!?」


 グレイは怒鳴ると同時に机を大きく叩いた。いきなり怒鳴られて私の体はビクリと震える。大人になってから怒鳴られたのは初めてかもしれない。それに相手は美丈夫だ。迫力が凡人とは違う。


 今すぐにでも父に帰ってきて欲しかったが、生憎今はハネムーン中だ。自分と父の環境の差にジルは現実味を感じられなくなっていた。


ありがとうございました!

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