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エルダーストリア‐純白彩加の魔勇譚‐  作者: 秋山静夜
第三譚:憎悪爆散の魔人譚
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第89話 偽りのない心で

 私は目を見開き、口までポカンと開けて目の前の状況を眺めていた。



 あ、またユリウスが殴られた。

 迷いのない右ストレートが綺麗に左頬に入って吹き飛んでいった。


 あの女の人|(女の子?)は容赦がない。


 私はユリウスのようにあの人に立ち向かう勇気なんてない。


 

 あ、今度は豪快に蹴られてる。


 むしろここまでくると、あれだけ全身を痛めつけられてるのにヒトの形を保っているユリウスが凄いと言えるかもしれない。


 それもついには限界がきた。


 いや、割と中盤からユリウスは降参していたのに、負けを一向に認めてもらえなかったのだ。何それコワイ。


 そしてあろうことか、さっきまでユリウスをボコボコにしていた張本人が爽やかな顔でいい(はなし)風のことを言っている。さらにコワイ。


 だけど不思議なことに、ユリウスはそれで納得がいったようだ。


 人間たちからどんな拷問を受けても泣き声一つ漏らさなかったユリウスが、大粒の悔し涙を流している。



 ─────ずっと、ユリウスと心を同じにしてきたからだろうか。


 彼の心がすっと晴れていくのがよく分かる。



 そしてそれは私の心にも同様の変化をもたらしていた。



 女の人、エミルさんがこっちに振り向く。


「どうするカタリナ? ユリウスは満足いったみたいだけど。アンタもヤる?」



 かつてないほどの全力で、


 私は首を横に振った!



 死ぬ、死ぬ。


 間違いなく死んでしまう。


 何せユリウスが何で生きているのかすら分からないほどの暴力の嵐だったのだ。


 結果的に生きてたらOKでしょ、みたいなノリには絶対に付き合いたくない。



「そ、残念」

 

 彼女はさして残念そうでもなく、そう言った。


 この後の旅路で私は私の判断が正しかったことを身を持って思い知る。



 さっきのやり取りのあと、私たちはすぐにハルジア国へと向かった。どうやら勇者が預けているお金をおろす必要があるらしい。


 その時に疲労困憊で眠ってしまったユリウスをおんぶしていたあたり、実は彼女は優しい人なのかもと、誤解した。



 まず、入国の時点で揉めた。


 でもこれは私も予想できていたことだ。


 人間が、私たち魔族の子供をあっさりと入れてくれるわけがない。


 一応フードを被っているが、すぐにバレるだろう。



 しかし、実際の問題点はそこではなかった。


 トラブルの争点となっていたのは『最強(最恐)の魔法使いエミル・ハルカゼを入国させてもいいものかどうか』というところだった。


 彼女は勇者イリアの証文を見せながら入国を迫るが、門兵たちは「まあまあ、まあまあ」と苦笑いを浮かべながらなだめるだけだ。おそらくは上の決定が下りるまでの時間を稼ぎたかったのだろう。


 だけどそれは私から見ても悪手だった。

 

 次の瞬間、

「まあまブホォッ!!」

 なだめていた兵士はエミルさんの華麗な右ストレート(崩拳というらしい)にて大通りまで吹き飛ばされていった。


 え、なんでこの人、人間同士なのにこんなに躊躇わずに人を殴れるんだろう。コワイ。



 そこから先はトラブルの連続だ。


 騒ぎを聞きつけた増援の兵士たちを蹴散らしながらエミルさんは目的の預り屋まで辿り着く。(ユリウスを背負ったまま)


 そして勇者イリアの預り証を突き付けてお金を寄越せと要求していた。


 はい、どこからどうみても強盗の所業です。


 そこから先の光景は思い出したくないので結果だけ述べる。


 彼女は勇者イリアのお金を半ば強引に引き出し、駆けつけたハルジアの兵士たちを全滅させ、街の一区画を半壊させてしまった。


 後に聞いた話、それでも死者は一人もでなかったというのだから不思議だ。


 

 それともう一つ不思議だったのは、彼女は単身で戦っていたにもかかわらず、ハルジアの正規兵を相手にほぼほぼ無制限に魔法を使っていたことだ。


 彼女がどんなに優れた魔法使いだとしても、あれだけの魔法を使えば魔力が枯渇するはずなのに。


 すると彼女は、


「魔力? そんなのおぶってるユリウスから魔素をちょっとばかし拝借してたから全然大丈夫だよ。それにカタリナの手を引っ張ってた時にも少しもらってたし。」


 エミルさんは一切の悪意のない笑顔であっけらかんと言う。


 なんということでしょう。


 ユリウスがなかなか目を覚まさないからおかしいなと思ってたらこういうことだったのですね。


 ハルジアから逃げ出す時に手を引いてくれた時は、なんて優しい人なんだと思ってたのに。


 ……ということは、ハルジアでのあの惨状に、私達も知らず知らずのうちに加担していたということだろうか。なんてコワイ。




「どうしたのさ二人とも疲れた顔して。あの程度のことは旅してたら日常茶飯事なんだから、慣れなきゃ大変だよ。」


 開けた平原で私と、やっと目を覚ましたユリウスにお菓子を渡してエミルさんは語る。


 いえ、きっと毎回こんなトラブルを起こすのは貴女だけです、と言いたいところを全力で我慢する。


 この人にとっては街を訪れて何かを壊してしまうのは何の不思議もないことらしい。


 そして私にとって一番コワイのは、エミルさんはあの惨状のなかで普通に私たちの為にお菓子を買っていたことだ。



 エミルさんにとって本当にトラブルの中にいることは日常で、戦うことも誰かを気遣うことも同じ天秤の中での出来事なんだ。



 結論として分かったのは、彼女はとてもコワくて危ない人で、だけど絶対に嘘をつくことのない人だと言うこと。



「どうしたの? 色々考えてるみたいだけど。次にイリアに会った時の謝り方でも考えてた?」

 彼女はわざと、見当違いなことを聞いてくる。



 いや、見当違いなんかじゃない。

 これはきっと、私、私たちに必要なことなんだ。


 

 そう、だから私も偽りなく自分の心と向き合わなくちゃ。



 私は、人間が憎くて勇者も憎い。



 だけどイリアは、あの暗い牢獄の中で差し出された彼女の確かな優しさは、私にとってどんな意味があったのかを。

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