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エルダーストリア‐純白彩加の魔勇譚‐  作者: 秋山静夜
第三譚:憎悪爆散の魔人譚
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第83話 魔人救命、人工呼吸

「その小僧の容態はどうだ?」

 突如現れた鍛冶士クロムは、当然のようにイリアたちに歩み寄ってくる。


「なんでお前がここにいる?」

 多少の警戒感を抱きながらアゼルは質問に質問で返す。



(おれ)の家の裏手からあれだけ殺気だった魔素を放てば寝てたって異常に気付くわ」

 当たり前のことを聞くなと、クロムは答える。



「……悪かったな起こしちまって」



「別に、さっきだってそこの嬢ちゃんが止めずにお前が小僧にトドメを刺すなら何も言わずに帰るつもりだった。命懸けの戦いの末に死ぬのなら、無意味に朽ち果てるよりは何倍もマシだろうからな」



「…………そうか。それで、コイツの具合はどうなんだ?」



 魔人ルシアはずっと苦しそうに唸り続けている。


「あー、これは末期の魔素中毒だな」

 クロムはルシアの様子を一目見て診断を下す。


「恐らく意思疎通もロクにできない程に暴走していたのもその影響だろう。…………過去の歴史が証明しているが、末期の魔素中毒者は理性を失い凶暴性を増す」



「え? なんで魔素中毒なんかになるんですか。この人は半分は魔族なんですよね?」

 


「ああ、そして半分は人間の身体だ。もちろん普通の人間よりは魔素に対する耐性が強いが、生まれた時からずっと自分が生み出す魔素に曝されるんだ。いつかは限界が来るのが当然だろう」

 


「何であんたにそんなことが断言できるのよ」

 アミスアテナから鋭い指摘が入る。


(おれ)も、昔同じ経験をしたことがある。…………薄々気付いてるだろうが、(おれ)もこの小僧と同じ───魔人だ」

 覚悟決め、クロムは自身の最大の秘密を告白した。



「!? クロムさん、あなたも魔人なんですか? ……失礼ですがあなたはもしかして、」

 イリアはひとつの可能性に思いあたった。



「ああ、魔人伝説か。そこに出てくる魔人とは(おれ)の事だろう。(おれ)の歳は150を越えたとこだが、あいにくとこの小僧以外で魔人に出会ったことはないからな。……まあそのことはどうでもいいだろう。つまりはこの小僧には魔素中毒に対する治療が必要だってことだ」



「あ、すみません。……では浄水を飲ませたら助かりますか?」

 浄水とは魔素を浄化する特別な水である。魔族と戦う者や魔素領域の近くに住むもの、旅をするものにとっての必需品である。



「いや、恐らくその程度では焼け石に水だな。小僧の中毒症状は末期だ。それに、おそらくは小僧の魔族側の親は上位の魔族だったんだろう。(おれ)の時よりも症状がずっと酷い」



「おいおい、それじゃお手上げだろ」



「まあ普通ならな。だが何の奇蹟か今回は条件が揃っている。勇者よ、お前なら小僧を蝕んだ魔素を浄化することは可能か?」



「え? はい、もちろんできます」



「は? それだけでいいのかよ。もったいつけた割に簡単だったな」



「馬鹿を言うな、条件があると言っただろう。そこの勇者が完全に魔素を浄化してしまえばそれこそ小僧は死んでしまうぞ。何せ半分は魔族なんだからな」



「でしたら私が浄化の力を抑えればいいのですか?」



「それこそ無理よイリア。私たちにはそんな器用なマネはできないでしょ。そこの魔人程度の魔素の暴走なら、一瞬で消し去ってしまうわ」



「まあ、そうなのだろうな。それに中途半端な浄化では意味がない。小僧を蝕んでいる魔素を一度全て取り除かなければ、仮に生き延びてもまた暴走するだけだ」



「ん? しかしそれをすればそいつは死ぬんだろ? 手詰まりじゃないか」



「だから一度全ての魔素を浄化して仮死状態にし、そこから蘇生する必要がある」



「どうやって?」



「魔素を注入する」



「お前がか?」



「いや、ワシみたいな半端者では意味がない。小僧の半分は上級貴族に当たる肉体資質だ。だからそれ以上の位階の魔族の魔素でなければ息を吹き返しはしないだろう」



「ん、……つまり?」

 アゼルは嫌な予感を振り払いながら続きを促す。



「魔王、貴様の魔素を注入してやれ。魔素が枯渇した状態で外界から魔素が流れ込めばまず魔核、魔素炉心とも呼ばれる場所に流れ込む。魔王の魔素が小僧の魔核に注がれるなら確実に目を覚ますだろう」



「違う、俺が聞いているのはそういうことじゃない。一体どうやって魔素を注入するのかってことだ」

 真剣に、しかし予想とは違う返答がくることを願いながらアゼル問いなおす。



「? 何を言っている。人命救助の要領だ。魔素欠乏に陥った魔族を救命する場合は人工呼吸、口移しで魔素を与えるのが基本だろ?」

 何を当たり前のことを聞いているのかといった表情でクロムは返した。



「なあああああああああ!!!!?  何で! 俺が! 見ず知らずの! あまつさえ俺の命を狙ってきた奴の為に! そんなことをしなければいけないんだ!?」



「まあ、魔王の言うこともごもっともよね。でもしなさい、すぐしなさい。何故なら私が面白いから」



「ふざけるなアミスアテナ! 俺はしない! 絶対にせんぞ!」



「そんな、アゼル。やってくれないんですか?」



「やめろ、そんな小動物みたいな目で見てくるな。俺はこいつにそこまでしてやる義理はない」



「そこをどうかお願いします。キスぐらい私と何度もしているじゃないですか」



「人聞きが悪いわ! お前とするのと男とするのを一緒にするな…………、いや今のは間違いだ。イリアとのだって必要な儀式だからしているだけなんだからな」



「一体どこに向けてデレてるのよ。まあまあいいじゃないそんな建て前。幸い魔人の方も美形と言えば美形だし、私はいつでも大丈夫だからさっさとして、その人工呼吸」

 何故かアミスアテナはウキウキと普段以上にハイテンションになっていた。



「お前が大丈夫だったら何だっていうんだ。とにかく俺はしないからな」

 機嫌を損ねたのか、アゼルはみんなに背を向けて胡坐をかいて座り込んだ。



「……ふむ、仕方ないか。確実性は落ちるが、(おれ)が代わりを務めるしかないか」



「─────────状況が変わったわね。イリア、私をここから離れた場所にいったん置いてきて。おっさんと少年のキ、もとい人工呼吸なんて記憶したくはないわ」

 スッ、と気持ちが冷めたようにアミスアテナは言い放つ。



「ちょっとアミスアテナ、また勝手なこと言って。でもクロムさんはどうしてそこまでしてあげるんですか? アゼルの言葉じゃないですけど、いくら同じ魔人といっても見ず知らずの他人ですよね?」



「まあ、間違いなく他人だな。だが見捨ててしまうのは忍びない。…………(おれ)はな、魔人としてこの世に生を受けたが、それなりに幸せに育った」



「え? でも伝説ではあなたのご両親は殺されそうになって森の中へと逃げていったと、」



「話の中ではそうなっているな。女子供らの戯言ではあったが、さすがに自身を題材にした話なら(おれ)の耳にも入る。(おれ)を身篭った時、母親はその父に殺されそうになったとあるが、それは違う。母の父、まあつまりはじいちゃんだ。じいちゃんは母を死んだことにして森へとおれの父とともに匿ってくれたんだよ。その後も色々便宜を図ってくれたしな」

 遠い昔を思い出したのか、クロムは少し柔らかい口調で真実を語る。


「え? そうだっだんですか。てっきり悪い人なのかと思ってました」



「まあ、そうでもしてくれなきゃ、森での生活なんて成り立たんしな。おれの顔を見によくじいちゃんは森に遊びに来たもんだ。…………あいにくと父と母は長生きできずに、おれが成人する前には死んでしまったが。それでもおれは愛されて育てられたと思っている。だからこそ、魔人なんていう中途半端な命として生まれた自分を誇ってここまで来られた」



「………………」

 アゼルは何も言わずに背を向けて、だが確かにクロムの話に耳を傾けていた。



「だが小僧はどうだ? こいつを一目みて、まともな扱いを受けて育っていないことはすぐに分かった。そして残された時間がたいしてないこともな。だが何の因果か、勇者と魔王が目の前に現れ、小僧を救う条件が揃い始めた。…………(おれ)は家庭も持たずに刀に生涯を費やしてきたろくでなしだが、それでもこいつを見て思うところはある。与えられたスタート地点がどんなに歪でも、前に足を踏み出すことはできるのだと、教えてやりたい」



「クロムさん。…………ねぇアゼル、どうしても手を貸してはくれませんか?」

 イリアは懇願するようにアゼルに問いかける。


「──────────────」

 それに対しアゼルは沈黙を貫く。

 クロムの話に何も感じなかったのか、それとも何か思うところがあったのか。


 そこへ、


「それと魔王。今回協力してくれんのなら()()話はなしだ」

 一言、クロムがアゼルへと言い放った。



「ちょ!? お前ふざけるな。対価は払っただろうが」

 アゼルは慌てて振り向き、クロムに文句をつける。



「ああ、それなら後で返す。そもそもあの話を引き受けたのもお前の心意気に打たれたからだったが、ここで一歩踏み出せないお前にアレは不要だろう」



「あ!? てめえ!」

 アゼルは立ち上がって勢いよくクロムに詰めかかる。



「ちょっとアゼル、何があったんですか?」

 何が起こったのかわからないと、イリアはアゼルに駆け寄って無垢な瞳で見つめる。



「あ…………、う~、ああ面倒くさい! わかったよ。俺がやればいいんだろ」



「何か魔王最近イリアにチョロくない? でもナイスよイリア。グッジョブ! さあ私を一番いいアングルの場所に突き立ててね」



「ちょっとアミスアテナ、茶化さないでよ。ありがとうアゼル。早速彼を助けましょう」



「話はまとまったな。それでは勇者は症状の酷い左手を握ってそこから浄化してやるんだ。可能な限りゆっくりとな。魔王は全身の魔素が浄化されたタイミングで小僧の魔核に魔素を吹き込め」


 イリアはクロムの指示通りにポジション取り、アゼルも諦めたのかとぼとぼとルシアの傍らに座る。


「では行きます」

 イリアがルシアの左手を握り、勇者の浄化の力を行使する。


 すると真っ黒に染まっていた左腕が少しずつ正常の色を取り戻していき、全身に広がっていた黒く浮き出た葉脈のような紋様も徐々に消えていく。


「今だ魔王、小僧に魔素を吹き込め」



「ええい、くそ!」


 アゼルの唇とルシアの唇が接触する。



「そこだ! いけ! もっと! 激しく!」


 アミスアテナの応援を全力で無視し、アゼルは心を無にしてルシアへと魔素を注ぎ込んでいった。

 

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