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エルダーストリア‐純白彩加の魔勇譚‐  作者: 秋山静夜
第三譚:憎悪爆散の魔人譚
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第80話 ジェロア・ホーキンス

「ああ、そういえば()()を忘れていたが、結局何があったのだ?」


 とくに見るべきものもない街道、多くの荷物を載せられた二頭の馬をゆっくりと走らせている二人組がいた。


 一人はハルジア国の賢王グシャ・グロリアス、既にアニマカルマの領内から出たためかフードを被ることなくその顔をさらしている。


「確認、ですか? 王であればあそこで何が起こったのか、既に承知なのではないですかな」

 慇懃無礼な様子でグシャに問いを投げかけられた男は言葉を返す。


 グシャとは反対に男はフードを目深に被り続けているが、隠れきらない口元だけはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべていることがよく分かる。


「ジェロア・ホーキンス。大方貴様の研究の実験体が暴走、試作段階の兵器を用いて研究所を破壊、研究員たちにも重傷を負わせて逃げ出した。いや、この場合逃げ出したのはジェロア、貴様の方だな。無傷で重要な研究内容、物資をまとめていたあたり、近々手痛い反抗を受けることが分かっていたのではないか?」



「…………」

 グシャの()()を前に男、ジェロアは思わず言葉を失う。


 賢王にはわざわざ事態の説明の必要がないなどと、先ほどは冗談半ばで言ったことが現実となっていたからだ。

 グシャの()()はただの事実だった。


 現場からの報告の必要もなく、賢王グシャはそっくりそのまま起きた事実を言い当てていた。



「王よ、そこまで把握されているのであれば、ワタシの報告などただの時間の無駄に過ぎますまい」



「いや、ジェロアよ。いくつか虫食いになっていて私にも分からないところがある。例えば今回暴れ出した実験体、一体その正体は何だ?」



「はあ、別に大したモノではありませんが。……まあ俗に言う魔人、魔族と人間の交配種ですよ。何せ珍しく何かと重宝していた素材だったんですが」



「──────────────────────ほう?」

 長い間をとって、賢王は続きを促す。



「いえいえ、なかなか面白い研究がヤツのおかげで出来たもので。例えば聖剣とヤツ本来の魔剣を融合させた魔聖剣オルタグラム。魔族を切り裂く聖剣の性質を損なわずに魔剣の特殊性を残せたのは僥倖でした」



「ふむ、応用の利きそうな技術だな」



「まあ、魔剣と言えば魂の写し身。それを改造されるとなれば、持ち主には魂を切り刻まれるような苦痛があったでしょうが、まあ些細なことですな。キヒッ」


 気持ち悪い笑いとともにジェロアは続ける。


「それだけではありません。個人的に大傑作であったのが魔銃ブラックスミス。銃身を魔銀と魔鉱の合金で仕上げ、撃針に火のジンを、リボルバーの銃倉に各種のジンを内包したその銃は引き金を引くだけで擬似的な魔法を発生させる優れ物なんですよ、キヒヒ」



「……量産できれば戦争が変わる品だな」



「はい、…………まあ、肝心の弾丸は魔石の精密加工が必須でして、そちらの技術面が解決しておりませんが。その魔人の検体はその辺りが妙に器用で自身で瞬時に弾丸を生成していましたが」



「その暴走したという魔人の生死はどうなっている? 貴重な素材なのだろう?」



「はあ、何せワタシも命からがら逃げ出した身ですからね。運が悪ければ瓦礫の下敷きになって死んだでしょうし、もし生き残っていたとしても、近づけばワタシの命を狙ってくるでしょう。ですので放っておくしかないですね。キヒッ」



「お前から近づかなくとも向こうから探しに来ることもあるであろう」



「いえいえ、一応ワタシの死体のダミーは残しましたし、となればあやつが次に狙うのはかの魔王様です。ワタシのバックにいるのは魔王だと、ずっと教えてきましたからね。クヒキッ」



「良いのか? 貴様ら魔族の王であろう」



「キャハハ! 使えぬ主人よりも話のわかる雇用主ですよ。アナタという()()()()()がいてはじめて、ワタシの研究は成立するのですから。キャハハハ」


 不愉快な笑いとともに、ジェロアと呼ばれる男は言葉を続ける。


「ハハハ、まあ仮にワタシの死の偽装に気づいたところであやつはもうワタシの所へは辿り着けますまい。……もうヤツの時間は大して残ってないですからな」



「ふむ、それはつまり────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────ということか?」



「!? はぇ?」

 ジェロアはすっとんきょうな声を上げて驚き、その拍子に被っていたフードが剥がれ落ちる。


 (あらわ)になったのは頬がこけ、細い丸眼鏡をかけた初老の男の顔。その目は驚きでぱちくりとしている。


 それはそうだろう。ジェロアがこれから説明しようと思ったこと全て、賢王の口から出てきたのだから。



「王よ、どこで、それを? キヒッ?」



「何を驚くことがある。今までの話を総合すればそう結論せざるをえまい」


 この王はこれまでの情報の断片から、知らないはずの人物の実体を正確に言い当てたのだという。



「キヒッ、キヒッ。そこまで把握されていればもう説明の必要はないでしょう。追手が来る心配はないのですから、安心して歩を進めましょう」





「ふむ、心配……か。ジェロアよ、あくまでも私の所感だが。─────その者、いずれお前の首を取りにくるだろうさ」




 一陣の風が吹く。

 



 ただの予感と言いながら、賢王は狂気の科学者に、未来の決定にも等しい言葉を突きつけたのだった。

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