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エルダーストリア‐純白彩加の魔勇譚‐  作者: 秋山静夜
第三譚:憎悪爆散の魔人譚
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第77話 イリアの語り

 夜の森の中、ただひとつ灯る焚き火の前で一人の少女の告白が始まる。



「私はアニマカルマの外れ、神晶樹の森の近くのキャンバス村で生まれ育ちました。



 両親はいましたけど、同じ家で一緒に住むことはありませんでした。

 私は家を一つ与えられて、そこで村ぐるみで育てられたんです。


 淋しかった? いいえ、逆です。私の周りにはいつも誰かがいてくれましたから。


 両親を含め村の人たち全てが私の家族でした。


 代わる代わる村の人たちが私の世話をしてくれました。


 長い時間をかけてやっと産まれた勇者の資質を持つ人間。


 だからというわけではないんでしょうが、私は村で大切に大切に育てられました。



 私が特別に扱われていたのは、まあ確かにそうだったんでしょう。でも特別扱いされながらも自分を特別だとは思わないくらい、村の人たちはみんな心優しいひとばかりでした。



 アミスアテナをいつ手にしたのか? 


 私は覚えてないですけど、私が生まれてすぐに私に与えられたと聞いています。


 勇者になるべき者、勇者の資質を持った赤子が生まれたと村中大騒ぎだったそうです。


 あ、ちなみにアミスアテナは私が生まれるまではずっと村の祭壇に祀られていたらしいですよ。


 その頃は今と違ってまったくお喋りをしなかったみたいで、私が生まれたのをきっかけにアミスアテナが今の調子で話し出したそうなのでみんな腰を抜かしたって聞きました。アハハ。



 物心ついた頃から、いずれ勇者となるその時に向けて修行や勉強の毎日でした。


 つらいことなんてなかったですよ。村のお兄さんや同い年の友達と一緒でしたし、実は半分くらいの時間はみんなで抜け出して遊んでましたから。フフ。



 そう、別に特別なことなんて何もない、何にもない村ですよ。

 だけどだからこそ、とても澄んだ素敵な村でした。



 そう、素敵な、村でした。



 だから、そんな村のみんなが、どうしてあんな最期を迎えなきゃいけなかったのか、今でも私には分からない。



 私が神晶樹の森へと勇者の儀に向かったあの日、帰ってきたら村の全てが燃えていたの。


 お父さんもお母さんも、おじさんもおばさんも、……みんなみんな燃え尽きていたの。



 私の大切にしていたモノはそこには何一つ残ってなかった。



 だから、だから私は、


 私はみんなの仇を!




 ……………………ごめん、取り乱しちゃったね。


 もう話さなくていいって? …………ダメ、この後のこともアゼルにはキチンと話さないと。



 ふぅ、……この事件の後、私はハルジアへ向かいました。


 この時には既に魔王軍の本隊は人間領の7割を制圧していて、人類最後の砦、最果てのハルジアに向けて攻勢をかけようとしている状態でした。


 え? それを誰に聞いたかって、襲われたキャンバス村の救援に駆けつけたのがハルジアの黒騎士アベリア率いる隊でしたので、彼から聞きました。


 今ハルジアには大勢の人間が避難しているが、そのハルジアすら長くはもたない火急の危機であると。


 罠? とんでもない。事実駆けつけた時にはハルジアは最終攻撃をかけられる寸前でした。


 そして、そこまでの道のりでも多くの死体と無惨に破壊された街々を目にしました。


 その時点での魔王軍側の損耗率は2%にも満たなかったそうです。彼らは魔獣や魔物を従えて人間を蹂躙しました。



 そんな顔をしないで下さい。その場にいなかったアゼルを責めてるわけじゃないんですから。



 私が言いたいのはここからです。


 言いましたね。この時点で魔王軍はほとんど無傷だったと。


 ですが何故、最終的に2000を越える死者がでたのか?


 答えは、分かってますね?


 彼らの、その大半を壊滅させたのは私です。つまり、彼らを殺したのは、私です。

 


 そんなに驚くことはないでしょう?


 たとえ勇者に成りたての小娘と言っても、魔族、魔物に対する絶対性は変わりません。


 結局彼らは、アミスアテナを手にした私にロクな傷も付けられずに息絶えていった。


 もちろん人数差がありましたから、すぐに戦いの趨勢は変わりませんでした。


 ですが絶対に沈まない戦士が一人いることで、人の心は変わります。兵士の士気も持ち直します。


 不眠不休のハルジア防衛を続け、1カ月が経つ頃には、防衛戦は、殲滅戦に変わりました。


 新米の勇者は、いっぱしの英雄、…………あなた達にとっての悪鬼になっていました。


 あとは流れるように、徐々に撤退していく魔王軍を各地で加わった仲間とともに追いつめ、遂には『大境界』、人間領の外へと彼らを追い返しました。


 その時に四天王を名乗る者の内2人は、私たちが討ち取っています。




 その時、私はどんな顔をしていたのかな?



 私は言いました。まだまだこれからだと、このまま『大境界』の先に踏み込んで魔族をこの世界から追い出すのだと。


 ですが、私の仲間の中に、それに頷いてくれる人は一人もいませんでした。


 一人、また一人と私から離れていき、最後にかけられたことばは『君はもっと、世界を見て回っておいで』でしたか? あはっ、忘れちゃいました。


 心挫かれた私は、各地を旅して困っている人々を助け、……敵となる魔族を、殺しました。


 なんで、そんな風に言うのか、ですか?


 だって忘れてしまいそうになるから。

 命に優しいあなたが、魔王であることを。


 だって本当は気付いているんでしょ?

 私が、あなたたちの『敵』であることを。



 ………………、その旅も、アゼルと出会ったことでカタチを変えました。


 本当は一刀のもとに切り捨てるつもりだったんですよ、アゼルを。


 まさか、観光名所と化した城の中に魔王がいるだなんて思わないじゃないですか。



 あれ? そういえば何でハルジアでの魔族との戦いの時にアゼルの城は彼らに見つからなかったんですか?


 え、ずっと城の中にいたから分からない?

 どれだけ引きこもってたんですか。


 まあ、あの時アゼルが参戦していたら、……そこで人類は終わってたんでしょうけど。


 そんなもしもに意味はない?


 そう、なんでしょうか。


 それでも、私は────」



 次に紡ぐ言葉を見失うイリア。


 そんな彼女を真っ直ぐに見つめ続けるアゼル。


 敵である、そんなことは当たり前ながらわかっていた。


 しかし、今はそれ以上の意味が目の前の少女の中に見え隠れする。


 彼女は生まれ持った使命に従い、それを貫いた。


 そして今、貫き通した道の先で心揺らいでいる。



 それはいつか、どこかで見たような───


 

 止まっていた空気が再び動き出すその瞬間、



「やめろ、フザケルナー!!」


 空気を読まない魔人の声が、イリアの()()()から響いたのだった。

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