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エルダーストリア‐純白彩加の魔勇譚‐  作者: 秋山静夜
第三譚:憎悪爆散の魔人譚
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第74話 アゼルの語り

 深く暗い森の闇の中、わずか拓けた空間に焚き火が煌々と灯っている。


「結局こんな森で野宿をすることになるとはな。まあ、あんな施設跡で寝るなんてのはまっぴらごめんだが。


 ほら、肉が焼けたぞ。……この森は獲物には困らないのは助かる。金がないからなおさらな。


 そんな顔をするな、事実だろうが。


 まあ別に、しばらく食べないところで俺は問題ないが。



 しかし、お前とこんな風にゆっくり話せる時間なんて、もしかしたら初めてかもな。





 ─────前から、お前に聞きたかったことがある。


 2年前だったか? どうして、魔王軍は人間領へと侵攻したんだ?



 ……そんな顔をするな。


 本当にわからないんだ。


 俺は国を出て、軍の指揮は俺の手を離れたが、次に指揮権を得るはずのセレナは決してそのような暴挙に走る女じゃない。



 は? 魔王軍を率いていたのは四天王だと?


 首魁はコールタール・オーシャンブルー?


 なんだそれは? 誰だそれは? 俺はそんな役職を作った覚えはないし、そんな奴は知らない。



 ふ~、まったく一体俺のいない10年に何があったんだか……



 ん?


 その10年、俺が何をしてたかだって?



 …………だから、あの城に引きこもってたんだよ。

 まあ、たまにはこっそり街に繰り出すこともあったが、


 暇だったんですね、だと?


 バカ言え。俺にとってあんなに充実した時間はなかったんだ。本当はまだ描きかけのモノだって……、いや、何でもない。




 ……それで?

 

 アグニカルカの民、魔族は……何人死んだんだ?


 公式の記録だと、およそ2000人!?

 そんなになのか、何故そこまでの被害を出すまで戦ったんだ。



 人間の死んだ数はもっと多かった、だと。

 いやまあ、それはそうなんだろうが、2000って言う数字は魔族にとっては多すぎる。


 あ~、分かりにくいか。

 俺たち魔族の人口はせいぜい三万程度なんだよ。

 その上、出生率も人間たちと比べたらはるかに低い。……1年間に10人程度しか子供は産まれないんだ。


 それでも何もなければ年に自然死が3人出る程度だから戦いでの戦死さえなければ帳尻は取れてた。


 だが、兵の死亡が2000名か……。

 いいか、軍の総数がおよそ8000。そのうち前線で戦えるのが約5000人。

 2000の損失はあまりに大きすぎる。

 単純に兵力を回復させるだけで数百年。


 ……それ以上に彼らの家族の気持ちを考えると言葉もないが、




 すまん、それはお前たち人間側も同じだったな。


 

 なんだ、何か不思議だったか?


 あん? 俺が人間に優しい?


 何を言ってる、俺は魔王だぞ。人間に優しいわけがないだろ。



 俺がいつも周りに被害が出ないように気遣ってるから?



 …………別に、人間たちのことを思ってのことじゃない。



 ただ、『これ以上奪うな』と。それが、俺に与えられた数少ない言葉だったから……



 誰からだと?



 誰だっていいだろ、話はこれで終わりだ。




 終わりだって言ってるのにしつこいな。そんなに俺に興味があるのか?



 え、ある? 魔王のことをもっと知りたい、だと。



 …………それなら交換条件だ。




 俺は俺のこれまでを話すから、イリアはお前のこれまでを話せ。


 な、嫌だろ?



 何、それでいい?




 ちっ、…………とは言っても俺には語れるほどの人生なんてそんなにはないんだがな。





 俺が生まれたのは200年前。……そう、俺たち魔族が人間の世界に攻め込んだのと丁度同じ時期だ。

 俺の母は俺が生まれてすぐに死んだらしい。

 父親? 俺の親父は……、まあ想像つくだろ。



 俺には兄弟はいなかったが、姉代わり、母親代わりのヤツがいたからそこまで寂しくはなかった。


 友達は、結局できなかったな。


 貴族連中は次期魔王に取り入ろうと、それぞれの子供を友人にと俺の近くにあてがったんだが、どいつも俺の遊び相手にはならなかった。


 いや、別に俺がそいつらのことを嫌っていたわけじゃないし、そいつらが俺を嫌っていたわけじゃない、と思う。


 ただ、あまりにも生き物として違い過ぎた。俺にとってのじゃれ合いが、そいつらにとっては命懸けのサバイバルだった。


 ……そんなんじゃとてもまともな友人になんてなれないだろ?


 まあ、どちらにしろ俺に友達を作る暇なんてなかったんだろうが。



 俺は10歳の時に戴冠して魔王となった。


 早すぎる?


 ああ、確かに早いんだろうさ。


 だがそれが親父の決定なら、誰もそれには逆らえない。


 いや、誰もが親父の決定を尊重しながら、その裏では不安の色を隠せないでいた。




 あの方の決めたことなら間違いはないのだろう。


 だが、この子供にあの偉大な男の跡が継げるのか、と。




 そこから先は人間(お前)たちも知ってる通りだ。


 俺は必死に魔王らしく振る舞い、魔族にとっては理想の王、人間たちにとっては恐怖の象徴であり続けた。


 戦って、従えて、多くの敵を殺して、



 ……………………まあ、疲れたんだろうな。



 全てを放り出したくなったのさ。


 腹心の臣下に全部押しつけて、俺はアグニカルカ、ギルトアーヴァロンから飛び出した。


 逃げた先がハルジアだったのはあそこが魔族の世界から一番遠い場所だったからだ。



 10年、それが長かったか短かったのか。



 俺にとってはまだまだ足りなかった気もするが、だがまあ軍の暴走や起こった悲劇を考えれば、─────長すぎたんだろうな。」



 揺れ動く炎越しに、イリアはじっとアゼルを見つめている。

 

 アゼルの魔王としての背景。


 今まで触れてこなかった彼の内情を知って、イリアはかける言葉を探し続ける。



 しかし、イリアが相応しい言葉を見つけるよりも先に……




「魔王、キサマッ!!!!」

 アゼルの背後、いや()()から魔人の怒声が響き渡った。

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