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エルダーストリア‐純白彩加の魔勇譚‐  作者: 秋山静夜
第三譚:憎悪爆散の魔人譚
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第69話 笑えぬ勝利

 アゼルの胸を切り裂いて多量の血がこぼれだす。


「何!?」


 完全に間合いを読みきってギリギリで躱したはずの魔人の剣でアゼルはダメージを受けていた。



「アゼル! 大丈夫?」



「このくらいはどうってことない。だが、その剣は確かに破壊したはずだが」


 アゼルの視線は敵の剣、アゼルが破壊する以前の姿を保った魔聖剣へと向けられていた。


(剣を修復した? こんな一瞬でか。仮に本物の魔剣だとするのなら、再生はそんなに容易くはないぞ)


 魔剣は使用者の魂の写し身。一度破損してしまえば、しかるべき手順をとらない限り修復はできない。


 しかし、魔人はそんな常識など知らぬと果敢にアゼルを攻め立ててくる。


 アゼルは自身の傷の再生を後回しにして、再び魔人と切り結ぶ。



 絶え間なく続く剣戟。



 そして、



 その度に魔人ルシアの魔聖剣は砕け折れる。

 



「チッ」

 だが、舌打ちをしたのはアゼルの方だった。


 アゼルと打ち合う度にルシアの剣は罅割れ破損していくが、ルシアが剣を振るうごとに魔聖剣は再生してアゼルに襲い掛かるのだ。


 そんな理解しがたい状況にアゼルは苛立ちを隠せない。


(クソッ、生かして捕えるなんて条件がなければこんなガキ、なんてことはないんだが)


 壊したはずの魔聖剣が、息つく間もなく復活して攻めてくるため、アゼルの身体には小さな傷が蓄積していく。



「アゼル、加勢しますよ」

 様子を見ていたイリアが動く。


 しかし、


「させるか、ブリッドファイア!」


 イリアの動きに気づいた魔人はすかさず魔銃をイリアに向けて引き金を引く。

 撃鉄が黒き弾丸の底を叩き、リボルバーを経て飛び出した魔弾は爆発的に火炎を纏ってイリアに襲いかかった。


「キャア!」


 弾丸本体はイリアに触れる直前で砕け散ったが、余波で生まれた炎はイリアにダメージを与える。


(熱っ! 今の何だろ? 黒い弾丸は私に当たると壊れたから魔石かな。でも一緒に出てきた炎はまるで魔法みたい)



「チッ、ロクに喰らわないだと。この化け物が!」


 イリアへの一瞬の足止めにはなったものの、想定していたダメージには程遠かったようでルシアはさらに苛立ちを強める。

 


「ガキが、調子に乗るなよ」

 アゼルは魔人の意識がイリアに向いたわずかな隙を見逃さず、持っていた魔剣を消して魔人の剣撃を左手で受け止め、直接ルシアの顔面に右拳を叩き込んだ。


「ぶっ……」

 魔人は悶絶しながら十数メートルの距離を転がっていく。


 剣を受け止めたアゼルの左手からはヒタヒタと血液が零れ落ちる。


「アゼル、大丈夫ですか?」

 心配そうにイリアがアゼルに駆け寄る。


「ん? ああ、剣の打ち合いじゃ埒があかないからな。別にこのくらいならすぐ治る。お前の方こそ火傷とかはないのか?」

(っと。あのバカ聖剣がいたら「あら、心配してるの?」とか冷やかされそうだな)

 と、アゼルは益体もないことを考える。


「あ、私の方は大丈夫です。少し火傷したけど、浄水をかければすぐ治りますから。ありがとうございます」


「───────────」


 果たして、何に対しての「ありがとう」だったのか。アゼルは深く考えることを放棄した。



「おそらく彼の持つ飛び道具は魔法的な何かだと思います。私は魔法の燃料である魔素や魔力に対しては強いですけど、魔法が起こした現象に対しては干渉できないので」



「魔法? そんな器用な奴には見えんがな。ふん、イリア下がっていろ。少し確かめる」


 アゼルは一歩イリアの前に進み、ダメージを負いながらも今まさに起き上がろうとしている魔人を睨み付ける。


「どうだ、まだやれるのか? ほら、お前が付けた傷などはすでに癒えている。いい加減諦めろ」


 アゼルは無傷の左手を見せつけ、あからさまな挑発をくわえる。


 魔人ルシアは痛みに耐えながら起き上がり、


「ク、ソ……、クソが、舐めるな!!」

 魔人は左手の魔銃をアゼルに向けて、


「吼えろブラックスミス! エレメンタルバースト!」

 渾身の()()を開始した。


 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダン


 魔銃の7倉リボルバーは回転し続け、秒間5発を越える連射でアゼルを襲い続けた。


 恐ろしいことに、魔人の弾丸はイリアに撃った時の炎の付与だけでなく、風、雷、水、土、光、闇と、それぞれの属性を纏っていた。

 それが荒れ狂う局所的な災害となってアゼルを襲う。


 魔人の銃撃はおよそ数十秒に渡って続いた。

 銃撃が終わるのと同時に、激しい音が止んだ反動で静寂がその場を支配する。


 そこに残ったのは魔人の激しい息遣いのみ。


「……っは、はぁ、はぁ、はぁ。やったか? ……っく!」

 魔銃を使い続けたことによる反動か、魔人は左腕を苦しそうに握り締めて地面に膝をつく。彼の左手は真っ黒に染まり、手先の方から上腕へ向けて、葉脈のように黒い筋が浸食している。



 自傷すら厭わない嵐のような攻撃による砂煙が晴れ、




「一介の戦士にしては上々の腕前だ。俺にここまで守りを固めさせるとはな」


 当然のように傷一つなく、魔王アゼルが現れた。


 アゼルの前方には結界のように魔素骨子が展開されており、ルシアの千発近い弾丸は全てこの魔素骨子に絡めとられていた。


 アゼルは手を伸ばして、絡めとった弾丸の一つを抓む。


「ほう、この弾は全て魔石か。随分と精巧に加工したものだ。……いや違うな。お前は加工した魔石をその銃に込めたのではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「え? どういうことです? その二つに何か違いがあるんですか?」


「考えてもみろ。あの銃の弾倉は7つしかない。イチイチ弾を込めてあんな連射ができるわけないだろ。もしあの弾倉が関係ないとしても、打ち出された弾丸の数から考えると明らかに銃本体の体積を超えている。つまり、あいつは一発一発の弾丸をわざわざ銃の中に精製してから引き金を引いてたんだ」



「凄そうですけど、それならアゼルが前にやったみたいに魔石を空間に大量に出した方が早くないですか?」



「アホ、あれは(魔王)の魔素生成量があって初めてできるんだよ。見たところアイツのそれは今の俺の千分の一以下だ。だがその代わりに魔素の効率的なコントロールはずば抜けてる。俺ではこんな小さく精巧な魔弾は生み出せない。それにどうやらあの魔法的な効果はあの銃を介して発生しているようだしな。原理はよく分からんが」

 今までの攻防で判明した相手の能力をアゼルは冷静に分析する。



「クソ! 今ので無傷だと。ふざけるな、フザケルナ! 必ズお前はオレが殺す。魔王ハ、この手でコロシテヤル」

 苦痛に満ちた表情で、魔人はアゼルに向けて呪詛を吐き捨てる。



「だったらやってみせろ。褒美に直々の死を与えてやる」

 売り言葉に買い言葉。アゼルは当初の目的を忘れて混じり気のない殺気で魔人を迎え討とうとしていた。



 魔人はアゼルの殺意にも負けじと魔銃を向け、

「満たせ、シャドウミスト!」


 突如、夜が爆散した。


 アゼルへ放たれると思われていた魔弾は発砲と同時に銃口で炸裂し、炸裂した箇所を中心に正真正銘の「闇」が広がっていく。



 その闇は瞬く間にアゼル達を飲み込んだ。


「ちっ、ここで視覚を奪うとは案外冷静だな」


「あ、これ魔法効果ですから私が晴らしますね。ホワイトウィンド」

 イリアの発言通り、闇の効果は彼女の周囲では効果が弱い。イリアの体質により魔法がキャンセルされている証であった。

 手を組んで祈りを捧げるイリアを中心に白い風が吹き、徐々に闇が晴れていく。



(へえ、魔法破りもお手の物だな。さてと闇討ちを企んだバカを始末するかな)

 アゼルは晴れていく闇の中から魔人を探し出そうとする。


 しかし、イリアによって全ての闇が払われても魔人の姿はどこにも見当たらなかった。


「は? どういうことだ。倒れている賞金稼ぎにでも変装したか?」

 だがアゼルは理解していた。自分が的外れな発言をしていることに。アゼルの知覚において賞金稼ぎたちからは一切の魔素の気配がない。



「いえ、アゼル。今アゼル以外に魔素を放っている生命はもうこの周囲にはいないみたいです」

 それはイリアの感覚においても同様だった。



 そしてそれはつまり、


「あの小僧。逃げやがったな!」

 

 捕獲を目的としていた、イリアたちのクエスト失敗を示していた。

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