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エルダーストリア‐純白彩加の魔勇譚‐  作者: 秋山静夜
第三譚:憎悪爆散の魔人譚
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第66話 クロムの依頼

 嵌め込まれていた黒く美しい石が砕け散る。


「キャッ、え、あれ?」


 イリアは手にした首飾りの残骸を茫然と見つめている。



「オイオイ嬢ちゃん、何してくれてんだ! 嘘だろ、高純度の魔石が粉々じゃねえか」



「え? クロムさん、この綺麗な石って魔石だったんですか」



「そうだよ、純度の高い魔石を加工して、魔銀なんかも使って安定化させたものだが、……まさか、壊れるとはな」

 クロムの顔は驚愕の表情で固まっている。



「なあアミスアテナ、これって」


「まあ勇者の力の影響でしょうね。イリアの力を封じてなかったら近づいただけで壊れたんじゃないかしら」



「すすす、すみません! 弁償します!」


「ん~、子供の力で壊れるモンを作った俺の腕不足でもあるからな。まあ材料費ってことで半分のハルジア金貨10枚だけでも貰えたらいいさ。いやはや、どうやら勇者ってのは本当らしいな」


 クロムは困ったように頭を搔いている。

 さすがに数か月は遊んで暮らせる金額の弁償をタダで良いとは言えないらしい。


「本当にすみません(ゴソゴソと財布を探る)。ってアレ?」


「どうしたのイリア?」


「お金が、ほとんどない」

 イリアの財布の中には小銭程度しか入っていない。これでは今晩の宿に泊まることすら難しいだろう。


「何でよ。ハルジアを出た時は結構あったじゃない」



「そういえば、金貨の入った袋はほとんど運び屋のおじさんに謝礼として渡しちゃったし、残りはエミルさんたちと別れる時にに預けたから……」



「え、自分たち用の路銀は残してなかったの? バカじゃないの! これからの旅どうすんのよ!」



「エ、エミルさんがハルジアの預り屋からお金を引き出してくれたら解決するかなって……」



「何でそんなに経済感覚が綱渡りなのよ。第一あの子がまともにお金を下ろせる保証もないのに」



「おいおい、取り込み中すまんが。結局払えるのか?」



「あ、え~と、すみません。時間さえいただけたら、必ず……」



「ん、なんだ。……そうだな。金で払えなさそうなら、代わりに俺からの依頼を受けてくれないか?」

 イリアはクロムの突然の申し出に目を丸くしている。


「ここ数日、この街に魔人を名乗る変な小僧が現れて暴れ回って困っている。何事かを叫んでるんだがどうも要領を得なくてな。さらに結構強くて手が付けられないときてる。こいつをお前さんたちで取り押さえて欲しい。それができたら今回の件はチャラでいい」



「魔人の噂は聞いてましたけど本当だったんですね」



「ちょっと、そういう依頼ならギルドに頼むのがスジじゃないの? さっきギルドに寄ったけどそういうクエストは載ってなかったわよ」


 アミスアテナの言う通り、ギルドを通していないこの依頼は彼らにとっての処罰対象であり、これが表沙汰になればトラブルへと発展するのは避けられない。



「いや、もうギルドには既に依頼が出てるはずだ。デッドオアアライブ。生死不問ってな。さっき行って貼ってなかったんだとしたらもう依頼を受けた連中がいるんだろうさ」



「? 何よ。もう依頼を正式に受注した連中がいるなら、イリアの出る幕はないでしょ」



「聞いてなかったか? 俺は取り押さえて欲しいと言ったんだ。あのガキは暴れすぎた。それなりの手練れに囲まれれば十中八九殺されるだろうさ。だが、あんたが勇者なら生かして捕らえるのも造作もないと思うが」



「ふーん。随分とその暴れん坊に拘るのね。何か理由でもあるの?」



「それを聞かないことも含めての依頼だ」



「何も情報をくれないなんて随分な秘密主義ね。イリアどうする? 私たちの手元にお金がない以上願ってもない話だけど」



「もちろん受けさせていただきます。それにお金の方も、いずれ全額払いますので」



「いやいや、金まで払われちゃ依頼の意味がねえだろ。こんな暮らしだが別に生活に困窮してるってほどじゃねえ。ハルジア金貨くらい手前で稼げるさ」



「……なあ、さっきからハルジア金貨、ハルジア金貨って言ってるが、ここはアニマカルマだろ? どうしてアニマカルマ金貨じゃないんだ?」


 先ほどからそれを疑問に思っていたのか、一人うんうんと考え込んでいたアゼルはついにその問を口にした。



「ん? 何だ、お前は買い物もしたことないのか? 金貨って言えばハルジア金貨しかないぞ。大金貨、金貨、小金貨って括りはあるが、全部ハルジア国から発行されてる物だ。アニマカルマで扱ってるのは鉄貨だな」



「??? ますます分からないな。この国で発行している硬貨があるならそれを使うもんじゃないのか?」



「本当に物を知らないヤツだな。ハルジア金貨とアニマカルマ鉄貨じゃ価値の安定度がまったく違うのさ。ちなみにアスキルドも銅貨を出しているが、それも鉄貨と相場価値は似たり寄ったりだ。ハルジア金貨の優れているところは悪銭や偽硬貨が一切流通せず、そして貨幣価値が全くブレない点にある」



「貨幣価値がブレない? それって凄いのか?」



「凄いってもんじゃねえよ。まあ、今の若い連中はその凄さを分かっちゃいないだろうが。本来貨幣価値なんて安定しなくてあたり前なんだ。例えばだが、小金貨一枚でリンゴ1箱買える年もあれば、2箱買える年もある。反対に小金貨1枚じゃ買えない年だってあるのが本来は普通なんだ。リンゴも金貨も流通量が変化するわけだからな。」



「ほうほう」

 クロムの話はアゼルの関心を引いたのか、興味深そうに頷いている。


「だがハルジア国から発行される金貨の量は毎年適切に調整されている。約40年間、一度も価値の変動を起こしていない、つまりは誰もが安心して使える通貨ってわけだ。反面、他の国が出している貨幣はすぐに高騰や暴落をするもんであまり好まれないのさ。まあ、一部の連中はその相場の変動を利用して儲けを出そうとしているが、まあほとんどは自分の資産を溶かして終わってるな」



「ふーん、ここ40年って結構最近の話なんだな」



「最近って、私は生まれてないんですが」

 アゼルの時間感覚についていけず、イリアはつい口をこぼす。



「そもそも廃れていた貨幣制度を復活させたのは賢王グシャが即位してからの話だからな。10歳にして王位を継いだ少年が突然失われた貨幣制度を完璧に運用し始めたんだ。当時は誰もが驚いたさ。他の国も遅れてマネをしたものの、まったくかの国の貨幣の信頼度には及ばない。誰もが賢王と呼び讃えているが、俺から見たら頭のオカシイ化け物の類だな、あれは」



「は? あの男も10歳で即位してたのか。それで突然新しいシステムを普及させるとかおかし過ぎるだろ。周りがよくそんな勝手を許したな。…………あれ? それでそのハルジア金貨とやらをアスキルドやアニマカルマも使用してるわけだろ? あの王がその金貨の流通量をイジるだけで、他の国の経済が破綻するんじゃないのか?」



「ほう、随分の頭の回りが早いな。そうだよ、一般の民衆で気付いている者は少ないが、ハルジアの賢王のサジ加減ひとつでどの国の生活も簡単に振り回される。狙って安定した通貨価値を維持できるなら、逆に価値を急に上げることも急下落させることも思いのままだろう。今のところ賢王グシャはそのような手を打ってはいないが、各国からすればすでに巨大な人質を取られているようなものさ。だからこそ必死に貨幣制度を後追いして、自国の貨幣価値を高めようとしているわけだが」



「だがそれも遠く及ばないってとこか。まあそうなると他所の国はハルジアにデカい顔はできないよな。まあ裏じゃ必死に弱みを掴もうと躍起になるんだろうけど。それかあの王の暗殺でも企てるか?」


 聞くべきことは聞いたと、アゼルは既に自分の頭のなかでまとめに入ろうとしていた。



「だがまあ、魔族という大きな敵がいる以上、人間の国同士で完全な対立はできないだろうさ。巨大な敵が結束を生むってのは皮肉と思うが。実際に連合軍を作って共同戦線を張っているわけだから、賢王グシャもそうそう無茶な施策は取らないと思うがね」



「? ? ?」

 アゼルとクロムの話についていけず、イリアの頭の回りにはクエスチョンマークが飛び回っている。


「イリアも少しは勉強しときなさいよ。じゃないといつまた周りが敵になっているとも限らないんだから」



「だって、村の学校じゃそんなこと教えてくれなかったし」


 イリアがアミスアテナの小言に反論しようとしたその時、


「奴が出たぞー! 例の()()だ!」


 店の外から確かな喧騒が聞こえてきた。



「……どうやら来ちまったみたいだな。────────バカが」

 少し苛立ちの混じった声がクロムから零れる。



「それじゃあとりあえず、その小僧を取り押さえてくればいいんだよな」



「ああ、頼む。……だがその聖剣はここに置いていきな」

 突然のクロムの言葉、


「ちょっと何でよ」



「何でも何も()()だよ。ここでお前らが依頼をフイにして逃げ出したら俺の大損だろ? こっちにも何か保証がないとな」



「だからっていくらなんでも聖剣(わたし)を質に入れるなんてないでしょ。イリアからも何か言ってやってよ」


 アミスアテナの言葉を受けて、イリアも申し訳なさそうに


「あの、すみません。アミスアテナは私にとって大切な、とても大切な聖剣なんです──」



「イリア」

 イリアのその言葉にアミスアテナも感極まった様子だ。



「だから、────大切に扱ってくださいね」

 そういってイリアは両手でアミスアテナを差し出した。



「イリア~!!」



「え? だってそうしないとクロムさんだって納得できないでしょ。大丈夫アミスアテナ、すぐに解決して戻ってくるから」



「まあ了承ってことでいいんだな。……っく」

 クロムがアミスアテナを逞しい右腕で受け取ると、一瞬焦げるような匂いとともに苦悶の表情を浮かべた。


「クロムさん!? 大丈夫ですか!?」



「ああ、なんてことはねえよ。選ばれていない者が本物の聖剣を手にするってのはこういうことだ」



「ちょっとイリア、こんな男より私のことを気にしてよー。待って本気じゃないよね? ね? ね?」



「おい行くぞイリア。ここに居るとコイツがうるさい」

 アゼルはもう話はついたと店から出ようとしていた。



「それじゃクロムさん。アミスアテナのこと、よろしくお願いします!」

 イリアもクロムに深々と頭を下げ、アゼルを追うように店の外へと駆け出していった。

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