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第56話 いつか至る
漆黒と闇を、幾重にも塗り固めたような重い空と暗い大気。
形なき暗黒ですら物質化してしまいそうな世界の中でただ1人、彼女だけが白く美しく輝いていた。
「イリア!!!」
その刹那、ありとあらゆる言葉の奔流が彼の頭の中を渦巻き、そこから出てきたのは愛しい彼女の名前だけ。
そう、
愛しく、
愛しい、
銀晶の聖剣に心臓を貫かれた、白銀の髪をした美しい彼女の名前だけ。
彼女の為であれば置き去りにしてきた全てと向き合うことができたのに。
彼女の為であれば世界を敵に回すことも、世界を背負うことすら躊躇いはしないのに。
「ごめんね、アゼル」
こちらを見つめる彼女の瞳が申し訳なさそうに揺れている。
胸を貫く聖剣から一滴の血も流れていないことが、むしろより一層彼女の確かな終わりを予感させた。
白く美しい、透き通るような指先から、ボロボロと肉体が崩れ出す。
「イリアァァァァ!!!!!!」
喉が張り裂けんばかりの叫びも、確定した運命を巻き戻すことなどできはしない。
これはいずれ辿り着く「いつか」
今はただ、誰もこの運命を知らずに各々の生をもがき続けている。




