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エルダーストリア‐純白彩加の魔勇譚‐  作者: 秋山静夜
第二譚:灼銀無双の魔法譚
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第46話 勇者VS魔法使い

 白銀の風とともにイリアはエミルの前に立ちはだかる。


「エミルさん! こんな場所でそんな大技を使ったら街中が壊れますよ。大暴れはしないって約束だったじゃないですか」

 エミルが放とうとしていた魔法の威力を知っていたのか、イリアは珍しく怒っていた。



「もう、相変わらずイリアは真面目だなぁ。魔王もタダじゃ倒れないだろうし大丈夫だよ、…………多分。────それともイリアはその魔王の肩を持つ感じなのかな?」


 イリアを茶化すようにエミルはニヤニヤしている。



「…………そうですね。今はアゼルの側に私は付きますよ。アゼルが負けたら、あの子たちを助けられませんから」


 イリアは視線を奥にいる魔族の子供たちに向けて語る。



「ありゃ、からかい甲斐のない。ちなみにアタシが負けてもウチの子たちの鍵が手に入んなくて困るけど、それはいいの?」



「それこそ悪い冗談ですよね。エミルさんが助けると決めたのなら国を相手にしても絶対に助け出します。本当にエミルさんがあの子たちを助けたいだけなら真っ先にアスキルド王に殴りかかっていたはずです」



「う、」



「今は結局、あの姉妹を助けるために魔王と戦っているんじゃなくて、ただ魔王と戦いたいから戦ってるだけなんですよね?」



「……見透かされてる」


 エミルは恥ずかしげに頬を掻く。



「ここからは私も戦います。私が相手なら大規模な破壊を伴う魔法はできませんよね?」



「できないってか、させないの間違いでしょ。アタシのとっておきもキレイに散らされたし」


 エミルの言う通り、先ほどまでアゼルへのトドメとして準備していた両手の魔法の輝きは消え失せてしまっている。


「さっきの銀色の風の力だね。これがあるからイリアの近くで戦うのはイヤなんだよ。せっかく貯めた魔力も簡単に散らされちゃうし。」


 本当に嫌そうな顔でエミルはグチる。



「ホーリーウィンド。私の領域内では魔力の蓄積はできません。エミルさんの魔法はこれで封じました。」


 勇者の能力は魔素に基づく力を徹底的に浄化する。それは魔素から変化した魔力も例外ではない。


 イリアが一振り風を巻き起こすだけで魔法使いに溜め込まれた魔力も瞬時に霧散してしまう。



「せめてこれくらいのハンデがないとエミルさんとはまともに戦えませんからね。では行きますよ!」


 魔法使いの力の根っこである魔力を制したことで圧倒的に有利となるイリア、なのだが。


「はん、いい度胸だねイリア。そのナマクラでどこまでやれるかな?」


 聖剣アミスアテナを指してエミルは暴言を吐く。



「ちょっと!! ナマクラとは失礼ね! イリア、この暴力娘をコテンパンにしちゃって!」

 


「いやいやアミスアテナ。人間のエミルさん相手じゃ本当にナマクラでしょ。」



「──!?」


 使い手の非情な発言に言葉を失うアミスアテナ。



 しかし、イリアの言葉は残酷なほどの真実である。


 人間に対する攻撃力が皆無なアミスアテナより、その辺の棒切れで殴った方が幾分マシというレベルである。


 エミルは魔法の要たる魔力を失い、対するイリアの聖剣もまったく役に立たない。



 つまるところこの二人の戦いは、レベル99同士によるステータスでの殴り合いである……が、



「はっ!」

 イリアは乾坤一擲、上段から鋭く斬り込む。


「ほいっ。」

 それをエミルは半身(はんみ)になるだけで躱し、そのまま腰を沈めて掌底を放つ。


「ぐっ! ……まだ!」

 イリアは腹部にまともにうけて数歩後ずさる……が、空いた距離で助走してすぐさまイリアが突進、聖剣での突きを放つ。


「よっ。」


 しかし、エミルは腰を沈めながら右手で打突をいなし、左肘を突進するイリアの鳩尾に叩き込んだ。いわゆる頂心肘という技である。


「かはっ!」


 自分の勢いすら利用された一撃をもらい、イリアは呼吸ができずに膝から崩れ落ちる。



「ど、どうして? 私たちの基礎的な力に大きな差はないはずなのに。」


 両手を地面に着いて、イリアの顔は絶望に曇る。



「うーん、イリアと真面目に戦うのは初めてだけど、相変わらず自分のスペックに頼りすぎ。もちょっと技術面を磨きなよ。」


 やや落胆したようにエミルは語る。


 お互いの長所を潰し合った戦いでありながら、勝負の天秤は明らかにエミルの方へと傾いていた。


 イリア、そしてアゼルにも言えることだが、エミルの言う通り、彼らは自身が絶対的有利な立ち位置での戦いに慣れすぎていた。


 反してエミルはチート級の魔法スキルを持ちながらも、体術を含む戦闘技術の鍛練を怠ることは決してしなかった。

 今の彼女の力は百戦錬磨の果てに得たものだ。


 その差がここにきて明確に表れる。



「……いいえ、まだです。レーネス・ヴァイス!」

 イリアはひざまづいたまま、最速で自身の絶対防御を組み上げる。


 白銀の花嫁武装がイリアを包み込んだ。



「それ、久しぶりに見たよ。相変わらず綺麗だね。だけどそれもアタシにとっては硬いだけの布切れだけど。イリア、──木偶(でく)になってみる?」


 そう言うや否や、エミルは神速の踏み込みでイリアの懐に迫る。


 魔法を一切使用していないにも関わらず、認識さえ困難なほどの見事な歩法だった。


「ふっ!」

 そこから息を抜くように両掌底をイリアの腹に打ち込む。



「くっ!」

 絶対防御に覆われているにも関わらず、イリアは苦悶の表情を浮かべていた。



「いくら硬くても力を透すことはできるんだから、あまり過信しない方がいいよ。あ、ところでアミスアテナ、あの魔王アタシが思ってたよりも強くなかったんだけど、……アンタ何かしてない?」

 エミルは戦いの最中にもかかわらず、絶対的な余裕を漂わせている。



「それを何で私に聞くのよ。…………まあしたわよ。私のコアの中に魔王の力の大半を封印してあるから、元々よりは大分弱ってるわよアイツ」



「うゎぁ、やっぱり。余計なことしてくれるなぁ。アタシが昔見た魔王の強さはこんなもんじゃなかったんだから。やっぱりアンタって相変わらず胡散臭い奴だよね。イリアもいい加減縁を切った方が良いよ?」



「ちょっとヘンなこと言わないでよ。イリアには私が必要なの! 本当にレアな聖剣なのよ私! ああもう、こんなんだからアンタを探したくなんてなかったのに」



「いやいや、喋る剣とか相当におかしいでしょ。アタシだったらどんなに貴重だろうとこのローブがもし喋り出したら速攻で捨てるよ」


 歴史と伝統あるアイテムもこの少女なら本気で捨てそうである。



「はぁ!」

 アミスアテナとの会話にいそしむエミルへ向けてイリアが剣を振り下ろす。


「アミスアテナとお喋りなんて、随分と退屈そうですね、エミルさん!」



「ん? 別に退屈ってほどでもないよ。その辺の連中よりは明らかに強いし。ただお互いにネタはばれてるし、バトルをエンジョイするにはもう少し刺激が欲しいかな。イリアも楽しい方が良いでしょ?」


 イリアの聖剣を手掌で上手くいなしながらエミルは応える。



「あいにくと、戦いを楽しいと思ったことなんてありませんよ。……今はただ、あの子たちを救う為に剣を振るうだけです」


 失われいく命を守ると決めた、そんなイリアの覚悟に対して、



「ふざけるな! お前など助けてもらいたくなどはない。父を、父上を殺したお前などに!」


 イリアの声が聞こえていたのか、遠く離れた赤髪の少年が叫ぶ。


 その瞳は怒りと悲しみで濡れていた。



「うん? あんなこと言われてるけどどうすんのさイリア? 助ける相手に拒否されて、それでもアンタは戦えるの?」


 試すようなエミルの言葉。



「私は助けます! 私が助けたいから助けるんです! 手を払われたって手を伸ばします。いいですか、ユリウス! カタリナ! 私が誰で、貴方たちが誰だろうと関係ありません。必ず、あなた達をそこから救い出しますから。」



「何で俺たちの名前を? ……何で、なんでお前が泣いてるんだよ」


 少年には理解できない。


 親の仇が何故必死に自分たちを救おうとしているのか。


 憎くて憎くてたまらない相手が、何故自分らを想って大粒の涙をこぼすのか。



 殺したいほどに想った相手が、どうして最期に救いをくれた少女と重なるのか。



「は、相手の気持ちなんてお構いなしで力づくで助けるって? ────イリア、少し変わったね。いや、頑固で自分を譲らないところは変わらないのかな」


 エミルは何故か嬉しそうに頬を緩める。


「よし、賭け金の釣り上げだよイリア。アタシが勝っても、アタシが楽しめたのなら()()どうにかしたげる。その代わり、アタシが楽しめなかったのなら()()壊すよ。」


 エミルの表情は一転し、嗜虐(しぎゃく)に満ちた笑顔で語る。



 イリアには瞬時に理解できた。この女は本気だと。


 彼女が壊すと言った対象は本当に全てだ。


 この国の全て、良いモノも悪いモノも一緒くたに全部壊すと言っている。


 もし含まれていないモノがあるとすれば、あの魔法使いの少女たちぐらいだろう。


 もちろんその保証すらないのだが。


 イリアはそんなエミルの本気の言葉を受けて、



「ええ、……いいですよエミルさん。乗りました」


 彼女には珍しく、戦いの最中で薄く、笑っていた。 

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