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エルダーストリア‐純白彩加の魔勇譚‐  作者: 秋山静夜
第二譚:灼銀無双の魔法譚
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第40話 老獪なる王

処刑開始時刻、五分前


「おい、処刑場所が大広場ってのはアタリみたいだが、こりゃ人多すぎだろ」 


 イリアたちがアスキルドの大広場に駆けつけた時にはすでに人混みで溢れていて、遠方の処刑台の様子が分かる状況ではなかった。



「ちょっとイリア、助けに行くのはもう止めないけど。あなたこの状況でどうするつもり? これだけの衆人環視の中で何の策もなしに助け出すなんてどう考えても無茶よ」


 アミスアテナからもっともな意見が出てくる。


「っ、そうかもしれないけど、名案を考えているうちに処刑が始まってしまうかもしれない。とにかく今は急がないと」


 焦りからか、イリアは冷静な判断ができない。



 それでも心のどこかではイリアも理解している。勇者である自分が子供とはいえ魔族を助けることがどういうことを意味するか。



「おい、ゴタゴタ言ってる暇はないぞ。……だがこの姿じゃ話にならないのも確かだな。おいイリア封印を解け!」


 アゼルも焦りからか苛立ちを隠さない。



「ちょっと!? ふざけないでよ! そんな勝手に封印を解除していいわけないでしょ。それは絶対にダメ。いい? これはあんたにとっては違うかもしれないけど、私たちにとっては緊急事態でもなんでもないただの他人事。私はイリアの生命を(おびや)かす状況でもない限りあんたの封印の解除なんて許さないわよ」



「なんだとてめぇ! もう一度言ってみろ!」



 そんな一触即発の空気の中、



「助けて! お願い助けてください!」



 遠くから、少女の必死の叫びが響き渡る。


 

 その悲痛な声を聞いて、立ち止まることのできるものがどこにいるというのか。



「おいイリア! 封印を解っ、お!?」


 アゼルの声を最後まで聞くことなく、イリアは近くを飛んでいた彼を掴んで強引にキスをする。



「ちょっと! イリア。何勝手に! やめなさい!!」

 アミスアテナの驚愕の声。


 アミスアテナの静止もむなしく、イリアとアゼルを中心に眩い光が溢れ出す。

 

 全ての民衆の注意が処刑台に向いていることもあり、この異常事態に気付く者は誰もいない。


 光の収束と同時に二つの姿が現れる。


 漆黒の衣服に包まれた長身の魔王アゼルと、白銀の輝きを放つ美少女へと成長した勇者イリア。


 

「ったく、強引な奴だな。だがおかげで封印は解けた。…………封印の解除って別に聖剣の同意はいらないんだな」



「あ、あ~! 勝手に、あー!!」

 手があるなら頭を抱えそうな勢いでアミスアテナは悲鳴をあげる。



「こっちも万全です。アゼル、行きましょう!」

 そんなアミスアテナの叫びは黙殺してイリアは処刑場へと意識を定める。



 周囲では既に民衆たちから「殺せ、殺せ」とコールが鳴り響いている。

 人間たちのこの在り方に胸を痛めながらも、イリアは前を向いた。



「助けてください!! 魔王様!!!!」



 !!!

 


 民衆たちの大声の中でも、聞き逃せない言葉を耳にして二人は同時に跳躍する。


 飛んだ先は、処刑台の前。

 集まった民衆を整理するために、都合よく開けた空間へと降り立つ。



「ああ、ちゃんと聞こえている。もう安心しろ、魔王アゼル・ヴァーミリオンが必ずお前たちを助け出す」



 子供たちを安堵させるように、優しい声音でアゼルが声かける。



「アスキルド王! ラヴァン・パーシヴァル殿。どうかこの非道な行いを止めて頂けませんか!」


 対照的に強い口調で、イリアはこの国の王へと堂々と意見を申し入れる。



「おや? そなたは勇者殿。勇者イリア殿ではないか。何故貴殿がこちらへ? 貴殿が滞在しているとの報告はなかったが。それにこの処刑を止めろなどとは異なことを。何かお気に召さなかったかな?」


 勇者の登場に少し驚きながらも、さりとて動揺した様子もなく老練な奴隷王はイリアに尋ね返す。



「魔族とは言え彼らは幼き子供です。それにこれまでの間もこの子たちに非道な仕打ちと続けてきたと聞いています。これは貴方の語る人の道から外れる行為のはずです」



「人の道? ああ、人道や人権などと言ってアスキルドに法を敷いたこともありましたかな。いえ、それは今も変わることはないですが、それはあくまで()に対してのもの。こやつら世界のゴミどもには関係のないことなのですよ。それにそもそも、この国を魔族どもの侵略から救い出してくださったのは他でもない貴殿ではないですか」


「貴殿が魔族どもの首魁を倒してくれたからこそ、我々は奴らの残党を処分することができたのですよ。その貴殿がどうして今になって魔族の残り滓を消し去る程度の事で口を出してくるのですかな?」


 遥か年下であるイリアに対しても慇懃な口調で奴隷王は語りかける。



「…………ません。そんなことの為に貴方たちに力を貸したのではありません!」

 唇を噛み締めて、イリアは奴隷王の言葉を否定する。


 だが、



「いいえ同じことですよ。我らの味方をするということは彼らの敵になるということ。我々人間の世界から魔族を駆逐することができたのは、間違いなくあなたがいたからなのですから。そして、これは一体どういうことでしょう? 勇者が魔族の子供に肩入れするとは、」


 慇懃な口調ながらも、勇者イリアを試すような口ぶりで奴隷王は語り続ける。


「それに隣の男は先ほど魔王と名乗りましたな。このような想像をしたくはないのですが、勇者イリア殿。あなたが魔王と共にいるということは、貴殿は我ら人間の敵になったということですかな?」


 奴隷王は皺に隠れそうな瞳をギラリと光らせて、イリアに詰問する。



「いえ! 違います! そうではないのです。私は今までと変わるところはありません。ただその子供たちを殺すのを止めて頂きたいだけなのです」


 イリアには理解出来ない。

 何故誠心誠意に話す言葉が伝わらないのか。

 自分が今欲しているのは、もっと単純なことのはずなのに。



「ほう? それは良かった。貴殿が敵となったとあってはどうしようかと思ったところでした。…………まあ本当のところ分かってはいたのです。貴殿が魔族といえど子供を殺すことを良しとしないことは。ですから貴殿の耳に入らないように魔族どもは今まで処分してきましたし、今回も勇者殿の入国の件さえ知っていれば、この公開処刑も日取りを見直していたことでしょう」


「……ですがあなたにも聞こえたのではないですか? 我が国アスキルドの民の声が。たとえ子供であろうと鉄槌を下すことを辞さない憎しみを。アスキルドの民はそれほどまでに怒っているのですよ」


「土地を穢され、家を壊され、家族を殺された多くの人々。貴殿はその怒りを胸の奥にしまい込んでこやつらを許せと、我が民にそう強制するのですかな?」



「くっ、ですが、それは」

 老獪(ろうかい)なる奴隷王の言葉に飲まれていくイリア。



「もういい、相手にするな」

 それを、力強い声で魔王アゼルが切り捨てる。


「貴公らの国の事情は十分に把握した。我が国の民がかけた迷惑、察してあまりある。魔族の王たる俺の謝罪が必要だというならいくらでもしよう」


「…………だが、戦とはそういうものだろ? お互いが殺し殺され、既に戦いを主導した者も死没している以上、子供らにまで手を出そうとする貴様らを見過ごす義理はない。俺の民が目の前で傷つくことは断じて許さん!」


「それとも何か? 魔族の代表者である我に、責任を取らせてみせるか?」

 殺気とも怒気とも違う、王の威風を放って魔王アゼルは奴隷王ラヴァンと向き合う。



「ほっほ。どうやら魔王と名乗ったのはハッタリではなさそうですな。魔王たる貴公が魔王軍の動向に関して無関係な体をとっているのは気にかかるが、……挑発には乗らんよ。貴公が明らかに強いのは私でもまあ感じ取れる。それで? どうやってこの子供らを救い出す? いかに魔王といえど()()()()()()()()()()()()にそれができるのかな? そこの勇者は我ら人間の味方だそうだぞ」


 老練とはこのことか。魔王の実在を目の当たりにしながらも、奴隷王ラヴァンは瞬時にイリアとアゼルの関係を大まかながらも読み取った。その上でイリアの心理をもてあそぶように奴隷王は言葉を繰り出している。


「何? おい、イリア。」

 アゼルにとって想定外なことに、イリアは剣の矛先に迷いをみせていた。


「……アゼル。あの子たちは必ず助けます。ですが、彼らを決して殺さないでください。そうなれば、私はあなたの、……敵になるしかない」

 イリアは目を見開き、震えながらアゼルに告げる。



「もう、イリアのバカ! 結局あのじいさんに完全に手玉に取られてんじゃない。自分の心を決めずに突っ込むからこうなるのよ。…………でもそういうことよ魔王。人間に害する者を私たちは許容することができない。だからあんたも馬鹿なマネはしないでよね」



「チッ。そりゃないだろ。あいつらを一人も殺さずに助け出せってか? ……難易度高いな」


 イリアの梯子外しのような言動に戸惑いながらも、アゼルは現状のパワーバランスを瞬時に読み込む。


 イリアは子供を助けたい気持ちはあるが、この衆人環視下で堂々と人間の敵として振る舞うことはできない。

 いや、ここでイリアが力を振るえば人間の敵として民衆に映るようにあの老獪な王に誘導されている。


 さりとてアゼル一人で無双しようにも、あちらにも聖剣持ちの騎士が複数名待機している。

 それに加えて一般兵までも雪崩れ込んで来たら、一人も殺さずに戦うのはいかにアゼルであっても困難を極める。


 そこでもし誰か一人でも殺してしまえばイリアが悪辣な魔王を打ち倒す勇者として今度は敵になるという寸法である。


 無鉄砲に突っ込んだイリアに責任はあるだろうが、その辺りはアゼルも同罪である。

 これはどちらかといえば、勢いで誤魔化すつもりだったイリアたちの動きを完全に殺しきった、あの奴隷王の(したた)かさが彼らを上回っただけと言えるだろう。


 

 イリアたちと奴隷王の間で睨み合いが続く。



 イリアたちは自ら動き出すことができず、かといって奴隷王の側もここで処刑を強行すれば魔王アゼルがなりふり構わず動き出すのは明白であるため彼らもまた動けない。



 緊迫した空気の中で、徐々に集まった民衆たちがどよめき出す。


 それはそうだろう、魔族の処刑の場に勇者が現れたかと思えば、それに付随して魔王を名乗る者まで登場したのだ。これから一体どうなるのか気になるのは当然と言える。




 ザワザワと人混みが騒ぎ出す。



 いや、どよめきどころか、一部では大きな騒ぎとなって混乱が始まっていた。



 それはイリアたちのいる処刑台の方ではなく、アスキルドのメインストリートに繋がる大広場の入り口の方から広がっていた。




「黒いローブの女だ!! あいつだ、あいつがやってきたぞ! みんな逃げろ!!!」


「キャア! 『歩く災害』よ!!」


「みんな逃げろ~。奴だ! ()()の魔法使いだ!!!!」


 民衆は大混乱の中で蜘蛛の子を散らすように大広場から逃げていく。



「「?????」」



 その様子をアゼルもイリアも唖然として様子で見つめている。



 信じられないことに、ものの五分で大勢集まっていたアスキルドの民衆は跡形もなく大広場から逃げ去っていた。

 まるで普段から訓練されているかのように、一人のケガ人を出すこともなく。



 大勢の人たちが走り抜けたため、大広場は未だ砂ぼこりが舞い上がっており、視界が判然としない。



 そんな中、民衆が決して逃げる方向には選ばなかったメインストリートの方から、



 黒金のローブを羽織った、一人の少女が現れた。

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