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エルダーストリア‐純白彩加の魔勇譚‐  作者: 秋山静夜
第二譚:灼銀無双の魔法譚
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第37話 誰かの残した棘

「アタシね。イリアのそういうとこキライだよ」


 思い出したくない思い出を思い出す。



 あの人は思ったことを偽らずにそのまま口に出す人だった。

 だから、あの言葉も偽りのない本心だったのだろう。


「結局イリアがどうしたいのかがアタシにはわかんないんだよね」


 私にはその問いの意味こそが解らなかった。


「分からない? 正直な話、イリアは別に魔族が憎いわけじゃないでしょ?」


 そんなことはない、私は私の村を、キャンバス村の人達をあのような無惨な目に合わせた奴らを決して赦すことはできない。


「それは()()が憎いだけで、魔族が嫌いってのとは違うじゃん。アタシが言ってるのはイリアが魔族と戦う理由は他人からの受け売りばかりで、自分自身から生まれた理由が見当たらないってこと」


 何かいけないのだろうか。

 魔族の出現によって人々は苦しむことになった。

 ならば彼らを退ければその苦しみが取り除かれるのは自明ではないか。


 たとえその考えが私自身から出たものでなくても、それが正しいというのなら迷う理由はないはずだ。


「ほら、『正しさ』なんて言葉を持ち出すからそうなる。『正しさ』ってのはいつだって()()にとってのモノに過ぎないよ。その誰かを入れ替えてしまえば、信じた『正しさ』が身の毛もよだつ邪悪に変化することもある」


 いつだって楽しそうに笑っているこの人が、真剣な口調で語りかけてくる。


 何か大切なことを伝えようとしてくれるのだと思うけど、私のポンコツな頭は彼女の真意を汲み取れずにいる。


「……はあ。まあこの辺が潮時かな。アンタたちとの旅は十分楽しかったけど、このまま一緒にいたら最後には後味の悪い結末を見ることになりそうだしね」


 唐突な、別れの言葉だった。


 これからもともに苦難を乗り越えてくれると思っていた仲間は、まるで子供の「また明日」のような気軽さでサヨナラをつげようとしている。


「苦難って。……断言してもいいけど、きっとイリアは一人でも辿り着くよ。さしたる苦労もなくね。イリアにはそれができる。いや、それができるように調()()されている」


 彼女は少し睨むように私の腰元の聖剣に視線を送る。


「でもそれってどうなんだろ? 誰かから救ってくれと頼まれて、そのまま本当に救えてしまう世界に意味なんてあるのかな?」


 救いを求める人こそが自らを救うべきで、もしくは私自身が私を救うために戦うべきということだろうか?


 しかしそれは強者の理屈だ。

 自分自身の力の範疇を越えているからこそ他者に救いを求めるのであり、そもそも私には救うべき自分が見当たらない。


 それにそれならば何故、彼女はそんな疑問を抱きながらこれまでの旅をともにいてくれたのか?


「ん? そんなのイヤな奴らが目の前にいたからに決まってんじゃん」


 単純明快。

 至極当然なことのように彼女は語る。


「だけどそんなイヤな奴らももう見当たらなくなったし、今度はひたすらに強い奴と戦いたいな。アタシ一人だと死んでしまいそうなくらい強い奴」



 ???


 強い敵と戦うのが目的だと言うのなら、私と旅を続けても結果は変わらないはずだ。


 そんなに一人で戦うことに拘っているのか。



「ん~、これは言わないでおこうと思ったんだけどな……」


 何だろう。


 ここにきてまだ私が傷つく言葉を用意してるのだろうかこの人は。


「イリアが一緒だと、アタシが思い切り戦えないじゃん!」


 …………


 傷つきはしなかったけど、本当にただただ個人的な理由だった。


 まあ、その理由は分からないでもない。


 私の能力と彼女の能力は相性が悪い。主に彼女が割りを食らう感じで。

 今までだってもしかしたら我慢してくれてたのかもしれない。


 だけど、真に恐ろしいのは次の日の朝には彼女は本当にそんな理由で姿を消していたことだ。


 書き置きにはただ一言。


「またね!」


 また明日、当然のように顔を合わせる子供同士のような気軽さで彼女は出ていった。


 それなら、いつか子供みたいな理由で彼女はまた戻ってきてくれるのだろうか。


 いずれにしろ、私はやっぱり傷ついた。


 一緒に戦いながら、まるで違う景色を見ていたことに気付かされた日。


 思い出したくない、悪い夢のような思い出。


 吹き抜ける風のように掴みどころのないあの人。


 だけど、今日に限っては悪くない。


 涙が、止まった気がした。

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