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エルダーストリア‐純白彩加の魔勇譚‐  作者: 秋山静夜
第一譚:無垢純白の勇者譚
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第23話 勝者の特権

 身体中が、痛い。

 これは、攻撃を受けたダメージによるものなのか。

 それとも肉体の限界を超えて酷使したことに対しての反動なのか。




 空が、青い。




 魔素に満ちていたはずの大気も空も、今や綺麗に澄み渡っている。




 そうか、負けたのか。




 先ほどまでは瞬時に肉体を回復するほどの魔素を生み出していた俺の魔素炉心が、今や一滴の魔素を生成することもできずに停止している。

 今の自分は指一本を動かす自由すら失っている。

 敗北も、身動きが取れなくなるほどに力を振り絞ったことも、

 何もかもが初めての経験だ。



 そう、俺は、生まれて初めて、全力を出したのに負けたのか。



 見上げた景色のせいだろうか、不思議と屈辱感はなかった。



 ただ、あの勇者の生き方に疑問を感じながらも、その生き方を、正しいと迷うことなく邁進していた自分を思い出しただけ。 



 10年、か。



 まあ、それになりに逃げてきたのだとは思っている。解っている。 



 向き合うべき時が、来たのか……




「あの、生きてますか?」


 高いところから、鈴の音のような声が聞こえてくる。


 白銀の勇者だった。


 よく見れば綺麗な女だ。膝をついて話しかけているようだが、それでもまだ魔王に対して頭が高い。それに、こいつには傷一つ見当たらない。結局俺は、この勇者に傷らしい傷を負わせることは一度もできなかったのか。実に腹立たしい。



「生きてるよ。お前の憎たらしい顔が見える」


「む、失礼ですね」

 真面目に受け取ったのか、頬がむくれている。


「冗談だ、気にするな」

 いや、小娘と全力で戦って負けたのだ。憎らしいかはともかく悔しいのは本当だ。でもそれを言うと俺の器の程が知れるので、ぐっと堪えて黙っておく。



「それで、俺は負けたんだろ。これからどうなる?」


「はい、妖精さん、いえ魔王さんにはこれから私たちの旅に付いてきてもらうことになります」

 予想していた答えではあった。だが、その前に、


「アゼルだ」


「はい?」


「アゼル・ヴァーミリオン。俺の名だ。これからの旅先で魔王魔王と連呼するわけにもいかないだろ。ましてや妖精だなどと呼ばれるのも御免だしな」


 勇者はキョトンとした表情で、目を見開いている。

 こっちは顔もろくに動かせないので、見つめてくる勇者の顔をじっと見続けることしかできない。


 少し間が空いて何か思い至ったのか、突然まるで花のように笑顔が咲いて。


「はい! アゼル。私はイリア、イリア・キャンバスです。これからよろしくお願いします」

 まだ何ものにも染まっていない、無垢な言葉が返ってきた。




「はいはい、挨拶もその辺でね。あー、ちなみに私はアミスアテナ。由緒正しい聖剣なんだから。……雑に扱ったら殺すわよ。あとイリア、こいつがまた元気にならない内にちゃっちゃと済ませちゃいなさい」

 初めからそうではあったが、この駄剣は俺に対する態度がキツイ。


 それに、済ませる? 何をだ?


「敗者は勝者に従う。昔からのルールでしょ? つまり負けた奴は勝者に何をされても文句は言えないのよ」


 悪党のようなセリフを堂々と言い切る、聖なる剣。いやいや、お前、人権とか倫理とかその辺にもうちょっと配慮してくれても…………


「それではアゼル、失礼して。唇をお借りします」

 勇者は膝立ちのまま顔を沈めて、俺にキスをしてきた。


「んむ˝-」

 キスをされて声にならない悲鳴を上げる哀れな魔王、つまり俺。……いやタンマ、キスの感触とか以前に、全身に激しい電撃が走ったかのような感覚がするんですけど!


「短いのはダメね。きっちり10秒よ」

 無慈悲な駄剣の指令が追加される。


「んん˝~」

 

 声にならない敗者の叫びが、晴れ渡った草原に響き渡った。

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