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エルダーストリア‐純白彩加の魔勇譚‐  作者: 秋山静夜
第一譚:無垢純白の勇者譚
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第2話 ある晴れた日

 晴れた日差し。澄み渡る空。

 この上ないほどの行楽日和、見晴らしの良い街道から男女の声が聞こえてくる。


「まったく今日はなんて日だ。一体こうなった責任はどうとってくれるんだよ!」


 ガタッ


「仕方ないじゃないですか。私だって、まさかこんなことになるとは思っても見なかったんですから。……まあ、見通しが甘かったことは認めますよ。認めます、けど。だってできそうな気がしたんだから仕方ないじゃないですか。……それが今回は、たまたま? できると思って踏み出したことが上手く回らなかっただけ、だと思います!」


 ゴトッ


「おいおい、見切り発車も甚だしい……。こんなの完全に巻き込み事故だろ。だいたいなんだって俺がこんな目に会わなきゃならないんだ」


 ガコンッ


「私だって好きでこんな状況に陥ったわけではないんですよ。だいたいあなただってさっきは役に立ってなかったじゃないですか? だって仮にもあなたは……」


 ガタゴトッ


「うるせぇぞガキども!」


 先ほどから続いている二人の喧騒に堪忍袋の緒が切れたのか、荷馬車を御している男が声を荒げる。


「まったく、これから売り払われるっていうのにどうしてそんなに元気なんだよ」


 そう、先ほどから騒いでいる少女たちが乗っているのは「荷」馬車あり、その「積荷」こそが彼女らだった。


 荷馬車の周りには武装した男たちが馬に乗って併走している。

 彼らは街道を通行する人々を襲い、その持ち物や()()()()を金銭に換えることを生業とする。いわゆる野盗たちだった。


「最近は『勇者様』とやらのおかげで治安が良くなっちまってねぇ。俺たちみたいな商売は上がったりよ。だからお前たちみたいなカモから荷物をいただくだけじゃこっちも生活できなくて、人攫いの真似事までしなくちゃなんねぇ。ま、大人しくしてりゃあ怪我はさせねぇから、ちったぁ静かにしときな」


 野盗のリーダーらしき男は身勝手な理由を恥ずかしげもなく言いきる。


「真似事って、こんなの完全に人攫いじゃないですか」

 まったく悪びれもしない男に対して、少女は真っ直ぐな瞳で物怖じせずに糾弾する。


「おっと、確かにそうだ。だけど安心しなお嬢ちゃん。俺たちは攫うだけで終わる中途半端なマネはしねぇ。きちんと高値で売り渡すとこまでしっかりやるからよ。この世の中、仕事を途中で投げ出すやつはやってけねぇからな。ガハハハハ」

 何が楽しいのか。陽気に笑い出す男。


「それに嬢ちゃんならきっと良い値が付くぜぇ。銀色の髪に瞳。容姿もかなり整ってる。あと何年かすりゃ貴族の側室にでも入れるってもんだ。これだけの上物なら真っ当な買い手がつくから安心しな。間違っても子供に興奮するような変態に売り飛ばすようなことはしねぇからよ」


 冗談なのか本気なのか、胸を張って男は語る。どうやら男は自分なりに最低限のプライドを持って仕事に臨んでいるようだ。いやまあ物取りに人身売買など、それが最低な仕事であることは間違いないのだが。


「まー、その羽の付いた妖精がちゃんと売れるのかはよく分からんがな」

 怪訝そうな顔で男は振り返って荷馬車の中の一点をじろじろと見ている。


「あ˝? 勝手に俺を捕まえておいて何を言ってやがる。ぶっ殺すぞ」

 まるでチンピラのような言葉を吐く妖精。


 そう、これは妖精とでも言えば良いのだろうか。

 黒い髪に黒い羽、さきほどから少女の周りを飛び回りながら偉そうに喋っている不思議な生き物だ。

 

 一応は腕ごと身体を紐で縛って積荷の一つに結び付けられているが、背中の羽は実態がなく触れることができないため、妖精は紐の長さの範囲で自由に飛び回っていた。


「まあ、喋る小人とくりゃあ、どっかの見世物小屋が買い取ってくれるか。アスキルドには変わった物好きも多いしな」


 自分の中で勝手に結論を出した男は、手綱を握り直して気を引き締めた。自分たちは奪う側の人間ではあるが、それがいつ奪われる側に回るとも限らないのだから。





「…………る? き……える? ……イリア、聞こえる?」


 どこからか、微かに声が聞こえてくる。


 今現在、この荷台には銀髪の幼い少女と黒い妖精しかいないように見えるが、聞こえてきたのはその二人とは違う大人の女性の声だった。


「聞こえてるよ、アミスアテナ」

 馬を御している野盗の男には聞こえないよう、謎の声に対して少女は小さな声で応える。


「随分とめんどくさいことになったものね。まさか野盗程度に負けることになるなんて予想外だったわ」

 女性の声は、荷台の中央に転がっている荒布を巻いた長い棒のような物から聞こえてきた。


「何が予想外だ。そもそもお前のくだらない封印さえなければこんなことにはなってないんだよ。おかげでまったく力が出せないじゃねぇか」


 謎の声を耳にして黒い妖精は何か思い出したのか、正体不明の簀巻きの棒に向けて罵声を浴びせる。


「あら、あなたの力を完全に封じ込めている私の性能をもっと称えて欲しいわね。……まあ、そのせいで人間にここまで遅れをとってしまったのは計算外だったけど」



「うう、今まで《《人》》と戦うことなんてほとんどなかったからね。まさかこんなに一方的になるなんて思わなかった」


 大の男たちに捕まったのがそんなに意外だったのか、少女の声には悔しさがにじんでいる。


 どうしてこんなことになってしまったのか。

 黒い妖精との不毛な口喧嘩が一時休戦となり、少し冷静になった少女は今回の事の起こりを思い出す。


 そう、あれは、一つの「王の依頼」から始まっていた。

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