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エルダーストリア‐純白彩加の魔勇譚‐  作者: 秋山静夜
第一譚:無垢純白の勇者譚
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第16話 4秒

 封印から解き放たれ、俺は黒衣の魔王然とした姿に、勇者は子供の姿から大人びた少女へと羽化していた。


「チィ!」

 封印が解けた俺たち二人を見て、黒騎士は迷わずに魔王である俺に向かって斬りかかってきた。


 なるほど、今は勇者よりも力を取り戻した俺の方の抹消を優先してきたか。


 先ほどのこいつの言葉を借りるなら、今の俺たちは有害な勇者と有害な魔王。その2択なら迷いなく魔王を討ち取る方を選ぶのか。


 ……ふん、判断が早い。


 俺はすかさず、虚空から自らの魔剣を取り出して黒騎士の聖剣と切り結ぶ。


「ハァァ!!」


「フンッ」


 五度ほど打ち合いを繰り返した後に、鍔迫り合いとなった。


 この黒騎士の使う聖剣はおそらく火の属性を帯びているのだろう、刀身は熱く燃え上がり、打ち合う度に激しく火花が飛び散っていく。


「ふむ、筋は悪くない。王の近衛騎士なだけあって扱う聖剣の質も良い。魔法による守護も思った以上に厄介だ」

 素直な感想が口から出る。


 格の高い聖剣に、黒塗りの鎧兜もおそらくは一級品のものだろう。黒騎士が魔法の補助によって力の底上げされている影響もあるのだろうが、思った以上に戦いになっている。


 ……いや、なってしまっている。


「こちらとしては魔王と戦いになっていることの方が驚きですよ。ですが、この好機を逃す手はありません。聞こえているか魔法兵よ! 炎はもういい、私にありったけの加護を付与せよ!」


 黒騎士は大声で後方で待機している魔法使いたちに指令を出す。ここで近接戦を行なう以上、攻撃魔法は自身を巻き込みかねない、魔法使いたちのキャパシティを黒騎士のアシストに全振りするのが有効と判断したか。


「アベリア様、御武運を!!」


 ハルジアの正規魔法兵はさぞ優秀なようだ。命令から一呼吸もしない内に黒騎士にあらゆる加護が付与されていく。この状況を見て予め詠唱を始めていたとしか思えない。


 風の魔法は速さとしなやかさを、火は殲滅力、土は膂力(りょりょく)、といったように黒騎士に複数の加護が与えられていく。


 この瞬間、ただの一国の騎士が、世界を代表する英雄と言っても差し支えないほどの威圧感を持ちつつあった。


「ちっ、さすがにこれ以上強化されると厄介だな。おい、そこで暇そうにしてる勇者。この男は引き受けるから、後方の魔法使いどもを叩いてくれ」


 黒騎士が俺と斬り合いを始めたことで置いてけぼりをくらったのか、先ほどから勇者は何をするでもなくボーっとしている。


 いや、両手を自らの胸に当てて感動していた。


「……ある、胸が、ある。なくしたものが戻ってくるって、こんなにも嬉しいものなのですね」

 嬉しそうに、涙ぐみながら勇者は呟いている。



「って、おい! 状況を考えろ! 少しはお前も働け」

 俺には勇者の手に収まっているのがそんなに大層なモノには見えないが、そこは懸命に堪えて黙っておく。


 ……もしそれを口にしたら、敵がもう一人増える予感がする。


「え? あ、はい。そ、そうですよね。では後方の部隊は私が相手をしてきます」

 思った以上に素直に、勇者は俺の言葉に従って魔法使いの所へ駆けていく。


 関係ない話だが、俺は衣服も魔素で構成できるから問題ないが、勇者は元の姿に戻って身長が伸びたことで、子供用の服のサイズが合わなくなったのだろう、走ると少し際どい。いや、何がとは言わないが……。



「くっ、魔王が勇者と共闘するとは。貴方にプライドはないのですか?」

 激しく剣を打ち込みながら黒騎士はこちらを糾弾する。


「ふざけるな、世話になった勇者を暗殺しようとしてるお前らにだけは言われたくねぇよ!」

 しまった、思わず脊髄反射で突っ込んでしまう。

 平常心、平常心。



「……まあ、いずれにせよ時間の猶予はないでしょう。ここで決められないのなら結果は見えています。魔王よ、覚悟。黒騎士アベリアと聖剣イグニス、尋常に参る!」


 騎士の矜持なのか、黒騎士は名乗りを上げて構えをとる。付与された魔法の加護も永続ではない。後衛によるサポートに不安が生まれた以上、一瞬で決着をつけるつもりなのだろう。


「あいにくだが俺には一騎士に名乗る名などない。ただ、魔王に破れたとだけ覚えておくがいい」


 自身の魔剣を起動する。


 2秒、いやこの男相手なら3秒は必要か。

 黒騎士の魔法の加護が解けるまで戦いを引き延ばすつもりはない。魔王の矜持を持ってただ正面から叩き伏せるのみ。


「いざ!」


 風の加護の下、一瞬で間合いを詰めて斬りつけてくる黒騎士。


≪1≫


「くっ」


 敵の斬撃を真正面から魔剣で受け止める。騎士は聖剣の力を最大駆動させているのだろう。刀身は真っ赤に燃え滾り、剣を打ち合わせるだけでこちらの身を焦がしていく。


≪2≫


「はぁ!」


 いや、焼けているのは俺の肉体だけではない。奴の腕からも焼け焦げた匂いがしてくる。魔法の加護、聖剣の加護ですらカバーできないほどの能力の過剰駆動。


 それほどまでに、こいつは自らの限界を超えて俺を討ち果たさんと、全身全霊を賭してくるのか。


≪3≫


「うぉおお!」


 今のは俺の発した声だろうか。奴から漏れ出た声だろうか。この数瞬で十六合を打ち合った。

 不覚にも腕から先が痺れている。それはきっと奴も同様だろう。これでは次の一撃を繰り出せるのかすら定かではない。


「はぁぁあああ!」


 だが、それでもこの黒騎士はその限界の先へと手を伸ばしていく。


≪4≫


「見事だアベリア」


 対峙した黒騎士に敬意を表し、魔剣の深奥、黒き極光をもって返礼とした。

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