第126話 彷徨う人形
あなたは、幽霊を信じるだろうか?
肉体の死の、その先に辿り着いた魂。
かつてありし、死者の影。
多くの人がその存在を恐れ、しかし心のどこかでその存在を望むもの。
人形たる自分にはまるで無縁の話。
無縁で、あるはずだった話。
これより語るは、壊れかけのガラクタ人形たる自分、シロナを今もなお動かし続ける橙の陽の話。
ふらり、ふらりと、ただ荒野の中を歩いていく。
目的はない。いや、あったような気もするが、靄のかかったこの頭では判然としない。
ただひたすらに身体が重い。機能上の問題は何一つないというのに、脚が、腕がとても重く感じる。
このオートマタの身体は疲労とは無縁であるはずなのに、ここまでの重苦しさを感じるのはどうしてなのか。
これが普通の人であれば心が重いとでも表現するのだろうが、人形たる自分に心があるはずもなく、やはり身体が重いというのがきっと正しい。
担い手、イリアたちのもとから離れて、何日も、何週間もこうやって彷徨っている気がする。
目的は、何かあったはずだ。
そう、何か『答え』を得たくて自分は歩いている。
その『答え』を教えてくれる誰かに出会いたい。
もしそれが地面に落ちているというのなら、恥も外聞もなく地を這って探し出そう。
この血の通わぬ身体の不調。
数多の屍を築き上げてしまった自分への呪いを払う方法を知りたい。
そう思い、ひたすらに探している。
そう、そう思ったのだ。
そう思い、かつて主クロムとの話の中で耳にした「刀神の里」を自分は探していたのだ。
だが、どうしても見つからない。
教えてもらっていた大まかな位置をずっと探して歩いているが、一向に人の生きた気配を感じない。
暗中模索、まるで深い闇の中をさまよっているようだった。
いや、これは比喩ではなく、いつの間にか周囲一帯が黒い霧に包まれていた。
誰かの、もしかすると魔族の奇襲だろうか。
やめろ、やめてくれ。
自分はもう、お前たちを、────────たくはないのだから。
いくら進んでも黒い霧は晴れない。
仕方なく、やむを得ず、聖刀を目の前の虚空に向けて振るう。
不安であった誰かを斬るという感触もなく、我が聖刀は黒い霧を見事に斬り払った。
霧から抜け出ると、そこに見えたのは何の変哲もない里だった。
「おや、お兄さん。外から人が来るなんて珍しいね。何かこの里に用かい?」
年配の小太りの女性が、少し驚いたように、しかしてとくに警戒心を見せることもなく聞いてくる。
「すまない、道に迷ってしまった。して、ここは一体どこでござるか?」
とっさに嘘をつく。いや、嘘であるはずもない。自分は本当に道に迷って、道を探してここまで来たのだから。
「何だい、ここがどこも分からずに来たってのかい。おかしな奴だねぇ。まあいいさ、この里はカグラって言うんだ。刀神の里と呼ばれてもいるがね」
「────!?」
長い彷徨、流浪の果てに、自分は目的の場所に辿り着いていた。
鉛のように重く感じる足を一歩踏み出す。
どうかここに、自分の望む答えがあることを願いながら。




