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エルダーストリア‐純白彩加の魔勇譚‐  作者: 秋山静夜
第一譚:無垢純白の勇者譚
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第11話 封魔の聖剣

「イリア!イリア!」

 大きな声にイリアの意識が揺さぶられていく。

 どうやら彼女は少し、うたた寝をしていたようだ。


「ごめん、アミスアテナ。少し眠ってた」

(だって、外は穏やかな日差しで、ガタゴトと心地よく揺さぶられるんだもん)


「この状況で眠れるとは勇者も大概図太いんだな」

 呆れたように妖精(魔王)が突っ込みを入れる。 


 結局イリアたちはこれといった打開策もなく、あっさりと野盗たちに捕まった。

 流石は歴戦の野盗たち、幼気(いたいけ)な少女の誤魔化しもものともせずにイリアはほんの数秒で縛り上げられてしまった。

 アミスアテナは荒布で簀巻(すま)きのように巻かれ、元魔王の黒い妖精は紐で縛られて重石に括られてしまっている。


 イリアの誤算はいくつかある。

 

 ひとつはレベルの変化に感覚がまだ追いついていなかった。

 結果としてレベル99の頃の感覚で野盗に挑んでしまった。

 

 本当なら野盗に出会った瞬間に逃げるのが最善であったはずだ。


 ふたつは聖剣、そして勇者の能力の性質についてである。

 聖剣や勇者の力は魔族や魔物に対しては絶大だが、その反面、人間などの魔素を有さない生物には大して効果がない。

 イリアの基礎筋力も低下している今、アミスアテナは人間に対して棒切れ以下なのだ。




「で、これからどうすんだよ。あいつの話だとどこかに売り飛ばされるみたいだが」


 イリアがぐるぐると自己嫌悪に陥っていたところに、黒い妖精が建設的な話題を切り出す。


 ちなみに彼の混乱はあの後しばらくして治まり、ひとまずの事情は説明してある。

 当然ながら彼は「ふざけるなー」と怒って、冒頭の口喧嘩に発展したのだが、今はそれもようやく落ち着いている。


「行き先はアスキルドって言ってましたね。あそこは町の往来で堂々と奴隷売買が行われているっていうから」

 あの国のことを考えるとイリアは少し気分が沈む。


 奴隷大国アスキルド。

 文字通り、奴隷の運用と人身売買で国益を得ている大国である。

 有用な人材を買い取り、他国に高く貸し出すようなこともしている。

 イリアは復興の手伝いの折りに何度か関わることもあったのだが、正直あまり良い印象がない。


「んー、このままイリアが売りに出されても困るし、どこかで隙を見て逃げ出すしかないかな。どう? 元魔王様。今の状態でもただの紐や縄くらい切れるでしょ?」


「気軽に言ってくれる。あと元魔王とか言うな! ん~、まあ、なんとか今の状態でも小さな刃くらいは作り出せそうだが」

 小さな指先に魔素を集中して、黒く薄い刃のようなものを形成する妖精。


「ま、だけど俺にお前らを助ける義理はないよな。お前たちまで解放して、また袋の中に放り込まれたらたまったもんじゃないしな」

 意地の悪い顔をして、彼はイリアたちを助けることを拒否した。



「えっ、冗談ですよね?」

 まさかこんなに困っている人を助けない無慈悲な魔王がいるとは思わずに、イリアは聞き返す。


「何で助けられる気満々なんだよ。俺は今日はお前たちのせいで散々な目にあってんだよ。気に入っていてた土地は追い出されるし、こんなチンケな身体にされるし、挙句の果てにしょうもない人間たちに捕まるときた。お前が勇者だっていうなら自分のことくらい自分でどうにかしろ」


 妖精はご尤もなことを言う。まさか勇者が魔王に諭される日が来るとは。


(でも、人の土地に勝手に城を建てるのは不法占拠ですよー。そこに関しては私に非はないと思うのですが)

 イリアも心の中で言い返す。


「そう言わずにこの子を助けてあげなさいよ。どうせあなた一人じゃ自由に身動きがとれないのだし」

 それを見かねてアミスアテナが助け船を出した。


「あぁ? それはどういう意味だよ」


「あなたは私とイリアから一定以上の距離を離れられないの。まだ説明してなかったけど、あなたの魂は私の結晶の中に封じ込めてあるから。言うことを聞いておいた方が身のためよ」


 さも大したことではないようにアミスアテナは告げる。

 ……助け船は助け船でも海賊船だった。どうやら身柄(魂)を押さえた上で、彼に協力を強要するつもりのようだ。


「はぁあ!? 魂? ふざけるなよ。それじゃあ今の俺は一体何なんだってんだ。魂が入っていない抜け殻だってのか?」

 アミスアテナからの突然の通告に彼は怒り心頭な様子である。


 悲しいかな、彼の憤りをイリアは非常に理解できてしまった。


「魂って言っても正確には魔族の核みたいなものかしら。私の封印も完璧ではないから、多少は漏れ出す魔素がある。今のあなたはその魔素が形作った投影体みたいなものね。だから今のあなたを攻撃しても肝心の核がないから魔王を倒したことにはならない。仮に消滅してしまっても時間が経てばまた復活してしまうの。良かったじゃない、晴れて不死身の怪物になれたわよ」


 皮肉なのか、本心なのか、もしかしたら割と本気で彼女は祝っているのかもしれない。


「なーにが良かっただ。ふざけた封印してくれやがって」


「あら、本当は魔王相手にだって使うつもりのなかった特別な封印術よ。むしろ使用されたことを光栄に思ってほしいわね」


(あ、これは本気だ。この聖剣様はこれが本気で栄誉なことだと思ってるらしい)


「誰がこんなの喜ぶんだよ! もったいないってんなら最後まで使わずにいてくれ。こんなことになるくらいならお前らを無傷で追い返してことを済ませても良かったっていうのに。……というか今の話だとお前を壊せば封印は解けるってことじゃないのか? ……よし、ちょっと待ってろ、今すぐ派手に壊してやるから」

 イソイソと自分を縛っている紐を切り始める元魔王。


「まあチャレンジするのは自由だけど。……先に言っておくと絶対に無理よ。私、『純正』の聖剣だから。今のあなたなら触れただけで消し飛ぶんじゃないかしら」


「な、聖剣程度にそんな力があるわけないだろ? 脅しにもならねえぞ」


「聖剣程度って。あなたもしかして……」

 彼の発言からなにか思い至ったようにアミスアテナが言葉を口にしようとしたその瞬間、


「魔獣だー!!」

 馬車の外から、異変を告げる大声が響いてきた。

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