町を探ろう
「わ、わかりません。ある者は女の幽霊を見たといい、またある者は子供だったり、男だったりと……さらには、町の住人のほとんどが目撃しておりまして……」
男が言うには、町に現れる幽霊の性別などは様々らしい。ときには子供の姿で現れ、またある日には動物として。規則性すらない状態で現れていた。
「…………なるほど。では聞きますが、時間などは決まっていたりしますか?」
「じ、時間でございますか?」
「はい。もしも決まっていたのなら、少なからず対処の使用があると思いますので」
一貫性があれば、その時間に対応することは可能ではないだろうか。全 紫釉は、そう考えてみた。
けれど男には首をふられ、現れる幽霊たちの時間は決まっていないと口述されてしまう。さらには、昼間ですら姿を見せる事例もあると教えてられてしまった。
「そう、ですか……」
──そうなると、本当に幽霊なのか。怪しいな。そもそも昼間に、堂々と人間たちの前に姿を現す幽霊なんて……
聞いたことがない。
全 紫釉のように初めから視えるのならば、話は別となるだろう。けれど普通に考えて蘇州・山塘街の住民は、幽霊を視る力を持ってはいないはず。
多少は視る力を持っている人がいてもおかしくはない。けれど町の住人の大半がというのは、まず、あり得ないことだった。
「……そうなると、ひとりひとりに話を聞くというのは、かなり難しそうですね」
──手当たり次第……は、無理そうだなぁ。
若干、手詰まりになってしまう。それでも青秀山へ入るために解決しなくてらならないため、重たい腰をあげた。
「どこまでできるかはわかりませんが、やれるところまではやってみます」
「……っ! あ、ありがとうございます!」
男は、最初に会ったときとは比べものにならないほどに誠実になっている。深々と拱手し、何度もお願いしますと言っていた。
全 紫釉も拱手して、役所を後にする。
□ □ □ ■ ■ ■
役所を出たふたりは、さっそく調査を開始した。
けれど幽霊が苦手な爛 梓豪は乗り気ではない様子。背中を丸め、しくしく泣いていた。どんよりと青い顔をしながら、トボトボ歩く。
「なあ阿釉、幽霊なんてほっとこうぜ?」
全 紫釉に手を引っぱられる彼は、めそめそしていた。ひたすら嫌だと首を左右にふり、その場にしゃかんでしまう。
「何を言っているんですか!? 怖いからって、放置はできません。何よりもあなたは、仙人でしょう? 仙人になった以上、好き嫌いはできないはずですよ!?」
「やーだーー! 幽霊に遭遇するぐらいなら、お師匠様に説教される方がまだマシだ!」
「子供ですか!?」
「子供でいい! 俺は、赤ちゃんでいいんだーー!」
動こうとしない彼の腕を無理やり引っぱった。重石を動かしているような感覚に見舞われながらも、全 紫釉は必死に彼を起こそうとする。
──この人、普段はこんなわがまま言わないのに。そのぶん、たちが悪い。
周囲の人たちからは、クスクスと笑われていた。それでも彼は幽霊が嫌だと、頑固一点張りになっている。
「……爛清、あなたねぇ」
ふと。あることを思い出した。それは過去、出会った頃の町で起きた事件のことだ。
そのときは妖怪たちの思惑も絡み、少し複雑になってしまう。けれど……
「……あれ? でもあなたは最初の事件のとき、子供たちのこと、怖がっていませんでしたよね?」
母親を亡くしたさんにんの子供がいた。その子供たちは既に死んでいて、黒無相の力でこの世に留まっていたに過ぎない。けれどそれは、幽霊というものになるはず。
それなのに彼は、今回のように怯えたりはしていなかった。むしろ好意的で、楽しそうに子供たちと過ごしていた。
「あ、あれは……幽霊だって気づかなかったからさ」
「……あー。なるほど? つまりは、最初から幽霊ってわかってるものは無理と?」
「……うっ! だってさ、幽霊ってわかってて対峙しようとか思わねーし」
とどのつまり、今回のように幽霊というものだとわかっている存在は、恐怖心の対象だった。子供たちのように途中からわかった場合に限り、割りきって接することができる。
彼はモニョモニョと、口を尖らせながら言った。
「……め、めんどくさい人ですね」
頭痛を覚えてしまう。
それでも目的を果たすためには、是が非でも協力してもらわなければならなかった。苦手を克服しろとまでは言わないけれど、仙人としての仕事はするべきだと叱咤する。
「あなたは、何のために仙人になったのですか? 仙人の称号は、何に使うためですか?」
人々のためではないのかと、黒い衣を深く被りながら問いかけてみた。
彼は唇を強く噛みしめる。そして両頬をたたき、気合いを入れた。
「…………そう、だった。俺、怖いとか言っていられない立場になったんだよな。仙人は誰かのために。困ってる人のためにある。そう、だよな?」
「ご自身でそう思うのなら、そうなんだと思いますよ?」
彼の手を握り、ふふっと微笑する。
「は、はは。俺、かなり弱気になってた……かも?」
「ふふ。珍しいものが見れました」
──幽霊を克服はさすがにできないだろうな。それでも仙人の資格の意味を考え、怖いながらも必死で頑張る。
そこに、爛 梓豪らしさがあった。同時に、改めて好きという気持ちに、胸が高鳴っていく。
「……それでは、調査を開始しましょう」
彼への想いを胸に、幽霊調査を始めた。
ふたりはさっそく、幽霊が出たという場所に赴いた。けれど数えきれないほどにあるため、ある程度絞っていく必要に駆られる。
「──ありえないぐらいに、目撃情報の山だな」
宿屋のすぐ近くにある切妻屋根の酒場で、机の上に町の地図を広げた。けれど地図は黒丸まみれ。とてもではないけれど、地図として使い物にはならなかった。
「ここまで黒丸だらけとなると、頭が痛くなりますね?」
黒丸は目撃情報があった場所を指している。けれど町のほとんどがそうなってしまっているため、これでは何の役にもたたないのではないだろうか。
ふたりは盛大なため息をついた。
「躑躅が今、嘘の報告を探り当ててくれてますから、ある程度は減ると思いますけど……」
──それでも、結構残りそうだなぁ。
終わらない捜索に業を煮やし、机に伏せってしまう。ふと、肩を軽くつつかれた。顔をあげれば、何か言いたそうにしている爛 梓豪がいた。
「…………?」
「いや。阿釉……さっき、躑躅が云々って言ってただろ? どういうこと?」
「ああ。それですか」
躑躅とは、全 紫釉が飼っている蝙蝠だ。頭の上に乗っていることが多く、かわいらしく小首を傾げてはキューキュー鳴いていた。
その躑躅は嘘を見抜く能力を持っている。正確には霊力の流れを感じ取り、妖怪や幽霊などの存在の気配がわかるという仕組みだった。
「嘘ならば、そこに幽霊の気配が残っていないのは明白。それを取り除いていくことで、ある程度は減らせるかと」
「蝙蝠、すげぇ……」
彼の感心する声をよそに、全 紫釉の表情は曇っていく。
──探した中で共通点とかあれば、解決策はあるかもだけど。
一握りの希望を胸に、地図を見下ろした。




