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相棒と行く、謎解き香る禿(とく)王朝の歩き方  作者: 液体猫【鳥籠の帝王 GoodNovelにて契約連載中】
【出会いの章】底抜けの明るさを持つ男と、儚げな男
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昇格試験開始

 爛 梓豪(バク ズーハオ)全 紫釉(チュアン シユ)は試験に挑むべく、担当となる者のもとへと向かった。



「うげっ!」


 担当者の顔を見るなり、爛 梓豪(バク ズーハオ)は一気に青ざめてしまう。両膝を折って、顔を隠しながらべそべそ泣いてしまった。


「……師匠の顔を見て、一番最初に放つ言葉がそれか? いい度胸をしているな。馬鹿弟子よ」

 

 腕を組んで爛 梓豪(バク ズーハオ)を睨むのは、爛 春犂(バク シュンレイ)だった。糸目をすっと開き、はあーとため息をつく。そして彼の隣にいる美しい人──全 紫釉(チュアン シユ)──を見つめた。


「……やはり、この男を選んだのだな」


 誰にたいしての言葉なのだろうか。

 意味深めいた発言をした後にふたりを見て、ふっと微笑む。


「え!? お、お師匠様が笑った!? 鉄壁で石頭って恐れられてて、笑うことがない能面の持ち主って言われてる、あの、お師匠様が!?」 


「お、ま、え、は! いちいち、腹のたつ言い方をしおって! 相変わらず、よく喋る口のようだな!?」


 ぎゅうーー。爛 春犂(バク シュンレイ)が、彼の頬を思い切りつねった。意外とよく伸びる頬を引っぱりながら、爛 梓豪(バク ズーハオ)……ではなく、全 紫釉(チュアン シユ)を凝視ししている。


 全 紫釉(チュアン シユ)は拱手しながらすっと頭を下げた。


 すると爛 春犂(バク シュンレイ)は彼の頬から手を離し、全 紫釉(チュアン シユ)へと向きなおる。


「今日から数ヶ月の間、私が、そなたたちの昇進試験を見届ける。身内だろうと、手心は加えぬ。そのつもりで、挑んでくれ」


 男の言葉を聞き、全 紫釉(チュアン シユ)は黙って頷いた。


「よろしい。では、試験内容を伝える」


 泣きべそをかき続ける爛 梓豪(バク ズーハオ)を無視し、男からの説明が始まる。


 爛 春犂(バク シュンレイ)という男が彼らに与えた試験の内容は、街に出て謎を解くというものだった。

 ただ、その過程でいくつかの条件がつけ足されていく。

 ひとつは、ふたりで手を組んで解決すること。ふたつめは、必要以上に仙術を使ってはならないこと。そして彼らふたりが互いを信頼し、無事に試験を終えること。


 これが、彼らに出された試験だった。


 ひととおり伝え終わると、爛 春犂(バク シュンレイ)は落ちこんでいる爛 梓豪(バク ズーハオ)を見下ろす。首根っこを捕まえ、嘆息した。


「馬鹿弟子、お前に問う。仙人になるための手順は何だ?」


「……え? て、手順、ですか? えっとぉ……」


 額から汗を流す。視線だけで全 紫釉(チュアン シユ)に助けを求めた。


 全 紫釉(チュアン シユ)はため息をついて、長い銀髪を耳にかける。脱いだ黒い衣を畳んで、水色の華服の袖へとしまった。

 爛 梓豪(バク ズーハオ)とは違い、まったく笑わない。無表情にも近いかたちで、薄い唇を開いた。


「──あなたを含む私たちは、まだ道師の状態です。人にはない不思議な力を持っていたとしても、普通の人が少しだけ能力を得た程度……赤子同然なんです」

  

 道師は特殊な力を持つ者たちの中でも、未熟な存在となっている。仙人という天上の者たちの指示のもと、力をふるうことが許されていた。

 そして彼らが今行っている昇進試験こそが、仙人へと上りつめるために必要なことだった。

 

「そしてさらに上……仙人の中でも二つ名を所持している者が、頂点に立つ存在です」

 

 道師という未熟者から始まり、仙人へと昇格。そして最後は二つ名を得られるような偉大な仙人へとなること。この昇格試験へ挑む者たちは皆、最終目標として二つ名を求めていた。

 

「なかには二つ名を求めず、仙人という資格だけを求める者もいますが……」


 淡々と、感情のない瞳で説明をする。瞬間……


「……っ!」


 爛 梓豪(バク ズーハオ)に軽く手を握られた。驚いて彼を注視する。


「な、何をして……」


「んー? 何でだろうな? 何か……」


 爛 梓豪(バク ズーハオ)はニカッと、白い歯を見せて笑った。風に靡く全 紫釉(チュアン シユ)の長い銀髪を指に巻きつけ、先に軽く口づけをする。


「そう、しなきゃいけないような気がしたんだ」


 全 紫釉(チュアン シユ)とは知り合ったばかり。それでもなぜか(・・・)、大切にしたい。

 そんな気持ちが生まれたのだと、屈託のない笑顔で話した。


「……へ、変な人」


 突然手を握られた全 紫釉(チュアン シユ)は、彼の手をふりほどく。そっぽを向き、少しだけ頬を膨らませた。

 そして握られていた手を見つめ、瞳を細める。


 ──熱い。彼に握られていた手が、とても熱い。どうしてなんだろう?

 

 下を向いて、瞳を強く閉じた。


「ありゃりゃ。嫌われちゃったか」


 方や爛 梓豪(バク ズーハオ)、口ほどに落ちこんではいないよう。裏表のない笑顔を浮かべたまま頬を掻いた。




「……こほんっ!」


 何の前触れもなくふたりだけの世界に入りこんだ彼らを現実に戻したのは、爛 春犂(バク シュンレイ)の咳払いだ。

 彼らを見つめながら肩をすくませ「話を続けてもよいか?」と、視線のやり場に困っているよう。


 ふたりは慌てて拱手し、顔を見合わせながら苦笑いした。


「よいか? 先ほど全 紫釉(チュアン シユ)が答えたように、最終目標とも言える二つ名までの道のりは楽ではない。それを踏まえて、今一度問う」


 男の糸目が、静かに開く。


「本当に、仙人……強いては、二つ名を目指すのか。それを確認したい」


 爛 春犂(バク シュンレイ)の低い声だけが、ふたりを誘った。


 ざあーと、秋の風が紅葉を宙へと浮かばせる。ふたりはそれを目で追い、再び拱手した。同時に頭を下げ、目上の存在でもある男を直視する。


「──私、全 紫釉(チュアン シユ)は全力を持って、この試験に挑みます」


 銀の髮を揺らすことなく、中性的な声を放った。


「俺……爛 梓豪(バク ズーハオ)もまた、阿釉(アーユ)とともに、頂上を目指すことを誓います」


 彼もそれに習い、少しだけ低い声で告げる。




 そんなふたりを見た爛 春犂(バク シュンレイ)は静かに頷いた。そして彼らの後方を指差す。


「お前たちの第一試験は、ここから程近い町で行う。そこでは最近、不穏な死を遂げた母親がいるようでな。仕事場で鼻血を出して倒れ、そのまま……という、ことらしい」


 その事件の解決をしろ。


 それが課題だと、誰よりも低い声で伝えた。


「……事件解決、ですか?」


 おおよそ、仙人になるために必要とは思えなかったようで。全 紫釉(チュアン シユ)は小首を傾げては、大きな目を瞬いた。


「うむ。試験合格に必要なのは、何も仙術だけではないからな。冷静な判断ができることはもちろん、それなりの知識も必要となる。まずは、お前たちがどの程度知識を持っていて、それを発揮できるか。それを調べたい」


「……承知いたしました。それでは、私たちはさっそく……って、爛清(バクチン)?」


 会話に参加することすら放棄したかのように、爛 梓豪(バク ズーハオ)は押し黙っている。両腕を組み、首をひねっては唸っていた。


 彼の行動を不信に思った全 紫釉(チュアン シユ)は、大丈夫ですかと声をかけながら肩を揺らす。

 すると爛 梓豪(バク ズーハオ)全 紫釉(チュアン シユ)の白い手に触れ、苦く笑った。爛 春犂(バク シュンレイ)を凝視し、あることを問う。


「お師匠様、その母親ってのはもしかして……食堂で働いてたけど、幼い子供たちを残して亡くなったって人ですか?」


「うん? お前、なぜそれを知っている?」


 男は驚愕しながら目を見開いた。これから説明しようとしていたようで、紙を手にしながら彼の言葉をなぞる。


「……やっぱり、あの子たちだったのか。あ、いえ……街で落とし物を探しているときに、たまたま知り合って」


 顔を青ざめさせながら、自身のお尻をさすった。


「お前はまた、何かを落としたのか?」


 訝しげな視線が、彼を突き刺す。


 爛 梓豪(バク ズーハオ)は慌てふためき、全 紫釉(チュアン シユ)の手を握った。


「じ、じゃあさっそく、街で聞きこもうぜ。それじゃあお師匠様、また明日!」


 挙動不審なままに全 紫釉(チュアン シユ)を引っぱり、そそくさと立ち去る。




 残された爛 春犂(バク シュンレイ)は、爛 梓豪(バク ズーハオ)が何かをやらかしたと察知したようだ。小さくなっていく姿を見つめながら、盛大にため息をつく。


「まったく、本当にあの馬鹿弟子は……まあ、阿釉(アーユ)がついているから心配な……いや、駄目だ。余計に心配だ」


 げんなりとしながら肩を落とた。風に遊ばれる紅葉たちを見送り、不安だと呟いたのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 事件の謎を解くことが試験ですか……こういう事件への導入もいいですね!
[良い点] 明るく活発で、エネルギッシュな爛清と相反して、どこか幸薄で儚げな青年である阿釉のキャラ性はとても魅力的でした。例えるのであれば、まさに陰陽五行のそれと言っても過言ではないでしょう。二人の微…
[良い点] プロローグの皇帝が暗殺される所とその前が緊張感があって良かったです。その後に登場する主人公もキャラと口調が独特でこれも良かったです。 [一言] ここまで読みました。
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