チョコレートじゃないから食べられるチョコが好きだという話
私はチョコレートがあまり好きではない。
苦くて独特の甘ったるいにおいがする、口の中で粘っこく変形していくあの塊が苦手だ。
銀紙に包まれてすかしているのが腹立たしい。
事あるごとにスイーツの代表面をするのも気に食わない。
ちょっと気温が高くなるといきなり固形から液体に変わるのが忌々しい。
いつの間にか小さな欠片がひざの上に落ちていて、知らぬうちに勝手に溶解して布地に染み込む根性が憎らしい。
恋の一大イベントで重要なポジションを確保してのさばっているのが許せない。
やたらとお高く止まっているのも実に鼻につく。
高級チョコレートだの、ショコラティエだの、カカオ100%だの、クーベルチュールだの、テンパリングだの、ダークだのミルクだのブラックだのトリュフだの生だの純だの…しちめんどくさい名称がわんさかあって、さもド素人はしゃしゃり出てくるんじゃねーよと言わんばかりなところがムカつくのだ。
やけに高い値段を誇っているのも我慢がならない。
たった三粒で500円、たかが80グラムで1000円、たかだか一箱で2000円。
明らかに……高すぎる!
日本の天下の宝刀、美味い棒を見よ!!あれは一本10円だぞ?!ちょっと前に値上がりしたけど、それでも12円!!いきがっていたところで、たった三粒では40本強の人気菓子に埋もれるくせに!グラムあたりの表面積じゃまったく勝てないくせに!!一円あたりの体積が貧弱すぎるくせに!!!
チョコレート、チョコレート、ああにっくきチョコレート。
なんでお前らはそんなにも茶色いのだ。
どうしてそんなに地味な色なのに人気をほしいままにしているのか。
いけしゃあしゃあと華やかな世界を席巻しているのはなぜなんだ。
……だが、私とて……、チョコレート一派に属している奴らはすべからく悪と決め付けて迫害に勤しむような、頭の固い血も涙もない冷淡な鬼ではない。
チョコレートという存在すべてに苛立ちを覚えるのかといえば、決してそうではないのだ。
私は、チョコレートというくくりの中で端っこにいる、弱弱しい存在には寛大だ。
チョコレートのくせに苦くない、ただただ甘いやつ。
チョコレートの香りをちょこっとだけ持っている、まさに・・・チョコ。
いわゆる、準チョコレート菓子というやつだ。
パフと絡まりあった食感が最高なやつ、口の中でなかなか解けていかない根性のあるやつ、クッキーにみっちり乗っかってるやつに細長いクラッカーにこびり付いてるやつテカテカ輝くボタンっぽいやつマシュマロの中にもぐりこんでるやつ細かい粒粒でっかいバーにアイス包んでるやつただ割れてるだけのやつ!
チョコレートでありながら、実に慎ましやかでけなげなチョコ。
チョコレートでありながら、実に財布に優しくほほえましいチョコ。
チョコレートでありながら、実におだやかにさりげなく日常に混じるチョコ。
チョコレートではあるけれど、チョコレートではない。
チョコレートは食べたくないけど、チョコは食べたい。
チョコレートじゃないから食べられる、チョコが私は大好きなのだ!!
チョコ、チョコ、チョコ……ああ、なんという愛らしい!!
なんでキミ達はそんなに美味いのだ。
どうしてキミ達はこうも私の心を捉えて離さないのか。
気がつけばキミ達をほしいままに買い集めてしまうのはなぜなんだ。
……間も無く、秋が深まり、やがて冬となる。
夏の日差しから逃げ出していた、ヘタレチョコレートどもがでかい顔をしてのさばり始める季節だ。
チョコの皆さんが比較的いつも通りに売り場に並んできっちりとお勤めを果たしていたというのに、引っ込んであぐらをかいていた奴らが偉そうにズドンと前に出張ってくる季節だ。
ええい、忌々しい!!
チョコの皆さんの勤勉さを踏みにじる、チョコレートどもめ!!
私は今年も、すかしたやつらには目もくれず……ちょこたんを愛でるんだからね?!
……ということで。
私はレジ前にずらりと並んだ、徳用チョコを一箱買ってきましたよというご報告と共に、このお話を〆させていただこうと思います、はい。