実家SIDE 妹(キュリー・サイエンス)の家出
「父様、テオ兄様を追放したなんて嘘ですよね!? 街の人達がみんな悪口言ってました!!」
私、キュリー・サイエンスは街から屋敷に戻り、書斎で作業している父様に詰問する。嘘だと言って欲しい。
「<賢者>を授からない者はサイエンス家の一員ではない。ましてや〈ロストテクノロジー〉などという石投げしか出来ない無能な外れスキル持ちを手元に置いておく理由などない。お前も淑女になるのだから騒ぐんじゃない」
「そんな、酷い!」
「信託の祭殿で殺さなかったのがせめてもの情けだ。あいつ(テオドール)のせいで我が家の評判は地に落ちる。全く忌々しい限りだ」
その表情は肉親を語るものではない。まるで作物の出来具合を話すかのような口ぶりで作業を続けている。
テオ兄様は父様の背中を目指してあんなに一生懸命頑張っていたのに!!
感情のままに口を開きかけた所で『ズドンッ』。
屋敷が縦揺れし、思わずたたらを踏む。
震源は地下────ルーズ兄様(長男)の魔法研究室からだ。
「全く、アイツもアイツで少しは節度を持ったらどうだ」
苛立つようにやや大股で退出する父様。
ポツンと一人書斎に取り残される。
肩を丸めてため息をつく・・・二人共自分勝手だ。
血を分けて肉親すらも道具として考える父親。私には優しくしてくれるけど粗暴な長男。
改めてこの家はテオ兄様(次男)によって成り立っていたんだと痛感させられる。
「私も賢者を授からなかったら追放させられるのかな・・・」
魔法の勉強をするのは大好きだったけど、<賢者>になりたくて勉強していたわけではない。
大好きなテオ兄様と一緒にいられるからしていたわけなのだから・・・。
テオ兄様のいない屋敷に意味はあるのか?───私が飛び出せば父様も考えを改めてくれるんじゃ・・・!
「テオ兄様、待っていてください。キュリーはこれから向かいます」
◇ ◇ ◇ ◇
「テオ、たまには二人っきりで馬車に乗るのも悪くないよね」
「ん?そうだね」
ゴトゴトと馬車に揺られてロストワールド(遺跡都市)
何が楽しいのか分からないけど、アイラ機嫌良さそうに笑みを浮かべている。
何となくキュリー(妹)を思い出す。あの子も何が楽しいのか分からなかったけど、一緒に魔法の修行をしている時はアイラと同じ風に笑っていたっけ。
「・・・キュリーは元気にしてるかな」
「え?キュリーちゃん?あの子、テオに懐いてたよね。元気にしてると思うけど───まぁ怒ってるだろうね」
「うん、そうだよね。勝手に出てったわけだからキュリーは怒ってるよな」
「怒る相手が違うわ。キュリーちゃんはテオじゃなくてバニティおじ様のことを怒ってるの。外れスキル───よく分からないスキル(ロストテクノロジー)を授かったからっていきなり追放なんて酷い話よね」
キュリーが怒っている姿を想像する。いくら正義感が強いからってまさか父上に噛み付くなんてことは───流石にないよな。うん。
もしもの話をしていてもしょうがないので気持ちを切り替える。
「アイラ───その、なんだ、追放されてから真っ先に駆け付けてありがとう。正直心細かったんだ」
「な、何よ急に素直になっちゃって。でもそんなテオも素敵。テオの有能さを世に証明して国に凱旋しましょ!そうすればキュリーちゃんともお話出来るでしょ」
世に自分の有能さを自慢したいというのはないけど、知らない人から後ろ指をさされずに僕は生きたい。<賢者>にはなれなかったけど人生の落伍者ではなく『キュリーのお兄ちゃん』でいたい。
「うん、そうだね。冒険者として頑張るよ」
「そうこなくっちゃ!テオ素敵よ」