ヒロイン遭遇
「さよなら。みんな・・・」
サイエンス家の屋敷の裏門からそそくさと出る。
見送るものは誰もいない。
幸いなことに妹のキュリーと出くわすことはなかった。外れスキルを引いたことをあの子に説明しなくてよいことをほっとしている自分がいる。
最後にもう一度、屋敷(我が家)を振り返る。
・・・これからどうしよう?
僕は一人ぼっちだ。僕に関心を持つ人は誰もいない。褒めてくれた人達は僕を褒めてくれたのではなく、家(サイエンス家)を褒めていたわけだ。
◇ ◇ ◇ ◇
王都に出て誰も僕に関心がないというのは誤りであることにすぐに気付いた。
街の人の視線が痛い。
誰も彼もが僕を好奇の目、見世物の動物を見るような視線を送る。
「ぷぷぷっ、見ろよ、外れスキルのテオドールだぜ」
「ほんとだ!生きてて恥ずかしくないのかね。俺だったら死んじゃうよね」
「手塩をかけて育てた子供が外れスキル持ち・・・。バニティ様も気の毒だな」
分かっていたが・・・、分かっていたつもりだけど辛い。
決して表情は出さずに前だけを見て王都の外を目指した。
───景色が変わる。一面に広がる草原と茶色の街道。
大きく息を吐く。ここなら人の目を気にせずにいられる。
「キー!キー!キー!!!」
「・・・上!」
頭上にモンスター・・・ハーピー(人面鳥)が3匹いる。
戦闘慣れしない旅人の天敵だ。こういったモンスターがいるからこそ街の外に出る際は護衛を雇うのが常識だ。
「『ファイアボール!』」
「ギャッ!?」
無詠唱で生み出した火球をハーピーにぶつける。
3匹ともまっ黒焦げになって落ちてくる。全滅だ。
僕が外れスキル持ちだったとしてもこの程度では遅れはとらない。<賢者>になるためにずっと修行を重ねてきたんだ。
今となっては無駄だけどね・・・。
でもやってきたことは無駄ではないはずだ。どこか知らない土地で冒険者でもやってみるかな・・・。
「クッ、タァッーーーー!!!」
女性の声が聞こえる────この声は・・・。
ダッシュで声の先に向かう。
この声はあの子だ!何でこんな所にいるんだ!?
モンスターの声とあの子の声がどんどん大きくなる。
───いた!
「『ファイアボール!』」
「えっ!?」
「グルルルっ」
放った火球は───外れた!
モンスターと少女が距離を取る。
少女────アイラ・ブレイブハートがいる。
サイエンス家が知恵の家系なら、ブレイブハート家は武門の家系だ。
両家は先祖代々の付き合いがあり、僕とアイラも幼少の頃より一緒に過ごしている。
「アイラ!どうして君がここに!?」
「それはこちらの台詞よ!」
「とりあえず目の前のモンスターを何とかしよう!」
「───っ分かったわ」
目の前のモンスター、サバンナライオンと対峙する。
人間以上の体格、全身の発達した筋肉と、その見事な鬣が特徴だ。
周辺フィールドの王者として君臨し続けるモンスターであり、討伐に際して熟練の冒険者がチームで挑むのが通例だ。訓練を積んでいるとはいえ、未成年二人が相手をするモンスターではない。
どうするか逡巡した所で不思議な声が脳内に響き渡る。
『戦闘勝利により、ロストテクノロジーがレベルアップしました。使用可能スキルが追加されました』
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LV2
使用可能テクノロジー
▼投石▼
ガトリングガン(NEW)
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「え?」
ガトリングガンって何?聞いたことないよ。魔法なの?
────迷っている暇はない。
「ガトリングガン!!」
『ヴンッ』と空間に切れ目が生じて金属の塊が出現する。
金属が甲高い音を立てて回転しだすと・・・
ダダダダダダダ!!!!
「うわっ!」
「キャァー!!!」
「キャーン!!!!!」
炎と煙が断続的に発生し、サバンナライオンが不自然なダンスを踊り始める。
ダンスが終わる頃には原型を留めないボロ雑巾と化していた。
「えっ・・・」
「何なのこれ・・・」
『敵対生物の打倒を確認。ガトリングガンを解除します』
ガトリングが切れ目に収納され、切れ目も消えてしまう。
謎の外れスキル、<オーバーテクノロジー>。
これは本当に外れスキルなのか?もしかしてとんでもないスキルなんじゃないだろうか・・・。