第九話 結界狩猟
「ライトフットっていう魔物なんだけどね。とってもすばしっこいの」
先頭をいくミーファのあとに続いて森の中を歩く。
「放った矢より速くて、羽根より軽い。捕まえるのは至難の業だけど、とっても美味しいんだよ」
「わー、あたしたちも食べてみたいねぇ」
「何体か捕まえられたら分けてあげてもいいよ。ただし!」
「わかってる。魔石にしないように、だろ?」
「ふふん、わかってるじゃない」
機嫌はすっかり直っているようで安心する。
「じゃあ、ミーファちゃんが依頼を出したのは、そのライトフットのお肉が食べたいから?」
「半分はそう」
「じゃあ、もう半分は?」
「……誰にも言わないでね?」
ミーファは照れくさそうに話してくれた。
「今日、お母さんの誕生日なんだ。それに一度でいいからライトフットのお肉を食べてみたいって言ってたから。それだけ!」
顔を真っ赤にしてそっぽを向く。
それを見て俺たちは顔を見合わせた。
「お姉ちゃんたちに任せて、絶対に捕まえて上げるから」
「どうにかしてみせるよ、必ず」
「ほんと? ……じゃ、じゃあ頼りにするから、絶対に捕まえてよね!」
理由を知って決意を新たにしつつ、ライトフットの住処へと向かった。
§
「ここだよ、この辺にいるんだって」
整備された道を途中で外れ、獣道を歩いた先。
白い花が各地に散見される場所につく。
この辺りがライトフットの住処みたいだ。
「市場にほぼ出回らないって話だったけど、生息地ははっきりしているんだな」
「うん。捜せば普通に見つかるよ」
「でも、捕まえらんないのかー」
それだけすばしっこいってことだ。
気合いを入れないと。
「ん?」
そうしている間に、視界を白いなにかが高速で横切る。
それに釣られて視線を向けると、白い綿毛を木の根元の辺りに見つけた。
「あ、あれだよ! ライトフット」
「あれが」
その白い綿毛には長い耳が生えていて、赤い瞳が見える。
「兎だな」
「兎だねぇ」
その姿は兎によく似ていた。
「ほら! ぼさっとしてないで捕まえて!」
「おっと、そうだった」
「さぁ、行くぞ」
ライトフットを捕まえるために走り出す。
すると、それを敏感に察知したライトフットが跳ねる。
瞬間、弾丸のような凄まじい速度で森の茂みへと消えていった。
「なんで私が依頼を出したかわかった?」
「あぁ、こりゃ一筋縄ではいかなそうだ」
矢より速く、羽根より軽いの看板に偽りはなさそうだ。
「とりあえず、人手がいるな」
スキルを発動して結界獣を幾つかつくる。
熊のような大型のものではなく、素早い小型のものだ。
形は狼のものにする。
移動用に中型の狼も二体ほど作ってみた。
「わぁ、これお兄ちゃんのスキルなの?」
「あぁ、乗ってみるか?」
「いいの? やったぁ!」
中型の結界狼の背に跨がり、後ろにミーファを乗せる。
「いーなー。あたしもミーファちゃんと一緒に乗りたい」
「いいから乗るんだ」
「ふぁーい」
もう一体の結界狼にマドカが跨がり、準備は完了。
「さぁ、もう一回だ」
結界狼たちを一斉に動かし、ライトフットを狩りにいく。
「結界獣で追い立てるから」
「そこを捕まえればいいんでしょ? 了解!」
「じゃあ、飛ばすぞ!」
更に加速して森の中を駆け回る。
「わぁ! 凄い凄い!」
後ろでミーファがはしゃぐ中、白い綿毛を幾つか視認した。
早速、小型の狼たちを先行して回り込ませ、大きく吼えさせる。
それに驚いたライトフットたちが弾丸のように跳び、いくつかが俺たちのほうへとくる。
「来たぞ!」
「任せて!」
狼の背の上でマドカがスキルを発動した。
「陽光」
瞬間、太陽のようなまばゆい光が放たれる。
それはライトフットの赤い目を眩ませると共に結晶化し、オレンジ色の檻となった。
その内側に捉えられたが最後、幾ら跳ねようが出ることは叶わない。
「一体ゲット!」
その最中に、こちらも動く。
ライトフットの軌道を読み、タイミングを合わせて結界を張る。
正方形の四角の中にライトフットを閉じ込めた。
「こっちもだ」
残念ながら狙いを定めるのに必死でほかは逃がしている。
でも、今のでコツは掴めた。
「仕切り直してもう一回だ!」
「オッケー! 」
それから同じことを何度か繰り返し、十分なライトフットを捕まえることに成功する。
結晶と結界の檻を前にして、ミーファは満足そうに頷いた。
「ありがとう! これでお母さんに食べさせてあげられる!」
「よかったねぇ。その笑顔が一番の報酬だよぉ」
「いい感じにまとめたな」
これでクエストも達成できたしな。
「あとは運ぶだけだな」
「うん。お母さん、喜んでくれるかな?」
「もちろん、喜ぶに決まってるよ。ほら、行こ行こ」
結晶の檻が浮かび上がり、俺も四角の結界を持ち上げる。
「あ、そうだ。お兄ちゃんたち気をつけてね」
「あぁ、大丈夫だ。逃がしたりしないから」
「そうじゃなくて! 捕まえたライトフットを横取りしてくる魔物がいるの!」
そうと聞いてすぐ俺とマドカで周囲を見渡す。
「美味しいけど捕まらないから横取りしちゃうんだよ」
「なるほど、狡賢いな」
「ウズールって名前」
そりゃ狡そうだ。
「でも、周りにはいないっぽい?」
見渡してみるが、それらしい姿はない。
「――お兄ちゃん! 上!」
咄嗟に顔を持ち上げると、いた。
木と木の間に鉤爪を刺して止まる、蜥蜴のような、カメレオンのような魔物。
口から長い舌を垂らしたそれは、こちらが気づくと共に落ちてくる。
「野郎ッ」
即座に結界を張り、周囲を丸ごとガードした。
結界の上に落ちたその魔物――ウズールは、顔を近づけて長い舌でなめ回している。
まるで入り込む隙間を探しているかのように。
「ど、どうしよう。目を付けられたら逃げても里まで追ってくるから……ミーファたちの、盗られちゃう」
「そうはさせないから安心しろ」
「そうそう。ちょーっと待っててね」
二人でミーファの頭を撫で、結界狼から降りる。
「行くぞ、マドカ」
「うん。やっつけちゃお!」
視線を合わせ、意見を同じくし、俺たちは結界から出てウズールと相対した。
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