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第八話 結界焼鮭


 早朝、いつもの結界住宅にて。


「ねぇねぇ、試しに二人でクエストやってみない?」


 キッチンで鍋を掻き混ぜていると、そう提案された。


「そう来たか」

「誘っても返事は同じだろうからねー」


 今回は搦め手で来たってわけか。


「トウヤもいつかはパーティー組むでしょ? その予行演習ってことで、どう?」

「そうだな……たしかにそうかもな」


 いつかはパーティーを組みたい。

 助っ人じゃない、本当のパーティーを。


「わかった。じゃあ、頼むよ」

「ほんと!? やった! じゃあ、なにする? どんなのがいいかなー」


 はしゃぐように反応して、マドカは勢いよく携帯端末を取り出した。


「えーっとねぇ」


 マドカがクエストを選んでいるうちに、グリルの様子を見る。

 火の魔法陣の火力を調節しつつ、鮭の焼き加減を伺う。

 今のところは良い感じだ、時折油が落ちて瞬間的に光ったようになるのも見える。


「あ、これは? 魔物の捕獲だって。場所はエルフの里」

「捕獲ってことは食用目的か」

「そうみたい。とっても美味しいんだけど、狩猟が難しいんだってさ」

「だから、こっちの世界に依頼が来たってことか。おっと、出来た」


 グリルを引っ張り出して二切れの鮭の焼き加減を見る。

 黒く焦げた部分は少なく、いい色合いでよく火が通っていた。


「俺たちが倒すと魔石になるから注意しないとな」

「だねぇ。逆にほかの種族がこっちで魔物を倒すと魔石になるんだから面白いよね」


 そう言いつつマドカは食卓に着く。

 土鍋のご飯、鮭の切り身を結界食器に乗せて浮かべて運ぶ。

 鍋の中の味噌汁は危ないので手に持って食卓へと付いた。


「ありがと。うーん、いい匂い! 味噌汁もあるしね」

「やっぱ、朝はこうだよな」


 そう言いつつ手を合わせる。


「いただきます」


 今日も元気に一日を始めよう。


§


「じゃ、受注してくるね」

「あぁ、任せた」


 クエスト受注をマドカに任せ、冒険者組合のエントランスで一人待つ。

 マドカに任せているのは、俺が現状パーティーを組んでいないため。

 ソロの俺が受注すると手順が増えて時間がかかるのでマドカが買って出てくれた。


「おい、見ろよ。トウヤだぜ」


 一人がけのソファーに腰掛けていると、遠くからそんな声がする。

 視線をそちらにやると、虫食いの獣耳が見えて思わずため息を吐いた。

 その後ろにも見知った顔がいくつかある。知らない顔もいるな。


「よう、どうしたんだ? こんなところで」

「見りゃわかるだろ? クエストだよ」

「ほー、今度はどこの助っ人だ?」

「助っ人じゃない、仲間と行くんだ」

「仲間? お前にそんな奴がいたとは驚きだ。肝心な時にしか役に立たないのに」

「そんなこと言ってるともう手を貸さないぞ」

「あぁ、別に構わないとも。うちにはお前の代わりに優秀なのが入ったからな。紹介してやるよ、セインだ」


 そう紹介されたのは知らない顔の獣人だった。

 俺やラインよりもすこし年下のように見える。

 まだ少年って顔つきだ。


「セインのスキルはなんと反射だ。防御だけでなく反撃も出来る。お前と違ってな」


 ラインはにやつきながら、セインの肩に手を回している。

 二つの顔が並ぶとそっくりに見えた。

 名前も似ているし、もしかして。


「弟か?」

「あぁ、よくわかったな。自慢の弟だ」

「嫌だな、兄さん。人前で褒めないでよ」


 兄とは違って弟は謙虚みたいだ。


「そうか、それはよかった。おめでとう」

「チッ、相変わらず反応が薄いなお前は」

「まぁな。お陰様で受け流すのには慣れてる」


 腹の中では言いたいことが沢山あるけど。

 今はまだなにも言わないでおく、今はまだ。


「つまんねぇ。お前みたいなのとクエストに行こうとしてる物好きが奴がどんなのか見て見たいもんだぜ」

「あたしだけど?」


 声がして誰もが振り返ると、そこにマドカが立っていた。

 クエストの受注が終わったらしい。


「どいてくれる? 邪魔だから」


 その声はどこか刺々しい。


「ほら、行くよ。はやく」

「あ、あぁ」


 返事をして立ち上がると、マドカは振り向いてラインと向かい合う。

 そして虫食いの獣耳が生えた顔を指差して言い放つ。


「あんた嫌い!」

「なっ、はぁ!?」


 戸惑うラインを余所に、マドカは俺の手を引いてその場から去る。

 足取りにも力が入っていて、怒っているようだった。

 いや、怒ってくれている、か。


「ありがとな、マドカ」

「べつに。あたしが勝手にムカついただけ」


 その優しさに、今日は救われた。


§


 異界型ダンジョンの入り口を抜けると、視界いっぱいに緑が見えた。

 巨木が立ち並び、天井を形成する枝葉の隙間からは星空のように光がちらついている。

 地面はならされていて平たく、そこから道が続いていた。

 訪問者のためにエルフが整備したものだ。


「んー、ここは空気が美味しいねぇ」

「あぁ、そうだな。澄んでるっていうか、透明っていうか、とにかく神秘的だ」


 神話の中にいるような感覚になる。


「行こっか。依頼人が待ってるし」

「だな」


 整備された道を歩き、エルフの里へと向かう。


「あ、見て見て。木の上に道がある!」

「ホントだ。あれがエルフの道か」


 歩きながら見ていると、ちょうど一人のエルフが木の上を駆けていく。

 枝から枝へと飛び移り、音もなく過ぎ去る。

 その身のこなしは達人級で、あっという間に見えなくなった。


「行っちゃった」

「あれだけ森を駆け回れたら楽しいだろうな」


 パルクールみたいだ。


「お、見えてきたな」


 過ぎていったエルフを追い掛けるように道を進むと、エルフの里が見えてくる。

 すべてが木の上にあるログハウスの集落だ。

 木から木へ通路が繋がり、複数の樹木が柱として機能している。


「凄いねぇ」

「凄いなぁ」


 そんなエルフの文化を感じられる光景に圧倒されていると、一人のエルフが降りてくる。

 駆け寄ってきたのは顔つきの幼い子供のエルフだった。


「あなたたちがクエスト受けてくれた冒険者の人?」

「あぁ、そうだけど。じゃあ、キミが?」

「そう。私があなたたちにクエストを出したの。ミーファよ、よろしくね」

「うんうん、よろしくね。ミーファちゃん」


 子供好きなマドカは軽く膝を折って視線を合わせる。

 けれど、それが気にくわなかったのか、ミーファはすこし頬を膨らませた。


「ミーファはもう大人なんだから子供扱いしないで」

「そうなの? ごめんごめん。いくつ?」

「きゅ、九歳だけど。もう心は大人だもん」

「そっかー。そうだよねぇ。女の子は成長が早いもんねぇ」

「むぅぅ」


 にこにことするマドカと不服そうなミーファ。

 それを眺めていると、とても微笑ましい気持ちになれた。

 ちなみにエルフの平均寿命は、かつて想像されていたほど長くない。

 百二十歳くらいだ。

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