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第五話 結界密度


 異界型ダンジョンに一歩足を踏み入れればそこには別世界が広がっている。

 青い空、白い雲、どこまでも広がる草原に、横たわる森林。

 後ろを振り返ると石材を絶妙なバランスで組み合わせたゲートが口を開けている。

 ここを潜れば元の世界だ。


「さて、やることやるか」


 ゲートのほど近くに結界で色つきの一軒家の拠点を建て、同時にゴーレムを数体ほど作った。

 結界ゴーレムに結界で作った袋を渡し、森林へと向かわせる。

 クエストに必要な花や薬草を採取してもらうためだ。


「気をつけてな」

「ぐごごごごご!」


 てくてく歩いて行くゴーレムたちを見送り、結界住宅へと入る。


「荷物、荷物っと」


 リビングに荷物を下ろし、一息をつく。

 このままソファーに腰掛けたい気分が、ぐっと堪えて玄関へと向かう。

 そんな折り、この家が大きく揺れた。

 いや、揺らされた。


「な、なんだ?」


 壁や天井の色を抜いて周囲を見て見ると、この家に齧り付いている魔物が見えた。

 どこからかやってきた大型で、見た目は肉食恐竜と大差ない。

 食べ物かなにかと勘違いしているのか、がじがじと何度も牙を立てている。


「悪いけど、新築なんでな」


 スキルを発動して結界住宅の形状を変化。

 鋭く研ぎ澄まし、突き出すように屋根の一部を変形させる。

 それは魔物の口腔から後頭部へと突き抜け、一撃で絶命へと至らしめた。


「ガァア……アァ……」


 力なく倒れ、巨体が横たわる。

 それを確認してから玄関扉へと手を掛けた。


「あれ」


 しかし、開かない。 

 横たわった魔物の死体が邪魔になっているからだ。


「出られないじゃん……」


 魔石になるまで足止めをくらってしまった。

 今度から裏口を作るようにしよう。


§


 大型の魔物が魔石となり、ようやく修行に望めるようになった。

 スキルを発動して結界刀を構築し、刀の製法をなぞるように結界が幾重にもなって刃と化す。

 完成したそれを掴み、鍔に魔法陣を刻んで刀身を燃え盛らせる。

 そして、勢いよく振り下ろすと火炎の刃が飛んだ。

 その威力は以前と同様に強大で、草原の緑に黒い線を長く刻みつけた。


「やっぱり威力が強すぎるな」


 軽く振ってみたり、ゆっくり降ってみたりしたが、結果は同じ。

 どんな振り方をしても、火炎の刃の威力は衰えない。

 そろそろ草原に申し訳なくなってきた。


「でも」


 魔法陣を消した結界刀を地面に突き刺し、新たに結界剣を構築する。

 面の部分に魔法陣を刻み、刃に炎を纏わせる。

 それを軽く振って虚空を断つと、同じく火炎の刃が飛んだ。

 ただし、それは結界刀のものよりもかなり小規模なものとなる。


「なにが違うんだ?」


 形が関係しているとか?

 そうつらつらと考えてみるが、答えは出ない。


「んー……そう言えばゴーレム……遅いな」


 ゴーレムたちが向かった森林へと目を向ける。

 もうそろそろ戻ってきても良い時間だが、まだ姿は見えない。


「埒があかないし、気晴らしに迎えにいくか」


 両方の腰に結界刀と結界剣を差し、軽い足取りで森林へと向かう。

 乱雑に生えた木々、枝葉に覆われた天井、落ち葉の絨毯。

 歩くたびしゃりしゃりと音がする中を進んでいるとゴーレムたちの採取痕が見つけられた。


「ここにいるのは間違いないな」


 木の根に足を取られないように注意しつつ更に進む。

 すると、騒がしい音がし始め足を進めるたびに大きくなっていく。

 気になって駆け足になると、なにが騒いでいたのかがわかった。

 魔物の鳥だ。

 それが集団で何かを襲っている。

 その中心には結晶のゴーレムたちがいた。


「ぐごごごご!」


 ゴーレムたちは必死に花や薬草の詰まった袋を守っている。

 魔物を迎撃できるような装備は付けていないから、あれが精一杯。

 俺はすぐに飛び出した。


「よくもうちの子を!」


 右手に結界刀を持ち、左手に持った結界剣には魔法陣を刻んで風を纏わせる。

 同時に勢いよく斬りかかり、結界刀で魔物の一羽を切り捨てた。


「キィイイィイイイィイイッ!」


 突然の乱入者に魔物たちは一斉に離れていく。

 だが、逃げはせずに上空を旋回し始めた。


「様子を見に来てよかった」


 まぁ、ゴーレムも袋も結界だから壊れることはないだろうけど。


「さて、どうするか」


 あの様子だと逃がしてくれそうもない。

 風を纏わせた結界剣を握り締め、上空に向かって振るう。

 火炎と同じように風の刃が飛翔したが、かるく躱されてしまった。


「威力が低すぎるか。でも……」


 かと言って結界刀を振るうのは気が引ける。

 振るえば必ず木々の何本かが巻き添えを食うし、倒れてくる木に気を取られることにもなる。

 出来れば最終手段にしたい。


「キィイイィイイイイィィイイ!」


 上空の魔物たちはその鋭く尖ったくちばしで照準を定め、弾丸のように突撃する。


「とりあえず」


 周りを囲むように半球状の結界を張り、魔物たちの突撃を防ぐ。

 結界と衝突した嘴は勢いよく砕け散り、それが四方八方で頻発する。

 そのうち誰も突撃してはこなくなった。


「このまま移動してもついてくるよな、こいつら」


 結界ごと移動して拠点まで行けるが、見逃してはくれなさそうだ。

 拠点の周りでキーキー言われちゃ、修行にならない。

 ここで仕留めきるのが一番楽だけど。


「地道に行くか」


 結界をすり抜けて自分だけ外に出る。

 すると、嘴の砕けた魔物が再び飛来し、今度は鋭い鉤爪を伸ばしてきた。

 それを結界刀と結界剣を交差させて受け止める。

 重い衝撃と共に刃と鉤爪が擦れ合い、火花を散らした。


「ん?」


 その最中に気がつく。

 重ねた結界刀と結界剣で透明度が違うことに。

 結界剣のほうがより透明で、結界刀は不透明。

 その違いを探っていると閃いた。


「そうか、密度だ」


 両手に力を入れて振るい、挟みのように魔物を立つ。

 そうして結界刀を一度掻き消し、再構築。

 鍔に風の魔法陣んを刻んで上空へと向かって振るう。

 そうして放たれた風の刃は、ちょうどいい威力で空を舞う魔物を断ち切った。


「なるほど」


 飛ばした刃の威力は、刀身の密度に比例する。

 結界刀を作る際には結界を何度も折り込んでいた。

 だから威力が高く、そうしなかった結界剣は低かったんだ。


「今のが二重ふたえで、なら」


 結界刀に更に結界を折り込む。


「これが三重みえだ」


 放った風の刃が複数の魔物をまとめて斬り裂いて過ぎる。

 撃墜されたそれらは落ちる過程で魔石と成り、ぽろぽろと落ちてきた。


「キィイイィイイイイッ!」


 続々と仲間が落ち、魔物たちは一斉に攻撃を仕掛けるが関係ない。

 何度か振るえば風の刃が複数発生し、そのすべてを斬り裂いた。


「ふぃー。これで完璧だな」


 威力調整も結界の密度でできるとわかった。

 これでもう暴発してボスを倒すなんてことを防げる。


「ぐごごごごご!」


 達成感で溢れていると、ゴーレムたちが結界を叩く。


「あぁ、そうだな。頼んだ」


 結界を解くとゴーレムたちはせっせと散った魔石の回収をし始める。


「出来た子だ」


 転送の魔法陣を設置すると、次々に投げ込んでくれた。


「お疲れ、じゃあ拠点に戻るぞ」

「ぐごごごごご!」


 ゴーレムたちを労いつつ、引き連れて森を出る。

 拠点に戻るとどっかりとソファーに腰を下ろした。


「はぁー……シャワー浴びるか」


 こういう時このスキルが心底便利だと思う。

 どこでも体を清潔に出来るのはいい。

 脱衣所で服を脱ぎ、魔法陣を起動してシャワーを浴びる。


「つめたっ」


 あとで冷水が出ないように魔法陣をいじっておかないと。

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