第四話 結界料理
「あははっ、あはっ、あはははははははっ!」
「笑い事じゃないんだよ、こっちは」
「だ、だって、だって! ダンジョンごとボスをぶった斬ったって、あははははははっ!」
「はぁ……」
森林に建てた、結界の一軒家にて。
マドカはソファーの上で笑い転げていた。
「お、お腹いたいぃ……あり得ないでしょ、そんなこと……ぷふふっ」
「あぁ、そうか。楽しんでもらえてよかったよ」
「はぁー……落ち着いてきた……」
笑い疲れたのか背もたれにぐったりと身を預けている。
「でも、いいじゃん。そんなこと出来るならどこでも即採用だよ。さぁ、うちに来なさい!」
「まだダメだ」
「えー、なーんでー」
「力加減が出来ないんじゃ意味ないだろ。仲間ごとぶった斬ったらごめんじゃすまないんだぞ」
「むー、そっかぁ」
火の魔法陣の上に置いた結界フライパンにベーコンを敷いて卵を落とす。
肉の焼けるいい音と匂いがして、一気に腹が減ってきた。
塩こしょうと適量の水を入れて蓋をする。
「半熟と完熟どっちがいい?」
「半熟ー」
「おっけ」
火の調節をしつつ、朝食が出来るその時を待つ。
「とりあえず、適当なクエストを受けて異界型のダンジョンに行くことにする」
「あー、遺跡型とか、この街のどこかだと、色々と被害が出そうだもんねぇ」
ダンジョンには大きく分けて二つの種類がある。
一つは昨日も攻略した遺跡型。
ダンジョンと聞いて一番に思い浮かべるようなスタンダードなもの。
もう一つは異界型でこのダンジョンの内部には別世界が広がっている。
異なる魔物、異なる種族が生息し、そしてとてつもなく広い。
なんらかの理由で街が壊滅したら、異界型のダンジョンに移住する計画もあるとかないとか。
とにかく、そこなら被害を気にすることなく、存分に練習できる。
「いつもと逆のことで悩むようになるなんて、ちょっと面白いよね」
「嬉しい悲鳴って奴だ。状況は随分とよくなったよ、本当に」
それも元はと言えばマドカのお陰なんだよな。
あの時、花の結界を作るように促されなかったら、こうはなってない。
自体が好転したのは、紛れもなくマドカがいたからだ。
「なに? どったの? じっと見て」
「――あぁ、いや、べつに。ぼーっとしてただけ」
「あはは、なにそれ。ベーコンエッグ焦がさないでよー」
「わかってる。ちょうど頃合いだ」
蓋を開けると水分はきちんと蒸発し切っていた。
結界で皿を二つ作り、マドカと自分の分を乗せる。
それを浮かべて食卓へと送りつつ、フライパンの隣にある結界土鍋の蓋を開けた。
湯気と共に粒だった米が現れ、結界しゃもじで結界茶碗によそう。
それも食卓へと送ると、マドカもソファーから食卓に移動してきていた。
「土鍋ご飯にベーコンエッグかぁ。朝って感じがするよ」
「ホントは味噌汁もって言いたいところだけど、また今度だな」
「じゃあその時も結界の試行錯誤に付き合ったげるよ」
「飯が食いたいから?」
「まぁねー」
椅子を引いて席に着き、手を合わせる。
「いただきます」
食前の挨拶をして、俺たちは結界の箸を手に取った。
§
冒険者組合に向かい、クエストの受注を済ませる。
内容は特定の花や薬草を一定数採取すること。
いずれの対象もこれから向かう異界型ダンジョンに生息している珍しくないものだ。
報酬もそれなりに安いが、あくまで修行のおまけ程度に考えて置こう。
「お? よう、トウヤ」
「ん? あぁ、ラインか」
その虫食いの獣耳を見間違うはずもない。
獣人のライン。
俺が最初にパーティーを組んだ相手で、俺に肝心な時にしか役に立たない男の烙印を押した奴だ。
「どうだ? 最近調子は」
「まぁ……普通だよ」
「はっ、相変わらず結界に引きこもってばっかりか。ちっとは外に出たほうがいいぞ」
「あぁ、今度からそうするよ。忠告どうも」
「チッ、つまんねーな」
こちらの反応が薄いと見ると、悪態をついて去って行く。
憂さ晴らしでもしたかったようだけど、相手になってやる必要はない。
こういう手合いは受け流すに限る。
それに今の俺は防御一辺倒だけってわけじゃない。
今に見てろ、って奴だ。
「さて、行くか」
気を取り直してエントランスを抜けて外へと出る。
その足で異界型のダンジョンへと向かった。
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