第二話 結界住宅
町外れにある人気のない森林にて。
「狼」
「ワォオオオオオッ」
「熊」
「グォオオオオォオオッ」
「鷹」
「キィイィイイイィイイッ」
目の前にはリクエストに応えて結界で作った狼、熊、鷹がいる。
しかも三体とも自らの意思があるように動いているし、こちらの指示にも従う。
吼えろと言えば吼えるし、回れと言えば回る。
待てと言えば待つし、宙返りといえば宙返りした。
気分はサーカスの調教師だ。
「ホントに凄いじゃん。しかも本物みたいに柔らかいし」
狼とじゃれ合いながら、マドカは柔らかな毛並みを撫でる。
「まぁ、元々結界の強度はいじれたし、柔軟性を持たせるのも出来たけど……」
丸まって休憩する熊に手をやる。
体温は感じないが、感触は毛並みを撫でているそれと変わらない。
毛の一本一本まですべて結界で、元の動物を再現している。
このスキルにそんな高度なことが出来るなんて思わなかった。
「じゃあ、次はこの子たちの家だね」
「家? そうだな、どうせなら一戸建てにするか」
そう言いながらイメージを固め、木のない開けた所に範囲を指定する。
「おぉー」
結界はいつも通りに構築され、瞬く間に組み上がる。
すぐに見上げるほどの高さとなり、すべてが透明な家ができた。
「ちゃんと鍵もついてるのか」
いつの間にか手元にあった鍵を差し込んでひねると解錠する。
玄関扉を開いて中に入ると、二階の部屋まで見渡すことが出来た。
「凄い、凄い! ちゃんとした家になってる」
「さっきから凄いしか言ってないぞ」
「だって凄いじゃん。こっちがリビングだ」
廊下を渡り、リビングへの扉を開く。
きちんと椅子とテーブルがあってテレビもある。
無論、張りぼてだけどリモコンは用意されていた。
「ソファーもふっかふか!」
「流石に水は出ないな」
キッチンの流しに触れるも水は出ない。
「いや、待てよ?」
結界で動物も家も作れるなら、もしや。
「えーっと」
「なにしてんの」
腰の雑嚢鞄を漁り、目的のものを取り出す。
「魔法陣集?」
「そうだ。えーっと、水の魔法陣は……これだ」
水の魔法陣が描かれたページを開き、蛇口にそれと同様の形をした結界を配置する。
すると、大気中の魔力と反応して魔法陣が起動し、蛇口から水が流れ出した。
「あははー……あたしはもう驚かない」
「出来るだろうとは思ったけど……」
とてつもないことをさらっとやった気がする。
「あ、ねぇ。これでシャワーとか出来る?」
「火の魔法陣と組み合わせると出来ると思うが、なんで?」
「さっき汗掻いちゃったからさー」
「浴びてく気か!? いや、そもそも透明だし、内から外から丸見えだぞ」
「そこは、ほら。色とか付けられるでしょ? 家が建てられるんだし」
「出来る、かも知れないけどさぁ」
警戒心がなさすぎる。
「俺がその気になればって考えないのか?」
「うん。だって灯也だし」
「……」
信頼されているのか、度胸なしと思われているのか。
たぶん、マドカのことだし前者なんだろうな。
「わかったよ。そこまで言われちゃあな」
「さっすが、灯也。ちょっとなら覗いてもいいよ」
「バカ言え!」
「あはは、冗談だって」
「まったく」
からかわれながらも風呂場へと向かい、魔法陣を取り付ける。
きちんとシャワーヘッドから湯が出るのを確認し、ついでに脱衣所に温風の魔法陣を配置しておいた。
最後に色つけの作業が終わるとそそくさとリビングへと戻り、ソファーに深く腰を下ろした。
「マジでシャワー浴びてるし」
微かに水音と鼻歌が聞こえてくる。
無意識に耳が音を拾おうとするのを必死で阻止し、意識を自分のスキルへと集中する。
「魔法陣を組み込めばなんでも作れそうだな」
例えば、今朝に見た炎の剣。
結界によって鋭い刃が構築され、一振りの剣が出来上がる。
それに魔法陣を刻み込むと、刀身から火炎が吹き出した。
「コツが掴めてきた」
それから色々と結界で試作品を作っていると、脱衣所からマドカが出てくる。
冒険者の戦闘服を片手に、体のラインが出るほどの薄着で現れた。
「うぉい! 服を着ろ!」
「えー、だって火照っちゃって熱いんだもん。それよりこれは?」
隣に腰掛けた円華は机の上の試作品の一つを手に取る。
「結界でなにが作れるか試してたんだよ。そうだ、これ」
「わぁ、ドライヤーだ。助かるー」
スイッチが入り、魔法陣が大気中の魔力と反応し、温風が吹き出る。
実物と違って音は出ないし、出力も強い。
円華の濡れ髪から余分な水分が吹き飛んでいく。
「これだけ色々出来るなら不遇スキルの汚名返上だねぇ」
「そう……だな」
これで防御一辺倒だった俺のスキルに攻撃手段が加わった。
もう不遇スキルとは誰にも呼ばれない。
助っ人ではなくパーティーの一員として活動できるかも。
「ねぇ」
ドライヤーを置いた円華に押し倒された。
「あたしのとこ来なよ。悪いようにはしないからさ」
体に手を置かれ、熱を帯びた髪が頬に触れる。
「……考えとく」
「期待してた返事と違うなぁ」
「いいから、そこを退いてくれ」
「もー」
ふくれっ面になりながらも、マドカはきちんと座り直す。
俺はため息を吐きつつ、上半身を持ち上げた。
「しばらくはソロで色々とやってみる。で、自分の実力を把握できたら」
「あたしのとこ来る?」
「かもな」
「あはっ! 今日で一番良い返事」
屈託のない笑顔を見せ、マドカはソファーから立ち上がる。
戦闘服に袖を通し、薄着から身形を整えた。
「なら、その時を待ってるよ。首をながーくしてね」
「あぁ」
「じゃあ、またね」
軽く手を振ってマドカはこの結界の家を後にする。
それをリビングから玄関先まで見送り、ソファーの背もたれに身を預けた。
「また、か」
俺のスキルが不遇だとわかって離れていった人は多い。
でも、マドカはずっと気に掛けてくれていた。
恩があるといえば、ある。
「頑張るか」
背もたれから背を離し、再び結界で色々と作り始めた。
明日はダンジョンに行こう。
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