第十一話 緊急招集
結界獣がうろつく町外れののどかな森林にて。
「やっぱり、おにぎりには梅だと思うんだよねぇ」
「定番だしな。俺はおかかのほうが好きだけど」
結界の手袋をはめ、炊きたてのご飯を握る。
目の前には中に詰め込む具材が幾つかあり、これはおかか入り。
ほかにもふりかけやら炊き込みご飯やら、変わり種もある。
「それで? トウヤの今日の予定は?」
「一人でクエスト」
「この前せっかく二人でクエストしたのにー」
「それはそれ、これはこれだ。そのうちって言ったろ」
「はいはい! じゃあ、予約する!」
「予約?」
完成したおかかのおにぎりを置いて、新しく握り始める。
今度は梅だ。
「そ。この次はあたしともう一人の三人でクエスト行こ? ねぇ、いいでしょー」
「んー……」
まぁ、マドカと言ったエルフの里は楽しかったけど。
もう一人が入るとまた話が違ってくるような。
けど、まぁ、なしではないか。
「わかった。予約しとく」
「あはっ! やった、作戦成功!」
こう素直に喜ばれると、嫌とは言えなくなる。
「ほら、朝食が出来たぞ。いろんな具材が選り取り見取りだ」
「どれから食べよっかなー」
最近ではマドカと朝食を共にすることが日常になってきたな。
「ん?」
「お?」
さぁ食べようというタイミングで、互いの携帯端末が音を鳴らす。
冒険者組合から連絡が来たようで内容を確認するとエルフ絡みのことらしい。
「あたしとトウヤが指名されてるってことは」
「ミーファか?」
「でも、緊急招集って書かれてるし」
「とりあえず、行ってみないとか」
互いに頷き合っておにぎりを持って結界住宅を後にする。
今回はいつもと違った一日の始まりだった。
§
異界型ダンジョンの入り口を潜り、森の中に出る。
整備された道を歩いていると、エルフの道を何人ものエルフが移動していた。
「なんだかただならぬ雰囲気って感じだねぇ」
「そうだな。森が騒がしい感じがする」
この前に来た時は静かで神秘的だったのに。
「お、人が集まってる」
道を進んでいると、里の前で人だかりを見た。
全員、冒険者のようでその中には見知った顔もいる。
「ん? なんだ? お前も来たのか。トウヤ」
「あぁ、そうだよ。ライン」
虫食いの獣の耳が目立っていた。
「緊急招集だぞ? なんでパーティーも組んでないような奴が来られるんだ?」
「それは――」
「お兄ちゃん! お姉ちゃん!」
里から大きな声が響き、ミーファがこちらに駆け寄ってくる。
「ミーファちゃん!」
「お姉ちゃん!」
二人は抱き締め合って再会を喜び合う。
ライトフットの依頼から一週間も経っていないはずなんだけどな。
「ミーファね、約束通りに二人を指名したよ!」
「そっかぁー! ありがとね」
「そういう訳だ」
視線をラインへと向ける。
「チッ、そうかよ」
そう言って、ラインは仲間の元へと帰って行った。
「皆の者、よく集まってくれた」
ミーファが現れると共に、エルフの戦士長が現れる。
装備と武器を身につけた姿は、すでに臨戦態勢だった。
「時間がないので手短に話す。すでに知っているだろうが、この里に魔物の群れが迫っている。今までに類を見ないほどの規模だ。放置すれば確実に里が崩壊する。そこで皆の力を借りたい」
「あれ、ミーファのお父さんだよ」
「へぇ、そうなのか」
以前は会えなかったけど、あの人が。
「てな訳だ。エルフの里を守るために俺たちも一肌脱ぐとしようぜ。指揮はもちろん、実力と実績を兼ね備えた俺たちラインパーティーが執る。異論はないよな?」
ラインの視線が俺へと向かう。
「あぁ、もちろん」
「ならいい。俺たちで魔物を蹴散らすぞ!」
ラインの号令に連なるように回りの冒険者たちも叫びを上げる。
士気は上々で恐れを抱いているものはいない。
滑り出しはいい感じだ。
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