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第十話 結界鳥獣


「ケケケケケケケケケケッ」


 薄気味悪い笑い声のように鳴き、ウズールは結界から降りる。

 結界を突破できないと見て、標的をこちらに向けた。


「お兄ちゃん! お姉ちゃん!」

「平気だから、そこで見てろ」


 睨み合いを続け、ゆっくりと歩く。

 互いに仕掛けるタイミングを伺い、その時はくる。

 近くの茂みから鳥の魔物が飛び去り、ウズールから長い舌が飛ぶ。


「おっと」


 結界を張って防御すると、鈍くて重い音が響く。

 その感じからしてかなり威力が強い。

 生身で殴られたら骨が全部砕けてしまいそうだ。


「隙アリ!」


 舌撃を俺が受け止めた直後、マドカが回り込むように駆ける。

 軽やかに駆けて注意を引き、スキルを発動した。


陽光サンライズ


 まばゆい明かりと共に放たれる光の結晶が飛び、ウズールの肩へと突き刺さる。

 同時に爆発が生じ、その周辺に火傷を負わせて仰け反らせた。

 怯んだところへ攻撃を仕掛けるのは用意。

 結界刀の鍔に風の魔法陣を刻み、刀身に結界を折り込んだ。


「ゲゲゲゲゲッ」


 しかし、振るう直前にウズールは舌を伸ばす。

 木の幹に舌を巻き付けて跳び上がった。


「マジか」


 巨体のくせに俊敏だ。

 狙いを定められないように次から次へと飛び移っている。

 これじゃ闇雲に放っても当たらない。


「ゲゲゲゲゲッ」


 更に、ウズールは上空から何かを吐き出し、雨のように降らせてくる。


「マドカ!」

「オッケー!」


 互いに駆け寄り、頭上に結界を張る。

 その直後に何かの雨が降り、そして周囲の草花が急速に原形をなくしていった。


「うひゃー、浴びたら一溜まりもない」

「溶解液か? なんてものを」


 幸い、結界は溶けていないから安全だが、いつまでもこうしている訳にもいかない。


「どうにかして動きを止めないとジリ貧だよ」

「だな。機動力を削ぐなら周りの木を切り倒すのが手っ取り早いけど」

「ミーファちゃんの前では出来ないね」


 エルフは木々を共と呼ぶほど親しみを持っている。

 住処のログハウスも倒木から材料を得ているくらいだ。

 目の前で友達を故意に殺すことはしたくない。


「ケケケケケケケケケケケッ」


 溶解液の雨が止んだかと思えば、舌の弾丸が頭上を叩く。

 それでも結界が割れないと、また溶解液の雨が降った。


「よし、じゃあこうしよう。ライトフットと同じ作戦だ」

「追い立てて捕まえるってこと?」

「あぁ。で、捕まえたところを仕留める」

「オッケー。いつ仕掛ける?」


 溶解液の雨が止み、再び舌が結界を叩く。


「今だッ!」


 頭上の結界を撤廃し、周囲に結界鳥を複数作った。

 それらを飛ばしてウズールを追い立てる。


「ケケケケケケケッ!」


 最初、ウズールはそれを撃墜しようと舌を伸ばしたが無意味と知るだろう。

 結界製の鳥は砕けず、落ちず、吹き飛ばされても翻って返ってくる。

 複数の鋭い嘴に狙われ、ウズールはたまらず移動を開始した。


「俺たちも行くぞ」

「うん! いい子で待ててね」

「頑張って!」


 ミーファにそう告げて、用意した中型の結界狼に跨がり駆ける。

 舌を使って移動するウズールを視界に収めて地上から追う。


「そろそろいいか」


 更に追加で結界鳥を作り、ウズールの行く先に回り込ませる。

 そうしてUターンを強要し、俺たちは互いに向かい合った。


「あたしに任せて!」


 瞬間、マドカのスキルが光を放つ。

 それはウズールの両目を眩ませ、次の動作を阻害し、飛び移りを失敗に終わらせる。

 あえなく落下したウズールを受け止めるのは、光の結晶で出来た檻。

 マドカは見事に捕まえてみせた。


「あとは任せた!」

「任された!」


 結界狼の背に立ち、跳び上がる。

 初めてウズールの上を取り、結界を折り込んだ刀身に風を纏わせる。


四重よえ


 振るい、飛ばした風の刃が視界を両断する。

 光の結晶ごとウズールと断ち、真っ二つに斬り裂いた。


「ゲゲ……ゲ……」


 自慢の舌も半ばから先がなくなり、ウズールは息絶える。

 これでライトフットを横取りしようなんていう魔物はいなくなった。


「流石はトウヤ、一発で決めたね」

「動きを止めてくれたお陰だよ」

「あははー、役に立ててよかった。じゃあ、ミーファちゃんのところに戻ろっか」

「あぁ、待たせちゃ悪いしな」


 予想外の出来事がありつつも、無事に乗り越えられた。

 そのことに安堵しつつミーファの元へと戻る。


「あっ! よかった! 無事だったんだね」

「なんとかな。次が出ないうちに早いところ戻ろう」

「うん。誰にも渡さないんだから」


 そうして俺たちはエルフの里へと帰還した。


§


「まぁ、美味しい。ありがとうね、ミーファ。お母さん、とっても嬉しいわ」

「えへへ、よかった」


 エルフの里の一角にあるログハウス。

 母と子の微笑ましい光景を見つつ、俺たちも御相伴に預かっていた。


「あたし、今日はこれが見たかったんだー」

「俺もだ」


 目の前にはライトフットの肉を使ったシチューや、シンプルな串焼きが並んでいる。

 料理中のミーファはとにかく大いに張り切っていて、実に沢山の料理に挑戦していた。

 手伝っているこっちが疲弊するくらいだ。

 けれど、それだけのことあって料理はとても美味しい仕上がりになった。


「お仕事が終わったらお父さんにも食べてもらうんだ!」

「そうね、きっと喜ぶわ。そうだ、ダメにならないように氷を用意しないと」

「氷室だよね? ミーファが行ってくる!」

「気をつけてね」


 元気よく席を立って、ミーファは家の奥へと消えていった。


「お二人とも、このたびはミーファの願いに付き合ってもらって、ありがとうございます」

「いやいやー、そんな」

「俺たちの仕事をしたまでです」

「あらあら、気持ちの良い人たちね」


 ふふふと、上品にミーファの母は笑う。


「私たちエルフは排他的なところがあるけれど、貴方たちのような人がいるならもっと外界と関わるべきね」

「あははー、なんか照れちゃうね」

「あぁ。まぁ、娘の気持ちが嬉しいんだろうな」


 母親も最高の誕生日が迎えられて幸せなんだ。


「お母さん! 取ってきたよ!」

「ありがとう、ミーファ」

「ふふん! ミーファになんでも任せてね」


 こうして素晴らしい一時が過ぎる。


「もう行っちゃうの?」

「残念だけどな」

「あたしも名残惜しいよー」


 マドカはミーファをぎゅっと抱き締めていた。


「お、お姉ちゃん。ちょっと苦しい」

「あぁ、ごめんごめん」


 こうしていると姉妹のようにも見える。


「お二人とも、今回はありがとうございました」

「またなにかあったらお兄ちゃんたちを指名するからね」

「あぁ、またその時はよろしくな」

「ばいばい!」


 母子に見送られながらエルフの里を後にする。


「いやー、今日は良い日だねぇ」

「夜はぐっすり眠れるな」


 達成感とほどよい疲労感で朝もすっきり目覚められるはずだ。


「どう? 二人でクエスト達成した気分は」

「まぁ、なかなか悪くなかったよ」

「じゃあ次は一人増やして三人でクエストね」

「あぁ――って、三人? マドカのパーティーメンバーか? それ」

「そだよ。知ってる人のほうがいいでしょ?」

「……さては、そうやって外堀を埋めていくつもりだな?」

「バレたかー」

「バレバレだ」


 そうは言いつつも俺の心が傾き始めていることの自覚はあった。

 とても久しぶりだったと思う。

 輪の外から見ているんじゃなくて、輪の中で一緒になにかをする。

 それがこんなに楽しいことだって思い出せた。


「まぁ、そのうちな」

「ほんと? あははっ、ようやくあたしの努力が報われてきたって感じ!」

「そのうちだからな、あくまでも」


 そんなこんながありつつも俺たちはゲートを潜る。

 元の世界へと帰還した。

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