第一話 スキルの真価
ダンジョンの最奥に待ち受ける大型の魔物。
その口腔から放たれる灼熱の炎は、しかし結界によって妨げられた。
どんな攻撃でも、この結界は破れない。
火炎を吐き尽くしてもなお結界は健在。
吐き疲れて消耗した隙をつき、パーティーメンバーがとどめを刺す。
燃え盛る大剣が魔物の喉を捉え、突き殺した。
「よっしゃぁ! 攻略完了! 俺、最強!」
「やったね、これで行けるダンジョンが増えるよ」
「倒してみたら、大したことない魔物だったな」
喜び合う彼らの様子を遠巻きに眺める。
その輪に俺が加わることはない、俺はただの部外者だ。
都合のいい助っ人でしかない。
そんな風に思っていると足下に巨大な魔法陣が浮かび、ダンジョンの外へと転送される。
古びた白亜の遺跡が目に入り、荒れた石畳の上に足をつく。
助っ人の役目もこれでおしまいだ。
「じゃあ、俺はこれで」
「ん? まだいたのか。あぁ、じゃあな」
仲間ではない彼らに別れを告げて帰路につく。
「はぁ……」
無意識にため息を付いていた。
§
俺のスキル結界は防御面で見れば一級品だ。
今まで体験してきたどの攻撃でも、俺の結界を破れた者はいない。
人だろうが、魔物だろうが、だ。
だが、その優れた防御力と釣り合いを取るように、攻撃手段には恵まれなかった。
ただただ防御が出来るだけで魔物を倒せない。
最初はそれでも引く手数多だった。
将来を有望視されているパーティーにいたこともある。
でも、何度か一緒にダンジョンを攻略するうちに誰もが悟るんだ。
俺のスキルは肝心な時にしか役に立たないのだ、と。
防御一辺倒で汎用性に欠け、通常戦闘での出番がほとんどない。
あっても別の誰かで十分に代用できる。
俺が必要になるのはもっぱら高難易度ダンジョンで、それ以外のダンジョンに挑戦する時には寧ろ邪魔でさえあった。
必要な時だけ居て欲しい人材。それが俺で、スキルだった。
「お前って本当に肝心な時にしか役に立たないよな」
今でもその言葉が耳に残っている。
それを言われた直後に最初のパーティーを追い出された。
長続きしたパーティーは一つもなく、助っ人としての日々を過ごしている。
夢見ていた冒険者生活とは、かけ離れていた。
「よっ! トウヤ」
ダンジョンの帰りに街中を歩いていると、肩を叩かれる。
振り返ると同期のマドカがいた。
腰の辺りまで伸びた髪を揺らして、いつものように明るい笑みを浮かべている。
マドカもダンジョンの帰りなのか、冒険者の戦闘服を身に纏っていた。
「なんだ、マドカか」
「なになに? 暗い顔してんじゃん。どったの?」
「別に、疲れてるだけだよ。さっき一仕事終えて来たから」
「あぁ、傭兵稼業ね」
「その言い方は止めろ」
「えー? だってホントのことじゃん。みんなを助けて回ってるんでしょ?」
「引き取り手がなくてたらい回しにされてるんだよ」
「卑屈だなぁ。じゃあ、あたしのとこ来る?」
「女所帯に男一人なんて御免だ」
「わがままだなぁ」
そんな会話をしつつ互いに歩き出す。
「最近どうだ?」
「うん、けっこう良い感じだよ。この前も高難易度のダンジョン攻略してさー。大変だったなー、あれは」
「へぇ、楽しそう」
「まぁね。みんな友達だし、気が合うし、楽しいし」
「羨ましい限りだよ。俺には縁遠い」
「うち来る?」
「うち行かない」
「なーんでー」
ふくれっ面になるマドカを見てかるく笑みが浮かぶ。
「もうみんなにも話を通してあるのにー」
「むしろ、なんで行くと思ったのか」
「ハーレムじゃん。絶対、食いつくと思って」
「俺には姉と妹がいるんだぞ? 女所帯の息苦しさは知ってるんだ」
「夢ないねぇ」
「現実主義なの」
それに結果は見えてる。
何度か一緒に行動すれば、俺のことが邪魔になるはず。
なら、最初から期待はしないほうがいい。
一時的に加入する便利な助っ人で十分だ。
「あ、ほら見て。あそこ、あそこ」
「あそこ? おっと」
マドカに手を引かれて行き着くのはとある店だった。
店先にある展示物は綺麗で美しく精巧な硝子の彫刻だ。
馬や兎、魔物と色々な透明の動物がいる。
「綺麗だねぇ、お高いけど。あっ、ねぇ、トウヤ。こういうの結界で作れないの?」
「結界で? 無理だろ」
「やったことあんの?」
「いや」
「じゃあ、やってみてよ。上手く出来たらあたしにちょうだい」
「上手く出来たらって……まぁ、やるだけやってみるか」
今まではただ結界を張るだけで形を意識したことはない。
でも、形状を変えることくらいは出来るかも。
「じゃあ、どれがいい?」
「そうだなー……あ、これがいいな」
「花か。また複雑なものを」
初手で手を出すべき構造のものじゃないけど、まぁいい。
透明な花の彫刻を目に焼き付け、スキルを発動する。
手の平の上で構築されていく結界は、明らかに通常の形状とは違っていた。
細長い茎が作られ、つぼみを付け、花弁が開く。
見事に開花したそれは硝子の彫刻に負けず劣らずの美しいモノになった。
「わぁ! 凄い、凄い! ホントに出来た! やれば出来るじゃん!」
「ホントだな……」
自分でも驚いている。
まさか、こんなに上手くいくとは。
「じゃあ、やるよ」
「あ、ほんとにいいの?」
「いいもなにも、そういう話だったろ?」
「じゃあ、えへへ。ありがと、トウヤ」
差し出した結界の花を受け取り、マドカは優しく微笑んだ。
そのしおらしい反応に、すこしどきりとする。
「わー、ロマンチック」
「彼女さん、いいなー」
「ねぇ、私もああいうのしたいな」
気がつけば、周囲に小規模な人だかりが出来ていた。
誰も彼もが勘違いをした状態で。
「あ、あははー……なんか照れちゃうね」
「柄にもないことしたな」
互いに苦笑いをしていると、唸るような咳払いが側から聞こえてくる。
見れば店の店主が腕組みをしてこちらを睨んでいた。
店先で商品を複製した上にこの人だかりだ、怒るのも当然だ。
「あー、えーっと……お求めはこちらのお店でー」
参考にした花の硝子を手で差し、周囲の人に宣伝をする。
すると、彼女にせがまれた彼氏たちが花の硝子を求めて殺到した。
これには眉間に皺を寄せていた店主もにっこりだ。
「今のうちに逃げよう」
「そだね。行こ行こ」
人混みに紛れてそそくさとその場を後にした。
「――ふぃー……ここまでくれば大丈夫そうだな」
「だね。はぁー……汗掻いちゃった」
無防備に胸元をぱたぱたとするマドカからすぐに視線を逸らした。
「どこ見てんの?」
「いや……ほら、そこの鳥だよ」
視線の先に住宅街の上を飛ぶ鳥を見つけた。
「鳥? いきなりバードウォッチング?」
「いや、ほら、あれだよ。次はあれにしようかなって」
「あぁー、結界で鳥を作るのかー。やってみてよ」
「どれ、じゃあ」
誤魔化しついでに鳥の結界を作ってみる。
すると、やはりと言うべきかいつもとは形状の違う結界が構築される。
嘴、瞳、翼、鉤爪、羽毛。鳥を構成するすべてのものが結界で作り上げられた。
それは羽根の一枚すらも精巧に構築され、ついに完成する。
「わぁー……改めてみると凄いねぇ。生きてるみたい」
「まぁ、流石に飛びはしな――」
瞬間、鳥の結界が勢いよく羽ばたき、空へと飛翔した。
俺たちは口をぽかんと開けたまま顔を見合わせ、また視線を空へと移す。
そこには間違いなく、空を飛ぶ透明な鳥がいた。
「飛んだな」
「飛んだねぇ」
一瞬の間があって。
「えぇぇええぇええええええぇぇええ!?」
俺たちは互いに大きな声を上げたのだった。
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