私の嘘
嘘をつきました。
私の最寄り駅は、本当はこの駅じゃありません。本当の最寄り駅は、ここから三つ前、急行が止まる駅なんです。
罪悪感はありました。でも私は嘘をつかざるを得なかった。重い感情を飲みこんで、私は電車のドア越しに、先輩に頭を下げました。先輩はにっこり笑って、手を振ってくれました。そしてそのまま、電車が発車して、先輩の姿がだんだん遠くなってゆきます。あっ、今消えた。
私は先輩の最寄り駅を以前に聞きました。急行が止まる駅なんでしょう? でも、私に合わせて普通電車に乗ってくれるんでしょう? 口に出しては言わないけれど、知っているんですよ。
ごめんなさい。私は嘘をつき続けます。優しい先輩に嘘をつき続けます。
私は階段を降りました。そして、反対側のホームに向かいます。
冬も終わりかけではありますが、やっぱり寒いです。でも私は、先輩とたった五分一緒に居たいがために、二十分かけてこの三駅を余分に往復するんです。
私は先輩に嘘をついて、先輩が私に合わせてくれるのを利用して、わざと普通に乗って、五分間一緒に喋るんです。絶対にそれは譲りません。
十分ほど経ったでしょうか。電車が来ました。ドアが開きました。
そこには、先輩が乗っていました。
なんだか不思議な笑みが浮かんだような気がします。あまり自覚はできていないんですが、先輩が不思議な笑みを浮かべていたから、多分私もそうなんだと思います。