マリアと不思議なクリスマス ～友則さん編～
友則さん、いつも仲良くしてくださり、本当にありがとうございます！
素敵なイラストに、今も癒される日々です＊
お礼といっては何ですが……このお話を、友則さんに贈ります♪
十二月二十五日。
この日、マリアは星祀りの期間中にも関わらず、パルフ・メリエに戻ってきていた。
だが、何も店を開けるわけではない。ただ忘れ物を取りに来ただけの話だ。
「確か、このあたりにしまったような……」
マリアが探しているのは、陽祝いの際にミュシャへ送ろうと思っていた少し特別な便箋で、ミュシャのイメージにぴったりだ、と以前購入したもの。せっかく買ったのに使わないなんてもったいない、とマリアはこうして店へと……いや、正確には、自分の家に戻ってきたのだった。
便箋を見つけ、さて、洋裁店に戻ろうか、という時である。
パルフ・メリエの扉がノックされ、マリアは首をかしげた。
王国の人であれば、星祀りの期間中は、ほとんどの店が閉まっていることは知っているはず。ましてや、こんな森の奥の店なんて、もってのほかだ。
「あ！」
しかし、マリアは店に戻ってきた際、扉にかけていた『CLOSED』の看板を一度外したことを思い出し、声を上げた。まさか、逆さ向きにかけてしまったのでは、と慌てて店の扉を開けた。
カラン、と軽いベルの音が響く。
これが、不思議なクリスマスの訪れを告げる音だとは、この時のマリアが知る由もない。
「メリークリスマス！」
マリアは目をパチパチと瞬かせた。
白いひげをたっぷりとたくわえ、真っ赤な衣装に身を包み、これでもかと大きな袋を持ったおじいさんが、店の前に立っているうえ、突然聞いたこともない挨拶をすれば、誰だってそうなるのも当然である。
「え？」
マリアが驚きのあまり固まっていると、おじいさんは
「マリアさんじゃな？ わしは、君の願いを叶えに来たんじゃよ」
とチャーミングなウィンクを一つ、マリアに投げかけた。
「初めまして……？」
マリアがおずおずと会釈をすると、おじいさんはマリアの方へ手を差し出す。
「はじめまして、マリアさん。わしはサンタクロース。気軽に、サンタ、と呼んでくれ」
「サンタ、さん？」
マリアがキョトンと首をかしげると、サンタはにこりとほほ笑む。そして、まるでおとぎ話をするかのように、面白おかしく、けれど丁寧に、ことの顛末をマリアへ話した。
＊＊＊
「つまり、サンタさんは魔法使いで……クリスマス、と呼ばれる特別な一日……今日だけは、どんな願いもかなえられる、ということでしょうか？」
「まぁ、そんなところじゃな」
サンタがうなずくと、マリアは
「素敵！ そんなことってあるんですね！」
と無邪気に瞳を輝かせた。不思議な話だが、サンタが話の最中にいくつもの魔法を見せてくれたおかげで、もはや疑いなどみじんもない。
「さ、せっかくのクリスマスじゃ。マリアさん、好きな願いごとをすると良い」
サンタに促され、マリアはしばらく、うぅん、と考えていたが、やがて何かを思いついたように「あ！」と声を上げた。
「私たちの国は今、星祀りって期間なんです」
「ほぉ。星祀り、とな？」
「お世話になった方に、贈り物をしたり、感謝を伝える期間のことなんですけど」
「それはまた、素敵なことじゃのぅ。クリスマスと同じじゃわい」
「私、お礼を伝えたい方がいるんです！ でも、とっても遠くにいて、普段はなかなか会えなくて……。その人に、プレゼントを贈りたいんです！」
マリアの言葉に、サンタはにっこりと優しい笑みを浮かべた。
「マリアさんは良い子じゃのぉ」
だからこそサンタも、マリアの前にこうして現れたのだが。
「それで？ 誰に、何を贈るんじゃ？」
サンタの問いにマリアが答える。
「それは……」
「友則さんに、リラックスできる香りをお届けいしたいんですけど……できますか？」
マリアが不安げに尋ねると、サンタはもちろん、と大きくうなずいた。
「必要なものも出せるぞ。例えば、精油、香水瓶、それにラッピングのリボンもじゃ」
「わぁ！ 嬉しいです！ サンタさん、ありがとうございます！」
キラキラと瞳を輝かせてマリアが頭を下げれば、サンタも優しい笑みを浮かべる。
「さ、そうと決まれば早速調香ね！」
こうして、マリアは、サンタとともに調香部屋へと向かうのだった。
「友則さんは、お仕事が忙しそうだから、リラックスできる香りで……」
マリアはうーん、といくつかの精油を思い浮かべる。
睡眠の質を整えてくれるラベンダーは必須だ。それから、スイートオレンジ。上品ですっきりとした香りが、気分をリラックスさせてくれるのである。
マリアが頭に思い浮かべた精油が、ポン、と突然現れる。
「ふぉっふぉっ、わしにはお見通しじゃ。さ、他にひつようなものはないかな？」
サンタに促され、マリアは再び精油を思い浮かべる。
（あともう一つくらい、何か……）
オレンジとラベンダーに相性が良く、睡眠を助けてくれるような。
「そうだわ！ プチグレンなんかもいいかも」
マリアの声とともに、再びポンと現れたプチグレンの精油瓶。マリアはそれをしっかりとキャッチして、三つの瓶を机の上に並べた。
いつも通り、香りをしっかりと確認しながら、分量を丁寧に調整していく。
甘く、爽やかなオレンジがふわりと香り立つ。オレンジ特有の軽やかな甘みが、気持ちを明るくさせ、自然と体の緊張をほぐしてくれる。温かく、穏やかな香りでありながら、みずみずしさを感じる香りは、続くラベンダーと良くマッチする。すっきりとしたハーブ調の香りに、花の優しい甘さが引き立つ。ラベンダーの土っぽい湿った香りが、懐かしさを感じさせ、心をゆったりと落ち着けた。
気づくと、ラベンダーの爽やかなフローラル調の香りに、プチグレンのしっとりとしたウッディ調の香りが混ざって、落ち着いた心がさらに開放されていくようである。森を吹き抜ける風のように、くどくはなく、けれど太陽と木々の緑の香りをしっかりと運んでくれる。
マリアとサンタはその香りに、うっとりと目を細めた。まさにリラックス効果の期待できる香りだ。
「良い香りじゃなぁ」
穏やかに微笑むサンタは、次は香水瓶じゃな、とマリアに続きを促した。
「香水瓶かぁ……。友則さんには、どんなものが良いかしら」
マリアは再び首をひねる。
シンプルなものの方が、友則さんには良いだろうか。美しくて、見ただけでちょっと笑顔になれるような……。宝石のようなカットが入った瓶や、植物の柄が彫られた瓶なんかも可愛いかもしれない。
マリアが思い描いたガラス瓶が次々と目の前に現れていく。さすがは魔法。中にはマリアが見たこともないような技法が使われているものもあり、マリアはしげしげとそれを眺めた。
「これにしようかしら！」
最終的にマリアが手に取ったのは、滑らかな曲線と、ハーバリウムが施された美しいエジプシャンガラス。細長いガラス瓶は雫型、とでも表現するのが良いだろうか、底のほうへいくにつれて丸みを帯びていて、まさに魔法の瓶のようである。フタは葉っぱのような形になっていて、それがまた愛らしい。
（緑色のリボンなら、気品もあって良いかも）
相変わらず仕事の早いサンタの魔法が、まさにマリアが思い描いていたリボンをどこからともなく連れてくる。
サテンの生地が滑らかで、触れた手にもよく馴染む。角度によってチラチラと変わる色合いも美しかった。
香りを移し替えて、瓶にリボンを結べば完成だ。キュ、とマリアは緑色のリボンの羽を整えて、嬉しそうに目を細めた。
「おお！ これで完成じゃのぉ！」
サンタもその目をキラキラと輝かせ、マリアに微笑みかける。
「さ、これを友則さんに届けるぞ」
そういったサンタの手を止めたのはマリアである。
「待ってください！」
サンタがきょとんと首をかしげると、実はもう一つお願いが、とマリアはほほ笑んだ。
＊＊＊
パルフ・メリエの扉が開き、マリアは頭を下げた。
「こんにちは、アイリスさん！」
何を隠そう、マリアが呼んだのはアイリスである。
異世界を渡り歩くサンタなら、異世界から同じように人を連れてくることも出来るだろう、と考えたのだ。
普段なら決して会うことのない二人だが、それを可能にしてくれるのがクリスマスというもの。
アイリスも、友則さんにお礼がしたい、とサンタの話にのっかって、こうしてパルフ・メリエへとやってきてくれたのだ。
アイリスは美しいオーシャンブルーの瞳を輝かせて、柔らかに微笑んだ。
アイリスはマリアの香水瓶の隣に、もう一つ、可愛らしいガラス瓶を並べる。
「本物の調香師さんにはかなわないけど……」
と謙遜するが、マリアにはその香りがどれほど素晴らしいものかわかる。
アイリスは杖を取り出して、ガラス瓶の上に小さな花をポンと咲かせた。
「レモンのお花ですね」
マリアが、可愛い、と目を細めれば、アイリスははにかむ。
「レモンのバスオイルだから。せっかくなら、と思って。これも一緒に送ってもらえますか？」
サンタは、マリアの香水瓶と、アイリスのガラス瓶を見比べて、もちろん、と大きくうなずいた。
それじゃあ、とサンタは手を広げる。
「この紙の上において、魔法の呪文を唱えるんじゃ。そうすれば、二人の願いは友則さんに届くぞ」
担いでいた大きな袋から、サンタは可愛らしいレースの細工が入った紙を取り出した。
マリアとアイリスはその上にそれぞれの贈り物を並べる。
「魔法の呪文って？」
「それはじゃなぁ……」
サンタが二人に耳打ちすると、マリアとアイリスは顔を見合わせてほほ笑んだ。
「それじゃぁ、いきますよっ！」
マリアの掛け声に合わせて、サンタとアイリスも声をそろえる。
「せーのっ！」
「「友則さん、メリークリスマス！」」
お楽しみいただけましたでしょうか……！
いつも友則さんからいただいているたくさんのあたたかな反応の数々には見合わないかもしれませんが……受け取っていただけましたら幸いです＊
※このお話については、友則さんのお好きなようにしていただいてかまいません！
ちなみに、返品は不可ですので、ご了承ください～！
それでは、良いクリスマスを♪
いつも本当にありがとうございます！
